陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「彼岸花」

2010-09-23 | 映画──社会派・青春・恋愛
1958年の小津安二郎監督作品「彼岸花」にも、小津作品のメインテーマともいうべき、嫁入り前の娘に複雑な思いを抱く父親が登場する。だが、過去作「晩春」および「麦秋」に比べると、父の娘にかける愛情はどこかよそよそしく、思いやりに欠ける。ここに登場する父親は、娘がみずから掴もうとする幸福に理解を示さない頑固一徹者。しかし、そんな男が、娘の友人親子に振り回されて気持ちを改めさせられていくくだりは滑稽ですらある。

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商社の取締役の平山渉は、妻と会社勤めの長女節子、高校生の次女久子との四人暮らし。旧友の三上周吉からは家出した娘の文子の素行について相談を持ちかけられ、なじみの旅館の女将、佐々木初からは見合いを拒む娘の幸子について愚痴をこぼされる。駆け落ち同然で男と暮らしているが、しっかりした結婚観を持っている文子、そして顔を見れば縁談を進めてくる母に嫌気がさしている幸子には、同情を寄せ励ます平山。だが、男とつきあったことすらないと思っていた長女の節子に結婚相手がいると知って、態度を硬化させる。

節子の選んだ青年谷口は、平山の会社に雇われの身だが、貧しいアパート暮らし。娘に相応しい婿探しをしていた両親は大慌て。「自分の幸せを自分で掴むのがいけないの?」と親に詰め寄る娘。谷口青年の律儀さにほだされて、妻もいつのまにか娘を応援しはじめているが、平山は頑として気に入らない。結婚式には出ないと言い張るが、佐々木母子にいっぱい喰わされて、最終的には式にも出席し、新婚のふたりが移り住んだ広島まで足を運ぶように図られてしまう。

娘の結婚に反対したのは、蝶よ花よと育てながら袂を去られてしまう父親らしき哀惜の念からと感ずるが、この反目しあった父と娘が和解したシーンも結婚式での場面も削られているために、追うことができない。むしろ、適齢期の娘をもつ老残者の物淋しさが押し出されていた感がある。あえて描かないのは、余韻を残し、想像に委ねるためであろうが、この頑固親父のこと、行った先でも押し黙ったままで帰ってくることが容易に想像される。

また、表題の「彼岸花」が何を意味していたかが、読みとれない内容ではあった。「捨て子花」という異名をあてこんでか、とにかく毒づいた女性の描き方からしてあまり好ましい意味あいではないように思われる。
小津監督作で初のカラー作品であるが、パートカラーをしたように、やたらと薬缶の赤が目についたのは、平山のいう「結婚は金だと思っていても、実際は真鍮にしかすぎない。しかし、真鍮を金に変えていくものだ」という台詞の象徴だったのだろうか。

そういえば、小津作品は、店の看板やポスターなどやたらとデザイン性の高い文字が画面にのさばっているのも特徴的だ。

出演は、佐分利信、田中絹代、有馬稲子。
谷口を演じたのは、あの中井貴一の父親で事故死した故・佐田啓二。
なんともかしましい佐々木母子は、浪花千栄子と、もとミスユニバース日本代表の山本富士子。小津ファミリーの笠智衆は、三上周吉役。


(2010年1月21日)


彼岸花(1958) - goo 映画


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