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ヤマザキ、フリーターを撃て!

ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン

2006-10-09 03:44:19 | 映画
 70年。監督はブライアン・デ・パルマ。これはデニーロ出演の町のゴミ掃除する「タクシー・ドライバー」やお手製爆弾をあちこちで破裂させる「ミーン・ストリート」にも通じるものがあって必見。定職を持たない青年たちの歪んだ青春という負け組全開のニューシネマ。自分たちでポルノを製作して儲けるという当時の自称映画作家たちが描かれる。以前に見た「インサイド・ディープ・スロート」のような連中。

 扉もまともに閉まらないオンボロアパートを気に入って借りるデニーロ。彼はエロチック芸術とかいう小難しそうな場所に出入りしているが、ここはポルノ映画館だ。トイレに行ってはいけない、金持ちも貧乏人も一緒、隣に座ってくる人間は手がどこかに伸びてくるなど素敵なサムシングで一杯の場所。デニーロは決して自分が住めない高層マンションの写真を一生懸命撮っている。それは男根の象徴で大きなサイズの写真にして売り込んでいる。そんなもの誰が買うのかと怒られている。同じように青年が写真を売り込んでいる「スパイダーマン2」と比べると人間の出てこない歪み具合がわかる。彼は友達にビジネスってものを教えてやると言われて金も貸してもらう。そして望遠鏡とカメラを購入して向かいのビルからマンション観察に一人励むのだ。

 芸術家気取りの多いこの地区のヒルズマンションではヌードを描いてたり、スチュワーデスの格好をさせて飛行機の飛ぶ真似をするなど意味不明なプレイのカップル、ゲバラのポスターを貼っている革命家気取りなどわけのわからないのでいっぱい。そして彼は一人暮らしの女に目をつける。彼女を望遠鏡からじっと観察して研究する。いつの間にかその女と一緒にいる自分を夢想し始めるのだった。


 以下ネタバレ

 早速スーツに着替えてうまく女の部屋に転がり込む。丸め込んでクラシック映画を二人で鑑賞して彼女の心の悩みまで聞く。女の内面も利用して、同じ男に騙されたと信じ込ませる。何度か会って仲良くなった彼は秒単位で時間まで測ってセックス計画を練るんだ。なぜならば向かいのビルからカメラを時間で自働録画セットしてるから。つまりポルノを自家製で作ってビジネスとする。女には出演料を払わなくていいし、盗み撮りで客に受けるだろうという魂胆。クラシック映画や女の内面なんてどうでもいい、ポルノ映画と金がすべて。肝心のフィルムをカメラを購入してくれた友人と見ると途中からカメラは下がっており、下の階で自分の体を黒く塗ってるわけのわからない男の裸の映像が写っている。お前はホモかバカ野郎と怒られてしまう。

 自分に向いてないとわかったデニーロは町でカメラとテレビを交換。自称映画作家なんて止めてテレビの観客に。そこに「黒人になろう」という演劇集団の募集ポスター発見。興味半分か食うためかでオーディションに。べトナム帰還兵の警察官という役を自分で即興で練りだし採用されていく。

 この集団は反大企業で過激派になりきってる。町に出て店の主人を捕まえては、貧しい国から搾取して製造された製品を売って恥かしくないのかと責めている。黒人の気持ちがわかるのか貴様らと、あちこちで白人に対して罪を知れとケンカ腰。かなりドキュメンタリー調でここが面白い。一般人と話してると横では強盗が起きていたりと、社会の皮肉が描かれている。なんだかゴダールぽい。

 彼らは「黒人になろう」という劇を始める。内容が凄まじく暴動演劇と称する。見にくるのはもちろん全員が階級の高い白人。彼らの顔を黒く塗り黒人にさせる。黒人のソウルフードを食べさせ、黒人の体を触らせ、金とバッグは没収。劇団の黒人たちは顔を白く塗り白人と化して客を二ガーと呼ぶ。金がなくなったと客が騒ぐと下で射殺。パニックになるもこれも劇の一部さと言ってると上に来い二ガーどもと。そこの金髪の二ガービッチ脱げと命令され、今からファックを見せてやる。反抗する男は容赦なくぶん殴り。裸にした時にデニーロの演じる警察が突入。もちろん悪いのはすべて顔の黒い客だ。そしてビルから逮捕だと追い出して黒人の気持ちは終わり。ヤッピーヒルズ族どもは喜んで金は劇団のもの。

 劇団員は興奮してダウンタウンにいる新聞なんかを読んでる連中を襲いに。貴様ら黒人の気持ちを知れと襲っていくのだ。終いにはヒルズマンションに勝ち組死ねと銃で武装して襲い掛かるも射殺されていく。一方でデニーロは都市ゲリラの本を読んで勉強している。ゲリラは普通の生活をして周囲から浮いてはならない。そして破壊活動を行うのだとニヤリして銃をラジオにぶっ放す。

 優秀な保険外交員になりきり、ポルノを作ろうとしてた女と暮らす。自働皿洗い機が欲しいわと裸にエプロン姿の女に男はスーツで、あの契約が取れたら買ってやるよワッハッハと成りきり勝ち組ライフ。どうやら彼女は妊娠してる。デニーロは出かけてコインランドリーにスーツなど投げ捨てて爆弾を仕掛けて爆破。ざまあみろと逃げていく。

 マスコミが来て報道インタビュー。ビルが減って犬の散歩にちょうどいいよなど素敵な付近の住民たち。精神科医が出てきて偉そうに述べている。そこにベトナム帰還兵の姿でデニーロ登場。インタビュー受けながら精神科医にお前は戦争に行ったのか?手足や頭やあそこがバラバラになっていく人間を見たのか?など怒り始める。そして彼はテレビカメラに向かって言う「やあ、ママ」。笑顔のデニーロと共に明るく終わり。この時の映像はテレビのブラウン管の枠になってて、視線はビルから眺めている。

 
 今まで見た中で最も若いデニーロだと思う。病んだ社会が人種、戦争、階級など当時の60年代の抗争の火種が見事に描かれている。彼の役柄が後の映画に繋がってると思う。この頃の映画は屈折していて素晴らしい。主義主張もこれといってなく、社会に馴染もうとしない男が簡単に反社会的になっていく滑稽さ。
 デ・パルマ鑑賞7本目。★★★★


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