Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

上戸のデーモンジ 中編

2018-01-20 23:00:06 | 民俗学

上戸のデーモンジ 前編より

 午前5時20分ころからである、太鼓が鳴り始めたのは。デーモンジの倒されるのは午前5時半と建てた14日に告知されていた。太鼓をこの日主に叩いていたのは高校3年生の女の子。5歳の時から叩いているというから、必ずしも子どもが叩くと決まっているわけではなさそう。もちろん、とはいえほぼ子どもの役割のようであるが。太鼓の音が鳴り始めると、集落のあちこちから飾りを手にした村人が集まってくる。飾りはいわゆる松飾りである。ここではデーモンジが下ろされた後にどんどや焼きは行われる。会所となっている旧精米所の入口にも告知の紙が貼られている。「上戸南部実行部員さん」宛ての張り紙は、「西箕輪小学校上戸地区児童会」が作ったもの。ほかの地区の人が見ると少し意味がわからないかもしれない。ここでいう上戸南部地区実行部員とは、上戸に住む人々のことを言う。上戸区という集落構成であるが、上戸のうち梨の木と言われる集落内の川から北側の地区は、本当の意味で上戸ではない。昔から上戸と梨の木は一緒の区だったと言うが、元は別々だったのかもしれない。デーモンジを行っているのは上戸のみ。したがって道祖神の祭りとして実施されているから、どんど焼きも梨の木とは別なのである。

 告知には20日の午前8時半から回収、9時には火入れと記してある。回収始めから30分後には火入れというから、ここでは高く櫓を組むようなことはしないのかもしれない。デーモンジもかつては区長をトップとする組織で実施されていたというが、今は上戸の実行部という人たちが主立って実施されている。実行部長がいわゆる自治会長のような存在。そして農家組合長と副組合長を含めて三役ということになるらしい。不思議に思ったのは、農家でなくとも農家組合長になるという。あたかも農家組合長と思いきや、名称はそうであっても上戸だけで行う行事の執行側になるという。ところが農事にかかわることも担うというのだからわたしの住んている地域とは違う。まったく農業と無縁なら断ることもできるとか。告知の「回収開始時間までに、玄関先の分かりやすい所へ出していただくか、作業所に直接お持ちください」から解ることは、会所は「作業所」と呼ばれているようだ。作業所はかつて精米所として使われていたようで、今も中に入ると当時の面影が解る道具が置かれている。この作業所を利用するのは、今ではデーモンジくらいという。

 その作業所に飾りを持参してやってくる人も多く、入口脇にはどんど焼きで焼かれる飾りが山のように重ねられていく。その中にはデーモンジのキンチャクや花の姿が見え、これらは昨年のデーモンジで持ち帰られた物である。どんど焼きは道祖神の辻から東方の田んぼの中で現在は行われている。

 道祖神の前を見ると茶碗の欠片が落ちている。粉々に割れた物、まだ形を残している物、と数にして3つくらいだろうか投げつけられた茶碗は。いわゆる厄落としで投げられた茶碗である。しかし銭は見られないから、すでに拾われたのだろう。こうした厄落としで茶碗が投げられた光景も、最近はすっかり少なくなった。

 

 

 

 

続く

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