自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

人が「幸福」を感じるとき

2017-09-19 20:44:33 | 自然と人為

 人類は集団で生きてきたので、「集団的学習」も重要な進化の要因だと思う。このことはTED デビッド・クリスチャン「 ビッグ・ヒストリー」(動画)で教えられたが、「場と集団的学習」については学会でも研究課題とされているようだ。  参考:場と集団的学習 - 日本国際情報学会(Adobe PDF)

 70年前の私の幼少期の地域は、下駄の町の家内工業と農業と八百屋さんの記憶しか残っておらず、会社に勤める人は不思議な人種だと思った記憶がある。町の道路が舗装された時も若者が大喜びでローラースケートを楽しんでいた印象も強烈に残っている。だから70年という人類にとっては短い期間でも、我々の町で生きる感覚はずいぶん変わった。近代化、組織化、グローバル化と人類は生活の場を変えながら、脳の学習効果も変えてきた。これも人類の進化なのだろう。

 我々は「個人の幸福」を常識としているが、地域で助け合い、必要とされなながら生きている人にとって、「集団の幸福」が「個人の幸福」でもあるのだろう。アマゾンのメイナク族には我々の使う「幸福」という言葉がないのは、個人が集団と強くつながっているから、我々の言う個人の幸せという言葉を必要としないのだろう。鹿児島の南の硫黄島の暮らしを紹介する「日本のチカラ~WILDlife 硫黄島」がそのことを教えてくれた。
 動画:「森の哲学者メイナク族」
 動画:日本のチカラ~WILDLIFE 硫黄島


 「森の哲学者メイナク族」を作った元TBSディレクター 森谷博氏によるとメイナク族の集落は200人たらずだそうだが、硫黄島の人口も131人と200人を切っている。

 硫黄島は鉱山が1964年に閉鎖され、農業もできないので主な産業は漁業と畜産で、警察も一人で、必要な作業は全島民で手伝い合う。役場も本土にあるだけで、鹿児島市からフェリーで40分、週4便なので島から本土へ通勤することもできない。「島でお互いに必要とされることが幸せ」と語る女性から「メイナク族の幸せ」の意味を教えられた気がする。

 近代化、組織化、グローバル化の過程で人は地域の集団で生きる場を失い、人間の孤立化、ある意味ではロボット化が進んでいるが、これからは個人の確立と同時に他者の尊重が益々重要な時代となっていくだろう。  

 今回の畜産システム研究会は「自然と地域につながる肉牛生産」がテーマだが、「大谷山里山牧場」(2)(3)は、地域をきれいにするために始めた草刈り隊10人のつながりが、牛を放牧することで牛も喜び地域の人も喜び、地域資源が人も薪も草も有効に循環的に使われることで、大谷山山麓にある共有林を含めて公園化の夢も膨らむ。
 動画:シルバー世代がつくった里山牧場
 動画:赤身肉の富士山岡村牛


 日本は土地が狭く、肉牛生産=和牛の高級肉生産という常識があるが、肉牛生産の原点は広大な土地の放牧による有効活用にある。日本も狭いながらも共有林があり、管理を必要とする里山がある。問題は里山の私的管理と公的管理と牧場経営を今後どうつないで行くかだ。静岡の「富士山岡村牧場」は酪農の副産物の利用のための肉牛生産をしている。乳牛の肉質を改善するために和牛を交配するF1生産が常識となっているが、富士山岡村牧場はF1雌牛を放牧繁殖している日本で唯一の牧場である。赤身肉も乳牛の赤身肉とは全く異なる交配方式や飼育管理を工夫し、「牛が笑う牧場」を目指していると言う。
 参考:和牛の伝統と牛のハイブリッド生産
 
 富士山岡村牧場の課題は、F1雌牛を放牧する土地が個人経営では限られていることだ。放牧による土地管理と生まれた子牛の肥育をどのようにつないで行くか。私的経営と公的な土地管理の問題をどう解決し、得られたデザイン(案)を誰がどうシステム化して行くのか? これは一牧場の問題ではなく、日本の問題だと思う。



    我々は何処から来たのか? 何処へ行くのか?
       (改題 神話から科学「アインシュタインからビッグヒストリー」へ)


 私が牛の放牧の価値に目覚めたのは北海道旭川の「牛が拓いた斉藤晶牧場」(2)(3)と出会ってからだ。研究会の当日「上映と解説」で動画:「山地酪農 北日本編(斉藤晶牧場)」を紹介する予定だったが、「森の哲学者メイナク族」と斉藤牧場の話をつなぐために動画:神話から科学「アインシュタインからビッグヒストリーへ」を上映したら時間が足りなくなってしまった。残念だがこのブログで紹介しておく。また、今回の研究会で新たなデザインが得られることを期待しつつ、これまで牛の放牧について考えてブログで紹介してきた記事をそのまま紹介しておく。
 参考:牛の放牧によるイノベーションとソーシャルビジネスの提案
      牛は資源を循環し、人をつなぐ
      牛が拓く未来 ― 牛の放牧で自然と人、人と人を結ぶ
      里山資本主義と市場原理主義



初稿 2017.9.19 訂正 2017.9.20