Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

廃村をゆく人⑨

2008-04-13 10:10:39 | 農村環境
「廃村をゆく人⑧」より

 芽吹きのまだ始まったばかりの半対(旧高遠町)を再び訪れた。今回は人影はない。2カ月ほど前、雪景色だった家々は、すでに春の装いである。雪解けの水で、河川の水量がとても多い。それは、こと半対川だけに限らず、半対川が流れ込む山室川も、隣の藤沢川も同じである。静かだった雪景色の半対がずいぶんと騒々しい。狭い急流の沢沿いとういこともあって、川の水の音が山々に反響する。冬景色の中では覚えのない音である。まるで洪水時のような轟音が響き渡る。隣の家はすぐそこにあるが、これほど沢の音が大きいとなると、隣近所に人がいても聞こえないかもしれない。

 集落の中心への入り口に、盛んにスイセンが咲いている。ごく普通に見られるスイセンであるが、人気のないムラに、花が息を吹き返したように盛んに咲く。おそらく人が住んでいたころに育てられたものなのだろう、家並みの近くに乱舞する。スイセンも見事であるが、この谷に入ると福寿草があちこちに咲いている。すでに花期の終わりということなのだろう、丈が長く、ニンジンの葉のような葉が伸びている。花期も終わりともなると、花もそれほど賑やかではないのだが、山の中の人気のないムラには似合っている。あまり自らを誇示しないのがよいのだ。それにくらべると、人気がなくとも、スイセンはそんなことを気にもせずに自らを誇示する。人もそれぞれであるが、花もそれぞれなのである。



 ムラには何箇所かに「山や家の物を持ち出したり廃棄物を捨てたりしないで下さい」という立て札が立っている。写真のものは集落の入口に立つもので、道の両脇はかつての水田である。電柱が奥へ奥へと続いていて、家並みもけして廃村という雰囲気ではないが、集団移住してすでに20年以上経過しているという印象はない。それだけ地域の人々は、ここを離れても管理を続けてきたという証だろう。道の脇に看板が見えるが、これは農林省告示の地すべり防止区域を表示したものである。長野県での廃村というと、かならず地すべりが背景にある。







 ムラの中ほどにある釈迦堂である。その脇にある土蔵は釈迦堂とは無関係なのだろうが、ムラの内にはこうした土蔵も幾棟か見える。

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