陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「秋日和」

2010-11-12 | 映画──社会派・青春・恋愛
小津安二郎監督作品は、いつも同じ顔ぶれ、似たような筋書きなのに、ふしぎとなんども楽しめるような作品ばかりです。おそらく、小津作品のもつ独特のほのぼのした味わいが、なんともいえず心地よくてたまらないからなんでしょう。対話中に交互にショットを切り替えて、視聴者があたかも聞き手になったかのように話し手の目線を感じるようなからくりが見事ですし。小津スタイルといえるローアングルからの撮影は、とくに和服姿の女性の帯や足袋の裏など隠されたなまめかしさを追うのにうってつけ。とりたてて、凄まじくもの珍しい事象を扱っているわけでもないのに、じんわりと胸に残るような日本の美しさを表現するのがうまい、といえます。

1960年作の映画「秋日和」は、結婚適齢期の娘と美しい未亡人、ふたりを巡る縁談騒動をユーモラスに描いたもの。「晩春」「麦秋」でおさらいしておけばだいたい展開は読めるのですが、「彼岸花」でみられたヒロインの友人のイケイケ娘の迫力がパワーアップしているような感じを持ちました(笑)

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夫の七回忌を迎え四十を超えても美貌衰えない三輪秋子には、年頃の娘アヤ子がいた。三輪の旧友たちは、アヤ子の結婚相手を探してやろう、と要らぬお節介を焼く。しかし、洋裁を教えている秋子も、商社で事務員をしているアヤ子も、母子水入らずの現在の生活に不満はなく乗り気ではない。
旧友のひとり間宮に、その部下の青年後藤を紹介されたアヤ子は、ほのかに恋心を抱くようになるが、一人残していく母が心配で結婚には二の足を踏む。

本人よりも周囲の方が乗り気で、どんどん話しを進めていってしまうという困りもの。しかもかつてひそかに想いを寄せた美人の未亡人だからして、下心もあろうというもの。娘の縁談をすすめるために、なぜか母親の再婚話まで持ち上がってしまいます。母をそして、亡き父を思うがあまり、アヤ子は秋子と口論に。穏やかな母子の日常に亀裂が入ってしまいます。
日本人だからこそわかる、この曖昧な空気感。はっきり断ることができずやんわりと笑顔で避けるような女のしぐさが、男にとってはいろいろと誤解を呼んでしまうあたりは、頷くばかり。

「晩春」では笠智衆演じる男やもめの父親の再婚の噂に胸を痛めた、あの原節子が本作では同じ立場にたった娘を諭す母親役。原節子が演じた娘はあからさまに不平を示したりはしませんでしたが、時を十年も経れば、女性の発言力も強くなるものか。アヤ子を演じる司葉子は働きに出ているだけあって、かなり快活な女性で真っ正面から、母と衝突してしまいます。誤解が解けて母子は和解し、娘はめでたく幸せをつかむ。独り身になった秋子で終わるエンディングは、静かな笑みをたたえているとはいえ、一抹の寂しさを感じさせます。まさにそれは、来るべき冬を待つような気分でしょうか。

笠智衆、佐分利信、沢村貞子、三宅邦子といったおなじみの小津ファミリーがずらりと出演。
岡田茉莉子演じるアヤ子の友人役はかなり気の強い小娘で、親切心から悪だくみをしたおじさま連中に説教垂れるくだりは、絶妙におもしろい。
料亭で酒を酌み交わす間宮たちが、高橋とよの女将をからかう口調は「彼岸花」と似ていて、思わず笑いが零れます。
後藤を演じたのは、佐田啓二。息子の中井貴一と目は似ていませんが、遠くから見れば立ち居振る舞いや顎のラインなどはそっくりですよね。
新人の岩下志摩が、なんと会社の受付嬢で出演しています。1962年の小津監督の遺作となった「秋刀魚の味」では、ヒロインに抜擢されていますね。

(2010年3月16日)

秋日和(1960) - goo 映画

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2 Comments

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世界の小津監督 (杉村&きょうこ&岩下&けいじ&村石太マン)
2010-11-20 21:44:29
まだ 秋刀魚の味という作品 だけしか 見ていません。笠さんの演技がいいですね。
俺は男だ 男はつらいよ でしかしらないかなぁ。小津監督作品 全作品 我が 生涯で 見たいなぁ
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ハマってしまう小津作品 (万葉樹)
2010-11-27 19:02:50
コメントが遅れまして、すみません。

かくいう私も全作品、網羅はしておりません。その鑑賞歴のなかで申し上げますと。
「秋刀魚の味」もよろしいのですが、おなじ婚活ドラマを扱って原節子も登場する「彼岸花」「麦秋」、老夫婦の哀しみを描いた「東京物語」が特に好きです。
笠智衆さんは小津作品でしか拝見したことがありませんけれど、どんな役柄でもスマートにこなせるタイプですね。夫婦のいざこざを描いた「お茶漬けの味」の佐分利信さんも、けっこう好みです。

小津作品は、とりたててドラマティックなことが起こるわけではないけれど、ほのぼのしますよね。池部良主演の「早春」は、いささか異色作に感じましたけれど。
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