乳飲み子が泣いている。
電車の中で泣いている。
人は、こんなにも大きな声を出せる。
一方、私は声が小さい。
とても小さい。
ぼそぼそと話す。
けれども、生まれながらに人は。
こんなにも大きな声を出せるのだと思う。
何にも縛られず、抑えられず。
全くの自由な状態であれば、人はこんなにも大きな声を出せるのだ。
それは野生の動物が、雄たけびをあげるのにも似ている。
驚くほどの声量がある。
人は本来。
それだけの声量があるのだろう。
しかし、様々なしがらみから、私の声はかぼそくなる。
聞き取れないほど小さくなる。
話すことさえ、ともすると面倒になる。
泣き喚く子どもを五月蝿いと思った。
それを懸命にあやしている母親を哀れに思った。
いないいないばぁ。
子どもはケタケタと笑い出す。
声量は変らずとも、笑い出す。
げへへへへ。
オヤジのような声で笑い出す乳飲み子。
あらゆる乳飲み子は、オヤジである。
げへへへ。
げへへへへ。
この子も。
あと4年もしたら、小さな声になるのだなと思う。
少し、寂しくなる。
小さなオヤジの笑い声を聞きながら。
ほんの少し。
寂しくなる。