えー、『漂流教室』という映画があるんです。(←やっと言えた)
楳図かずお原作の、大林宣彦監督作品。
原作は、一部で楳図かずおの最高傑作との声もある作品です。ある日、突然学校が荒廃した未来へ飛ばされること(笑)から起こるサバイバルもの。これだけ書くと、随分突飛な匂いがしますが、楳図さん独特のタッチで小学生たちが生き残るのに必死な闘争を繰り広げる姿は圧倒されます。生き残るためのサバイバルには、少年たちのヒエラルキー構築のための戦いも含まれますので、絵的にも内容的にもグロテスクです。2002年にロングラブレターという副題(むしろ漂流教室が副題)でドラマ化されてるので、そちらをご存じの方の方が多いかも。バビロンクボヅカさん主演なんでね。
で、映画ですが。はっきりいって
クソ映画です。
でも、ワタクシ、そんなクソ映画が
大好きです。
いや、倒錯的な意味でなくてですよ。純粋に。
恐らく、観た人100人の内、98人がクソ映画だと認定するでしょう。
楳図かずおさん自身も批判的で、試写以来一度も観ていないと聞いています。
以下、酷いところ。
・冒頭からいきなり男子のシャワーシーン。フォスターの『草競馬』(クイズダービーのシンキングタイムの曲っていって分かる?)鼻唄で歌いながら。シャワーしながら歯磨き。
・何故かインターナショナルスクールに登校(原作は公立の「大和小学校」)。
・主人公のライバル・マークが、ヒロイン・あゆみに「Good morning!アユミ」と挨拶。
・アユミのほどけかかった靴ヒモを片膝ついて、足乗っけさせて結び直す。
・マドンナ先生「先生、実は結婚することになりました!」
あゆみ「ふぁんたすてぃっく!!」
・原因不明の大地震が起こり、未来世界へ飛ばされる。生徒の一人、花瓶持ったまま外へ投げ出される。
・学校ごと未来へ飛ばされた教室。外は何もない砂漠。絶望感に打ちひしがれる生徒たち。何故か歌いだす。
・そのうち歌が伝染していってミュージカル状態に。2つの歌が輪唱のように重なりだし、生徒たちは踊りだす。本当のミュージカルに。
・マドンナ先生(南果歩)に何故か告白し、しかも振られる男教師(アメリカ人)。そのまま砂嵐吹きすさぶ外へ逃避行。マドンナ先生に捧げる詩を朗読しながら。そして行方不明に。
・巨大なフナムシみたいな未来生物に襲われる。着ぐるみの完成度低い。低いので照明暗めでごまかす。よく見えない。
・主人公である息子のピンチを何故か察する母親(三田佳子)。バットを持ち出し現代世界の小学校跡地の巨大な穴へバットを放り込む。
・何故かピンチの主人公の手元にバットが現れる。
・マドンナ先生何故かフナムシになる。
・砂のシャワーでヒロインが体を洗おうとする。命綱の残り少ない水でパンツ洗う。
・その他etc.etc.…。
全編、大爆笑ですよ。ファンタスティックて。片膝ついて足乗っけさすってオマエいくつだよ。なんでインターナショナルスクールなんだよ。なんでフナムシになっちゃうんだよ。なんで歌って踊ったんだよ。もういろいろおかしいよ。パンツ洗うのはナイス。ナイス大林。アナタもきっと岩井や宮崎某と同じだったんだね、と数年後に確認する僕だった(笑)。
初めて観たのは多分中一で、確か金曜ロードショー。次の日の朝(そう、僕らが中学生の時代、土曜日にも学校があったんですよ。でも半ドンつまり午前中でおしまいだから、土曜日の朝のテンションアゲアゲ感は異常)に早速友達に
「ぐっど・もーにんぐ!アユミ!!」
友達黙って足を差し出す、僕跪いて靴ヒモ直す、ふたりで大爆笑ですよ。
でもね、
女優さんってすごいなーって思ったのはこれが最初でね。
こんな荒唐無稽の設定でも「あなたは息子の危機を察して何がなんでも息子を救うと決めた母親です」ってシーンを与えられれば、凄い演技をするんだなって。あの三田佳子の必死さは、きちんと届いたんですよ、佳子すげーって思った。
ミュージカルシーンもね、2曲が重なっていく様子(その2曲忘れちゃったんだけど、どちらも有名な、授業で習う、フォークダンスで使用するような曲)が、まさかその2曲が同時進行するって発想なかったんで、凄くびっくりすると同時に感心した。知ってる曲だっただけに。流行り歌じゃなくてガキの頃のお遊戯に使うような、昔から知ってる曲だっただけに。「ダンサーインザダーク」とか「シカゴ」とか北野武の「座頭市」を観たあとだったらもう少し素直に受け止めていたかもしれない。
なにより、冒頭からのモノローグ。と【日本語字幕】。
この映画観るちょおっと前から、
「邦画がつまらないのって字幕で観れないからなんじゃないかなー」
と中一の僕は思ってて。それは間違いだと今は思うんですけど。少なくとも、あの、言葉の意味と響きが“分かれて”入ってくる感覚って何か特別で。その特別感が、当時の僕を、映画≧テレビドラマって感覚にさせてた気がしてた。
でも日本人だから字幕ってできねーよなー、って思ってたら!
インタナショナル・スクールって設定で!
使いやがった!
字幕を!
しかも日本語と混合で!字幕を!
(…ちくしょー。)
主人公である林康文くんは、いろいろあってライバルであるマークとリーダー決定タイマンをはることになるんだが(笑)、
最終的に勝利して、その瞬間言い放った
「I am THE leader!!!!!!」
ってセリフのかっこよかったこと!
小学生が!
英語で!
字幕がついて!
「I am THE leader!!!!!!」
(ぼくが、リーダーだ!)
ふぁんたすてぃっく!!
…ハァハァ。
失礼しました。
要するにね、面白かったんですよ。そして衝撃的だった。
多分、13歳で観たってのも大きいと思う。
そうでなければ、未だに、朝、遅刻しそうなときに、シャワー浴びながら歯磨きもついでにすることで準備時間を短縮して、且つその間『草競馬』を鼻歌うなんてしないと思うもの。
(あとヒロイン・あゆみちゃんの砂シャワーシーンね。あれはね、くるよね笑)
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余談1。
そういうこともあってか、主演の林康文くんは、同じ大林組の主演さん、尾美としのりと同じく、ずっと気になる役者さんでちょいちょいドラマ・映画でその名前を見ては何故か安心しています(笑)。
最近だと林くんはTBSのキムタクドラマ『MR.BRAIN』でちチョイ役ででてたんのと、割とおいしい役では映画『ジェネラル・ルージュ~』で高嶋政伸さんの助手役やってましたねー。あとふかっちゃんが一番かわいかった頃のドラマ(今は綺麗ですね)『きらきらひかる』でふかっちゃんの一番近い先輩監察医やってましたね。目立たなかったが。
多分、彼を確認するのに一番良いコンテンツは、映画『青春デンデケデケデケ』です。
尾美さんは着実に経歴重ねてたけど、最近はクドカン組の準レギュ扱いなんで知名度が若い層にも広がりそうでよかったよかった。
余談2。
その後、邦画字幕ショックはしばらくなかったんだけど、1996年、突如としてその衝撃がよみがえる。岩井俊二の『スワロウテイル』だ。しかもリャンキ話とかイェンタウン話とか作りやがって。一から世界観作っちゃえばいいじゃん、とか言われたみたいで。そんなことできるかよ、って思ってすげー悔しかった。
ちくしょー。
…ちくしょー(笑)
余談3
今のうちに書いておきますが、タイトル『漂流教室』を冠した曲が銀杏BOYZにありまして。勝手に峰田に親近感持ちつつも、当の峰田氏言うところの漂流教室が、楳図のそれか、映画のそれか、全く別の何かか、はたまた氏の造語による偶然かは、まったくの未確認です。未確認でもいいやと思ってます。
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落ち着いたところで。
その他のシーンもでもすね、妙に情緒的に感じられたんですよ。
男教師が去っていくところもね、冷静に観ればかなり笑えるシーンで、友達と話してるときは爆笑しながらマネとかしてたんだけど、妙に心に残っててね、「何もない空間へ向かう(敗走する)いい歳したおっさん」って図がね、なんかこう、キタんですね。確かくっちゃべってたポエムもどきも覚えてましたよ。高校生くらいまで(笑)
何故かフナムシになってたマドンナ南香歩先生もね、フナムシになったまんまpiano引き続けるんだけど(笑)。かなりシュールな画のはずなのに、単音で響くピアノの音(フナムシの足で弾いてるから笑)とともに、描かれるその情景がなんとも言えなくてですね。
あと、あゆみちゃんの砂シャワーシーンね。あれはね、くるよね(笑)
パンツ洗っちゃったこと黙っててってお願いされるんだけど。
そりゃ黙ってるよ!一生黙ってるよ!って感じでね(笑)
秘密の共有は、お近づきになるための重要なファクターです(笑)
いやマジで。情緒的なんすよ、砂シャワー。あれはね、クルよね(笑)
かように、ここまでこだわっているのは繰り返し言うけど、13歳のときに観たからだと思う。
(そして楳図は『漂流教室』の実質的な続編として、その後『14歳』を書く!)
ひょっとしたら、その歳でしか得られない感想・想いってのは本当にあるんじゃないかと思う。その歳でしか書けない描けない作れない創れない造れないモノが確実に存在するように。
でもって、現在36歳おっさん真っ只中の僕は、今までに、そんな大事な瞬間を腐るほど見逃してきてて、もう一生取り戻すことができないことを知っている。(これが、多分、きっと、サウダージですね。好きよ、でもね、たぶん、きっとぉ~は薬師丸ひろ子の探偵物語)
さて、
長々と書いてきましたが、結論づけますと、
映画『漂流教室』はまごうことなきクソ映画で、
だから僕はこの映画が、とてつもなく大好きで、
そして、この気持ちを誰かに共有して欲しいとは思わない。
…と、ここまで書くと、少しは観たくなりません?(笑)
だが残念。
VHS版は既に廃盤だし、その後のソフト化もされてないし、だいいち未だに最悪の評判がネットで拾える作品、今後もソフト化の予定はないと思われます。
つまり、多分、もう二度とこの映画は観られないわけです。(中古品をどこかで手に入れない限り)
あ、別に観たくなりませんか、そうですかそうですね。
なぁに、観れなくてもあなたの人生に不利益なことは一片もありません。大丈夫です(笑)
…サイコーだ。