昔、新宿の外れに棲んだことがある。裏には神田川が流れて、南側は広い五叉路の交差点。六階の自室からは、副都心のビル群がよく見えていた。ひとり暮らしの気ままさから、その辺に幾つかの行きつけのスナックがあり、部屋には寝るだけに帰ったようなものである。コンビニのはしりが、その五叉路の近くに出来て、便利なものと思った。
もう、三十年も前の話である。いまはコンビニは何処にでもある。
我が郷は何処にあるのか問うても、すでに失われて久しい。
失われたものは、時の彼方に埋没してしまうが、掘り起こすことも出来る。
そう、文字や言葉で綴れば、ありありと出現する場合もある。
日本の里山。
茄子や胡瓜の畑には、ときおり雉の親子がやってくる。
我が郷は桃源郷とまではいかぬが、貧しくはない。
つましいだけである。
十軒ほどの集落だが、隣家は杜に隠れて見えない。
挨拶はするが、油のような交わりはない。
その我が郷から眺めた、平成21年の日本の有り様は、殺伐として心苦しい風景である。
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