自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

韓国における口蹄疫発生について

2015-03-20 13:26:28 | 牛豚と鬼

7月24日に韓国で豚の口蹄疫が発生しました(OIE公表農水省)。
この件に関して質問が寄せられていますので、取り急ぎお答えしておきます。なお、このブログは口蹄疫対策の問題点を論じるために開設しています。私は獣医ではありませんので、専門的な表現に問題があるかもしれません。また、専門的な話に偏ると一般の方の関心が薄れる場合もあるでしょう。なお、このブログ「牛豚と鬼」は、ブログ「自然とデザイン」の中の「牛豚と鬼」のカテゴリーに移行しました。

まず、口蹄疫対策でワクチンを利用するのは、”感染阻止”ではなく、”感染拡大阻止”のためであることに注意してください。農水省の説明は、「口蹄疫はワクチン接種では感染阻止できない」かのように誤解を与えています。しかも世界の口蹄疫ウイルスの抗原は英国を含めたワクチンバンクに保管されているので、早期発見とウイルス株確認、ワクチン製造依頼、ワクチン接種を待機できる体制を早く準備しておくことは防疫対策の鉄則です。

その他、ご質問の件につきましては、「口蹄疫対策に関する最新の科学的知見と国際動向 -殺処分を最小にする世界最先端の防疫対策を準備すべき-(デーリィマン61,44-45,2011.12)」を参考にしてください。口蹄疫が同居感染する時期は非常に短く、症状発症後半日から平均1.7 日間であることが明らかにされています。殺処分が必要なのはこの短い期間であり、抗体産生後の家畜には同居感染の能力はありません。個体の状態はいろいろなので、個体の感染を問題にするのではなく、集団での感染拡大をワクチンで阻止するのです。また、感染畜から排泄されたウイルスは消毒や移動制限等で感染拡大を阻止します。

韓国では3件が確認(下段囲い記事の最初の2行)がされましたが、その後の発生の報告はなく、感染拡大は阻止されているようです。前回の予防的殺処分が被害を大きくしましたので、発生農場においても全頭殺処分ではなく、口蹄疫の臨床所見が認められた家畜の殺処分、埋却、畜舎内外の消毒、家畜車両等移動制限措置を実施しています(1例目2例目3例目)。また、発生の原因はワクチン接種をしていない家畜がいたことが原因と考えられているようです。

日本の口蹄疫対策はワクチンの積極的利用を考えていないし、その一方で、いまだに発生農場の全頭殺処分および予防的殺処分を感染拡大阻止の対策としています。2010年の宮崎口蹄疫対策は口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(2004年12月1日)によって実施されました。この指針については、「少なくとも5年ごとに再検討を加えるとともに、必要があると認めるときは随時見直しを行うこととする。」とあるにもかかわらず指針の見直しはされませんでした。そして今回の防疫指針(2011年10月1日)についても、「少なくとも、3年ごとに再検討を行う」とあります。牛海綿状脳症(BSE)に関する特定家畜伝染病防疫指針の変更については検討が始まったようです。しかし、もうすぐ3年が経過しようとしているのに、口蹄疫の防疫指針についてはいまだに見直しの委員会等は開催されていません。

日本の獣医学は科学的事実や新しい科学的知見に真摯に取り組まず、現場のことには無関心で、現場に権限は持っても責任を持とうとしていません。メディアも国や国と関係が深い学者の言いなりで自ら調査をしようとしません。そのことで正しい口蹄疫対策が国民に伝わらないし、私がこのブログ等で力説しても国が動かない原因です。

学者や政治家は税金で仕事をする公務員です。税金で働き、生活をしている公務員は真実に誠実に向き合い、国民に責任を持つ義務があります。政治や社会の責任と義務の枠組みを決めてあるのが憲法であり、公務員の憲法違反は殺人罪よりも重い罪が問われるべきでしょう。宮崎口蹄疫の調査資料については5年で廃棄するのだそうですが、隠蔽やねつ造がないのであれば堂々と公開すべきです。公務員の管理する情報は国民のものであり、国民には公務員の管理する情報を知る権利があります。

2014-09-01 07:32:15 初稿 2014.9.21 2015.3.20 更新


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37 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お忙しいところ、非常に丁寧なご回答を頂き、誠に... (豚さん大好き)
2014-08-31 21:40:26
お忙しいところ、非常に丁寧なご回答を頂き、誠にありがとうございます。
内容に関しましては、さらに質問させて頂きたいこともあるのですが、まずは修正依頼を。
細かい話で恐縮ですが、感染防止が可能なワクチンもありますので、上記の記載は修正すべきと考えます。
その他については、後日再度コメントさせて頂きます。
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連投で失礼いたします。 (豚さん大好き)
2014-08-31 21:45:04
連投で失礼いたします。
お伝えしたかったのは、感染症によっては、感染防止が可能なワクチンが存在するということです。
口蹄疫の話ではありません。
しかしあなたの記載では、全てのウイルス病に感染防止が可能なワクチンがないような記載となっていますので、そこは修正すべきかと。
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最初に、当ブログの本筋と関係のない、非常に細か... (豚さん大好き)
2014-09-01 23:10:12
最初に、当ブログの本筋と関係のない、非常に細かい指摘をしてしまい申し訳ありません。
性格上どうしても気になってしまったもので。
いずれにしても、早々に訂正して頂き、誠にありがとうございます。

さて早速ですが、韓国のワクチン接種清浄国認定後の本病再発生に言及したのは、今後本病が、我が国において、万が一不幸にも発生した場合に、その後どういった方向性を目指すかという話に繋がると思ったからです。

あくまで結果論かもしれませんが、2010年の本病発生時(韓国に関しては2011年にもかかっていますが)、ワクチン接種動物を全頭殺処分した我が国は、現在ワクチン非接種清浄国です。
一方韓国は、ワクチン非接種清浄国を目指すことを、中途で断念し、ワクチン接種清浄国を目指す方針に転換しましたが、現状はご存知の通りです。
台湾も同様に、すでにワクチン非接種清浄国はおろか、ワクチン接種清浄国になることさえ諦めてしまったかのような現状です。
輸出国である中国が、汚染国ですから、その気持ちも良くわかりますが。
近々で言えば、フィリピンが、コツコツとワクチン接種と、ワクチン非接種清浄地域の拡大に努め、ワクチン非接種清浄国となりました。
ただし、要した年月は10年を越えています。

畜産業は経済活動であり、家畜は経済動物ですから、どちらの防疫対策の方が経済的にメリットがあったかという点で議論されるべきだと思うのですが、どちらサイドからもそれがないようの思います。

議論の端緒として、この点はいかがでしょうか?
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さらに追加で失礼します。 (豚さん大好き)
2014-09-02 22:30:13
さらに追加で失礼します。
OIEとFAOの口蹄疫に関するレファレンスラボである英国のパーブライト研究所がWeb上に公開しているquarterly reportによりますと、2010年にわが国で分離されたウイルス株と、当時使用されたワクチン株であるO Manisa株との血清学的関連性は、約0.1です。
OIEマニュアルにも記載されてある通り、中和試験での血清学的関連性の判断の場合、0.3以上なければワクチン効果は期待出来ないとされています。
2010年当時、本当にワクチン効果は認められたのでしょうか?
そうだとした場合、上記の血清学的解析成績は、どのように解釈したら良いのでしょうか?
この点に関するご意見もお聞かせ願えれば幸いです。
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貴重な意見をいただきありがとうございます。意見... (三谷克之輔)
2014-09-03 10:50:17
貴重な意見をいただきありがとうございます。意見交換をブログにどのように反映させれば、皆様のご理解が深まるようになるか方法を考えています。できれば、ここのコメントの一部を引用させていただこうかと考えています。

ご指摘の「英国のパーブライト研究所がWeb上に公開しているquarterly report」のアドレス(URL)を教えてください。当時、日本に保管されていたワクチンと英国から緊急輸入したワクチンがありますが、後者のワクチンで感染拡大を阻止したと考えています。この点を確認できたらと思います。また、ワクチン非接種清浄国の扱いの問題は重要な問題であり、問題点を整理して投稿させていただきます。
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コメント頂き、ありがとうございます。 (豚さん大好き)
2014-09-03 23:25:00
コメント頂き、ありがとうございます。
まず最初に訂正です。
2010年にわが国で分離されたウイルス株と当時使用されたワクチン株であるO Manisa株との血清学的関連性が約0.1だと、前回書きましたが、私の記憶違いでした。
パーブライト研究所のquarterly reportには、血清学的関連性、いわゆるr1値は書かれていませんでした。
大変申し訳ありません。
ただし、上記の2株のr1値は0.3以下であり、ワクチン効果は期待出来ない旨は書かれています。
http://www.wrlfmd.org/ref_labs/ref_lab_reports/OIE-FAO%20FMD%20Ref%20Lab%20Report%20Jul-Sep%202012.pdf

それから、私が知る限り、わが国で備蓄されている、あるいは製剤化されずに濃縮抗原として英国のメーカーに凍結保存されている血清型Oのワクチン株は、いずれもO Manisa株とです。
すなわち、当時わが国に備蓄されていたワクチンと緊急輸入されたワクチンは、製造ロットは異なるかもしれませんが、同じO Manisa株です。
そのため、期待されるワクチン効果に関しては、どちらも上記のquarterly reportに準ずるものと考えられます。
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ところで、こちらの文献は読まれましたか? (豚さん大好き)
2014-09-03 23:42:18
ところで、こちらの文献は読まれましたか?
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvms/74/4/74_11-0271/_pdf
こちらを見ると、ワクチン接種後、発生数が減ったと書かれていますが、考えようによっては、以前にこちらで別の方が指摘されていたように、単に感受性動物が地域内からいなくなったため、見かけ上発生例が少なくなったとも考えられます。
私は当時現場に出向いたわけでもありませんし、当該地域の畜産農家の場所や分布状況も知りません。
ですから、正直実態はわかりませんが、三谷様はどのようにお考えになりますか?
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緊急輸入したワクチンは宮崎で発生したウイルス株... (三谷克之輔)
2014-09-04 19:35:17
緊急輸入したワクチンは宮崎で発生したウイルス株と遺伝子的に最も近い抗原を使用しているはずですから、セロタイプやサブタイプによって「効果は期待出来ない」と判断することは考えられません。そうでなければ現場で発生したウイルスの抗原を保存するワクチンバンクの意味もワクチンを緊急製造して輸入する意味もありません。また、ワクチンは早く接種すればするほど効果があり、予防接種が最も効果が期待できますが、ワクチン非接種清浄国を目指すためにワクチンの利点を明確に説明しないことが現場を混乱させています。宮崎のワクチンの効果があったかどうかは、現実に感染拡大が阻止されたことで説明できるのではないでしょうか。ワクチン接種をしないで殺処分を続けていれば、韓国の予防的殺処分のようにさらに被害は大きくなっていた可能性もあります。問題はワクチン接種した家畜を全頭殺処分したことです。韓国ではワクチン接種をしていたために、一部で口蹄疫が発生しても予防的殺処分や発生農家の全頭殺処分を中止したにもかかわらず感染拡大を阻止できました。日本では殺処分して血液検査さえしていないので、私には発生源や感染経路を隠ぺいするためにワクチン接種して殺処分したとしか考えられません。ワクチン非接種清浄国を目指す経済的効果とは何か、が問われねばなりません。
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製剤化(製品化=すぐに動物に接種出来る状態のもの... (豚さん大好き)
2014-09-04 22:26:10
製剤化(製品化=すぐに動物に接種出来る状態のもの)の使用期限は1年半です。
一方、濃縮抗原(ワクチンの原料であって、製剤化の際には、これを希釈する)の使用期限は5年です。
ですからわが国では、購入したワクチンを、一部は製剤化した状態(いわゆる緊急対応用)で備蓄し、残りは濃縮抗原の状態でメーカーに保存しておいてもらいます。
その理由は言うまでもなく、使う当てのないワクチンを全て製剤化してしまうと、1年半後には全て使用期限が来てしまうからです。

「緊急輸入」という言葉だけ見ますと、いかにも当時の発生ウイルス株に抗原的にも遺伝的にも近いウイルス株が選択されて、ワクチンとなって輸入されたとの印象を与えるかもしれませんが、実際は違います。
当時のわが国に、製剤化されたワクチンの備蓄量が少なかったため、緊急にメーカーに製剤化を依頼し、「緊急輸入」しただけのことです。

そもそもわが国は、血清型Oのワクチンは、O Manisa株しか購入していません。
でもこの判断自体は正しいと思います。
なぜなら、OIEとFAOの口蹄疫のワールドレファレンスラボであるパーブライト研究所の年報等に、わが国が属する東アジア地域の血清型Oの最優先選択ワクチン株としてO Manisa株が上げられているからです。

繰り返しますが、わが国が保有する(あるいは契約している)血清型Oのワクチン株は、O Manisa株だけです。
ですから当時は、このO Manisa株のワクチンが、発生ウイルス株に効果があるかという観点から、ワクチン接種の是非を考えねばならなかったということです。

たくさんのワクチン株の中から、状況に応じて、最適なワクチン株が選択出来るような、そんな便利なシステムではありません。
今後の議論をする上で、これらは理解して欲しいです。
いくつもの文献等に記載されいますよ。
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場所を教えて欲しいとの依頼で、quarterly report... (豚さん大好き)
2014-09-04 23:40:28
場所を教えて欲しいとの依頼で、quarterly reportの場所をお知らせしました。
O Manisa株では、ワクチン効果が期待出来ないとの成績は確認して頂けましたか?
パーブライト研究所は、OIEとFAOの口蹄疫のワールドレファレンスラボです。
それでもこの判断は、誤りでしょうか?
その根拠は、何でしょうか?
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