Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

節分

2006-02-04 02:13:50 | 民俗学

 節分を前に、「恵方巻き」とか「まるかぶり寿司」なんていう言葉が飛び交っていた。そして、昨日は節分。テレビのニュースでこの恵方巻きを、大勢がかぶりつく様子を映しだしていたが、言葉を交わさずに大勢が一方を見て太巻きを口にする姿など見たくもなかった。
 節分といえば豆まきである。大豆を炒って一升ますに入れ、神棚に供えてから家中を「鬼は外、福は内」と唱えながら撒いた。今では豆といっても大豆は使わず、落花生を使って豆まきをしている。わたしの子どものころには、落花生などは使わなかったが、あたりまえといえばあたりまえで、大豆を作っていれば従来から大豆を使っているのだからわざわざ落花生を買ってまで豆まきをしないだろう。結婚して自分の住まいで住むようになると、大豆はなかったから落花生を使うようになった。大豆より美味いんだから、一度それでやってしまえば落花生の方がよい。とはいっても、豆は撒くんだから、すべて拾って歩くんならそれもよいが、そうでないのならもったいない気分である。そういえば、撒く豆は大豆、食べる豆は落花生なんていうこともあった。小さなころは息子も声を出して「鬼は外、福は内」とやっていたが、このごろは豆は撒くが聞こえないような小さな声で豆まきをしているようだ。わたしもそこそこ歳をとってくると、恥ずかしさもあって声を出さなかったのを覚えている。みんな同じだとうなずいたりする。
 長野県南部での豆まきについてみてみると、家の主人が家の奥の方から「鬼は外、福は内」といって豆を撒くのが一般的である。わたしの家でも最初は上座敷から始めるといっていた。最後に外へ向かって撒いた。そんな順番も今は意識していない。辰野町上辰野の事例が『長野県史 民俗編』に載っていた。「いり豆をますに入れて主人がまき、家内が逃げて外に出る」というものだ。ちょっとびっくりな事例である。設定からいけば妻が鬼役をするわけだから、もし現代に再現したら離婚沙汰になりそう。いや、現代に合わせたら立場は逆かもしれない。
 豆まきをしたのち、炒った豆を歳の数だけつかんで食べることができた。今も同じように落花生をつかんで食べている。歳の数とはいえ、子どもはたくさん食べたいから、大づかみにつかむ。わたしの生家の近くの事例を『上伊那郡誌 民俗編』から拾うと、次のようなものである。

 夕方小さい紙きれに「カニ・カヤ」と二行に書いて、戸間口、戸袋・蔵の中・便所・厩などに貼る。節分の夜鬼が来てこれを見て、カニとカヤと違う、へんだと思案しているうちに夜が明けるという。あるいは、カニが鬼をはさんで、びっくりした鬼がカヤカヤ騒いで逃げて行ってしまうともいう。藁で作ったツツッコに髪の毛・いろりの鍵の煤・胡椒を入れ、その上に火のオキを置いていぶす。悪臭で鬼が逃げるという。ツツッコに入れる物はまちまちで、榧(かや)の枝を入れる家もある。年取りは取勝ちといい、大正月と同様のご馳走。豆を炒る音が鬼に聞こえるように檜の葉をパチパチさせて、火箸で炒って神棚にあげておき、夕食後おろして豆撒きをする。表座敷から裏座敷と順に「鬼は外、福は内」と唱えながら撒いて、最後に土間から外に向かって撒く。この後豆をつかんで三度目までに自分の歳の数だけつかめばいいという。撒いた豆をその晩拾うと鬼が逃げない。豆はとっておき初雷の時食べると雷が落ちない。

 以上は飯島町七久保の事例である。よく昔のことを思い出すと、ほとんどこの事例と同じようなことを言ったし、やった。表座敷裏座敷という言いかたはしなかったが、あとはなんとなく似ている。障子紙を5センチ四方程度に気って、そこに「カニカヤ」と墨で書き、あちこちに貼っていた。牛を飼っていて牛小屋にも貼っていた。この「カニカヤ」と書く習俗は、上伊那郡飯島町あたりから飯田市あたりまでで行なわれる独特のものである。戸口などに鬼除けのものを出したりする風習はさまざまだが、諏訪あたりでは魚の頭と十二書きを門口に飾り、伊那あたりでは木戸口で火をたく。わたしの生家のあたり(飯島)では見ないが、飯田近在では門口にツノダイシを貼っている家が多い。写真がそのツノダイシであるが、これは元善光寺の節分会において配られるお札だという。

 

さらに詳しい記事は〝かにかや〟


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1 コメント

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鬼の出番  (もののはじめのiina)
2019-02-02 09:45:40
読んで思いました。
         オニよりカニがいいと・・・。

クリスマスはサンタさんですが、節分は鬼の出番です。

そんな鬼が、どうして角がはえトラパンツをはいているのかを考えたら、投げる豆をみんな食べてしまってました・・・( ^ω^)

浅草寺の節分は、次のようでした。
https://blog.goo.ne.jp/iinna/e/f483b58f9898e292f47ec6ad138ab52b

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