Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

自殺のはなし

2007-11-10 12:33:40 | ひとから学ぶ
 年間の自殺者の統計が発表された。このところ10年くらいは全国で3万人以上の自殺者数という。それ以前20年ほどは2万人台で推移している。全国という大きなエリアだから推移している数字に大きな変化がないのかもしれないが、20年間極端に減ったり増えたりせずに2万人台を推移し、3万人台に入ったらそのまま3万人を10年近くにわたって維持しているというのも、作られた数字ではないかと疑ってしまうような推移である。景気や世の中の話題によって変化することはあるのだろうが、これほど変移がないと自殺者ほど定数化しているものがほかにもあるのだろうかと思ってしまう。このところの5年ほどをみると、千人前後の増減しかない。「ことしは自殺者が少ないからどうです・・・」なんていう誘いはないだろうが、これほど同じような数字が並ぶことが不思議でならない。

 そんな自殺者も全体数字をみると変移は少しずつという印象を受けるが、詳細な内容は傾向があるようだ。昭和53年の自殺者は20,788人、そのうち男性が12,859人に対して、女性は7,929人である。平成18年にはこの数字がそれぞれ32,155人、22,813人、9,342人と変化している。約1万2千人増えた中で1万には男性である。男女比率に違いが見られるが、実はこのことを自殺の理由に結び付けてみるとその男女比の背景が見えてくる。過去の理由は手元の資料ではわからないが、現在の理由は、健康問題によるところがもっとも多く、次いで経済・生活問題によるところか多い。そんななか、男女差がでている原因に経済・生活問題や勤務問題があり、これほど女性が社会進出してきたにも関わらず、女性がそういう理由で自殺する数はとても少ないのだ。この数字は遺書ありの場合の統計であって自殺者全体にそれを照らすわけにはいかないが、いずれにしても遺書を書いた人たちをみるにつけ、男たちの悩みが深いことがよくわかる。「女性は強し」というが、それは現実的な立場も強くなったかもしれないが、苦境に強いというこも言えるだろう。それは家というもので苛まれてきた女たちの立場が開放されてきた過程で、苛まれてきた過酷さよりも、社会の中での過酷さはたいしたものではない、とも捉えられる。しかし、女性が均等にこうした条件を持ち、社会のなかでも男たちと同様の権利を得たときには、こうした自殺者数の格差は解消されていくのかもしれない。

 さて、そのほかにも数字だけをざっと捉えて、考えさせられるものがいくつかある。まず一つ目として、自殺者数の世代と職業である。もっとも自殺者か多いのは60歳以上の世代である。この世代別の数字は、年齢が上がるほどに自殺者も多くなる。60歳以上というのは、年代として100歳でもこの枠に入るため他の世代とは比較にならないのかもしれないが、高齢者ほど自殺者が多いというのは、この時代にとって意外な数字ともいえる。経済・生活問題苦が理由としてもっとも多いということからみれば、老後の世代に格差が現れているのかどうか・・・。家族が年寄を面倒をみなくなった時代を象徴しているような数字なのかもしれない。より一層、子どもたちに期待できない時代がやってきていると諭される。そして職業をみると、失業者の数が際立っていて、続いて農林漁業ということになる。悩み多き時代で、サラリーマンに対してのさまざまなケアはされてきているのだろうが、いっぽうでかつての主産業にはあらゆる場面で冷たい風が吹いていることが解る。

 二つ目として自殺者の世代の変化である。昭和53年のデータでは2,753人であったが、今や7,246人という。伸び率ではダントツである。定年まで安定した職場が約束されていたのに、今や生活苦の原点にもなるのだろうがこの年代になって放り出される人たちが多いということだろう。わが身も同じ道を歩んでいるだけに、この現実は確かなものだと認識しなくてはならない点なのだろう。

 さて、昭和53年に男女問題で自殺した数は1,250人だった。平成18年では738人とそれほど大きな数字の変化というものはないが、昔なら「心中」という言葉が聞こえたが、この時代には似合わない言葉となった。いかに純愛なるものがなくなり、恋愛が現実的でドライなものになったかがうかがえることと、恋愛そのものをしなくなったから自殺者に現れてこないという捉え方もできる。風情のない時代の自殺者問答である。

 「秋田県はなぜ、自殺率がナンバーワンなんでしょうか?」などという言葉がある。東北地方の自殺者数はとくに多いといわれる。厳冬の暗い世界と連携してその答えを導く人がいるが、果たしてそれは正しいのか。生活苦が地方ほど顕著であるということではないだろうか。

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