自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

和牛の伝統と牛のハイブリッド生産

2015-12-18 20:11:43 | 自然と人為

 畜産システム研究会を卒業して10年近くなる。研究会活動の一つの柱であったパソコン利用について紹介したが、その記念号を読み直して、牛によるハイブリッド生産と里山管理の構想が未だ実現していない理由を考えてみたいと思う。
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畜産システム研究会の初心
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今いる場所をより良い場所にして引き継ぐ

 日本の和牛を「霜降りの高級肉」として育てた関係者には感謝している。ことに私は日本の和牛の指導者の研究室で育ったので、いつも現場で指導されていて休講の多かった恩師のことは尊敬している。恩師の形見としてスーツも頂いている。ただ、私は家業を継ぐつもりで農学部に進んだので、独りだけニワトリの研究をさせていただいて卒業したから和牛関係者とのつながりは薄い。

 和牛は高級肉として定着したので、子牛価格が高く、繁殖や繁殖肥育一貫経営にとってはメリットが大きい。しかし、そのメリットを生かして和牛飼育は農家から大型経営に移っているのが実情だ。今までは農家の家族の一員であった和牛を農家で見ることはなくなった。ニワトリも豚も牛も農家から消えてしまい、農家も少なくなり、人間だけでなく家畜も住む環境が激変してしまったのだ。

 時代とともに、年齢とともに見える世界が変わって来る。アメリカが目標だった若い頃は規模拡大を疑問視することもなく、追いつき追い越せとアメリカが輝いて見えていた。しかし、規模拡大で農家が激減し、地域が衰退する一方で、強引で自己中心主義のアメリカの世界戦略が目につく歳と時代になってきた。

 戦後の日本の農業のことも防衛のこともMSA協定から動き出した。MSA(Mutual Security Act)とは1951 年,アメリカが制定した相互安全保障法。非共産主義国家に軍事援助を与えることを目的とし,援助を受ける国は自国および自由世界の防衛力強化の義務を負う。
 これは日本に原爆を落としたトルーマン政権の「封じ込め政策」の一環であり、マーシャル国務長官のもとでヨーロッパの戦後復興にマーシャル・プランが実施されたが、朝鮮戦争の勃発で東西冷戦が激化するなかMSAに統合され、1954年、日米MSA協定が調印された。

 日本人は国内で与えられた条件で一生懸命に働いているが、それはアメリカの世界戦略の掌で戦後70年間踊らされて来たとも言えるのではないか。アメリカの余剰農産物の輸入で加工型畜産になったあげく、義理人情もなく穀物は高く買ってくれるところに売ると突き放され、飼料高で経営が厳しい畜産になっている。その一方で地域は疲弊し里山は野生動物の棲家となっている。

 私は「農家のために国産鶏を改良し健康なヒナを届けることにひたむきであった父」の家業を継ぐことが目的で農学を学んだが、アメリカ雛で畜産の事業を拡大することには興味がなかった。自然とデザインの構想はしても事業化しなければただの夢。事業家にはデザインを実現する実力が必要。その構想の一つの「パラダイムシフト時代の乳肉生産システム」をipgファイルに変換しておいた。
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成長の限界とパラダイムシフト
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システムとしてものを捉える
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牛の放牧が生産と消費を直接結ぶ
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里山を管理するために牛を飼う
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パラダイムシフトへの課題
 この論説を読むと、やはり私には事業家の資質はなくパラダイムシフトに重点が置かれ、乳肉生産システムについては具体的なことに触れていないので、ここで少し捕捉したい。

 和牛は耕運機の普及で農家が飼う役割を終えたが、乳牛を国内で飼う役割は残っていてむしろこれからの期待は大きい。まず、脱脂粉乳を輸入して飲むことは考えられず、国産チーズへの期待も大きくなっている。それに人手が無くなって里山は放牧で管理してもらわないと荒れてしまう。しかも、牛のハイブリッド生産は高級肉として世界に知られる和牛がいて、人工授精が常識となっている我が国は乳牛を肉資源として利用する世界最先端の位置にいる。

 乳牛の更新が必要ない種付けに肉質の優れた和牛を人工授精すれば、1頭の雄から年間1万頭のF1を生産できる。この場合の種牛は和牛では使わない小型の種雄牛で十分だ。F1雌牛を放牧繁殖に利用するので、現在利用しているF1雄牛は副産物の副産物になる。F1雌牛にはもう一度和牛を人工授精するが、F1生産用とF1雌牛に交配する種牛の組み合わせを研究しておけば、安くて能力のそろった肥育素牛を生産できる。F1雌牛が妊娠しない場合は3ヵ月程度肥育すれば安全でおいしい牛肉になる。生きものは生まれると必ず死が待っている。生きている間に放牧で暮らすことは、牛にとっては最高の幸せだ。

 この牛のハイブリッド生産に対して「和牛のまがい物をつくる」のは許せないと既存のシステムは反対するが、和牛の霜降り肉をつくることが目的ではないし、”霜降り肉”の和牛神話を壊すつもりもない。
 ”ハイブリッド里山牛”のように明確に和牛とは違うことをアピールするネーミングが必要だ。また、和牛の”霜降り肉”が市場に溢れると”くず肉”になってしまうことも忘れてはいけない。消費者の求めるおいしい牛肉を安く提供するのがハイブリッド牛肉の目的であり、酪農を守ることにもつながっている。世界に売り出せるのは和牛だけではない。人工授精を活用してハイブリッド牛を自動車のように世界に売り出したらいかがか。種を牛耳られたら終わりだと思っていたニワトリも、生産から販売までのシステムでアメリカに進出した「ひよこの伊勢」は生産量、販売量とも全米で1位となった。今は「イセ食品株式会社」となり進化し続けている。

 乳肉ハイブリッドシステムも日本だけでなく世界に進出できると思う。放牧による里山管理は現在、福山の大谷山里山牧場でささやかな実験を続けている。行政と地域と企業がつながるシステムの芽を牧場の方々で育てて頂けば、日本の農業と地域を大きく変える起爆剤になると期待している。

初稿 20115.12.18

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