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ヤマザキ、フリーターを撃て!

ゲリラ~ザ・テイキング・オブ・パティー・ハースト

2009-10-31 03:23:45 | ドキュメンタリーとかテレビ
 MXテレビ「未公開映画を観るTV」にて「ゲリラ~」見る。映画「市民ケーン」でも描かれた新聞王のハースト家。その孫が過激派に誘拐されるも感化されて参加して大騒動になったドキュメンタリー。何がすごいかって当時の映像てんこもり。しかも過激派全員の写真や参加者のインタビューあり。70年代になると先進国では学生運動から過激派があちこちで登場する。彼らは暗殺や爆弾テロを繰り返していてアメリカでももちろん登場する。当時のデ・パルマ映画でデニーロが過激派となって爆弾テロをする映画とかもあった。学生運動が盛んだったサンフランシスコにあるカリフォルニア大のバークレー校。ここは町山さんが言うにはオール5でも入れないエリート校である。アメリカではベトナム戦争があった。若者たちは戦場へ本当に送られていた時代なので反戦運動があった。それに黒人の公民権運動もあって60年代は大荒れだった。だが70年代には下火になってきたとはいえ大学で警察に銃殺されるなどがおきる。そこで革命気分を味わえない連中の一部が過激化する。もはや暴力でしか解決できないだろうと。そして過激派が登場していく。もちろん彼らのヒーローはゲバラである。

 彼らによると権力によって人民が蹂躙されており生命すら奪われている。実際に黒人の多くは暮らしていけないので犯罪に手を染めるのも多かった。そこで彼らの論理は過激化して犯罪を犯す連中は権力に反抗する革命家となる。スラム出身の前科者の黒人をリーダーと迎えてエリート大学生たちが過激派となっていく。まずは教育委員会のボスを暗殺。理由は学校に警察を導入しようとしていたから。続いて大学の事務員をやっていたメンバーから得た情報でハースト家の娘がいると。ハースト家というのはアメリカじゃ王室クラスの名門一家だとか。そこで誘拐して犯行声明を送りつける。メディアは大騒ぎでハースト家の前で連日生放送。

 当人の声も送られてくるが段々と内容がおかしい。パパたちは権力の味方なのよなど、いつの間にか被害者が加害者側のような。逮捕されていたメンバーと交換しろというが警察は断る。そこでなんと貧しい人間に食糧を配らないとご令嬢を殺すぞと。そして大統領まで出てきて本当に数億円もの食糧がスラムで配られるのだ。だが食糧配給ですら死者が出てしまうアメリカ社会。女性も警察にボコボコにされている。なぜご令嬢は過激派側についてしまったのか。なんと内部で恋人ができたのだ。なんじゃそりゃという事実。

 しかも銀行強盗をおかしてそこにご令嬢が銃を持って参加。二人を射殺して金を奪っていく。もう全米が大騒ぎとなっていく。彼らは逃げ回ってLAへ。万引きをして見つかり逃げ回るも警察にアジトがばれてしまう。そして説得する。だがここは犯罪都市LAでサンフランシスコではない。出てこいと言って出てこなかったら殺されてもしょうがない。テレビで生放送の銃撃戦が繰り広げられる。凄まじい戦いで9000発も飛び交うという展開。しかも手榴弾よこせやら催涙弾やら放火などで過激派全滅。もちろんそこにご令嬢はいないことなど警察は知っていた。ハースト家は殺すわけにいかないが過激派は見せしめとして全滅させたんだという意見と、ハースト家自身から犯罪者となった娘など殺せという圧力など実際はわからないらしい。だがとにかく警察のやり方がハンパじゃないのは事実。

 リーダーも恋人も死んだが残ったメンバーは新しい連中を受け入れて爆弾テロへシフト。また銀行で射殺事件も起こしてるが逮捕される。ここですごいのは彼女はこれだけ事件を起こしておいて洗脳されていたとかでなんと2年弱で釈放。結局は金持ちが優遇される社会というのを彼女自身が証明する。屈託のない笑顔で釈放されたのよと書類までカメラに見せてくる。逃げ回った他のメンバーはほとんどが今も獄中である。彼女はテレビにも笑顔で登場し、ジョン・ウォーターズと意気投合して変態役で出演している。彼女を見ているとブッシュ元大統領を思い出す。言われた事をそのまま受け入れてしまうような人の良さがあって憎めない。人を疑う必要すらないというか良くも悪くも育ちがいいんだ。彼女にはリーダーだった黒人の気持ちは死ぬまでわからないだろうし、リーダーもわかろうと思わないだろう。やっぱアメリカすげえというドキュメンタリーでした。彼らを匿っていたうちの一人は日本人で原爆を経験した人だという。


この自由な世界で

2009-10-17 04:04:12 | おっぱいなし映画
 映画「この自由な世界で」見る。ケン・ローチの作品。「ナビゲーター ある鉄道員の物語」でも描かれたイギリスの派遣労働の作品。今年も暴動が起きて銀行襲ったり死者も出ているロンドンが舞台。派遣会社に勤めるシングルマザーの女性。なぜ離婚したかというと夫は25歳から失業してずっとテレビを見るだけの日常を送っているからだ。彼女は息子をひきとって暮らしてるが生活は厳しくて一緒に暮らせないので仕方なく両親が面倒を見てる。

 EUの規定がどうたらで多くの移民が合法的に入ってくる。そこでポーランドにてイギリスで働きませんか?とリクルート活動をするのだ。看護婦や教師をやってた人たちがイギリスに渡って最低賃金で働く事になる。ここで最も割を食うのはもちろん当のイギリス人たち。彼女は仕事がクビになってしまう。ルームメイトの女性がいて彼女もまた移民系だがイギリス出身なので問題はない。彼女は大学を出てるのにコールセンター勤め、主人公は派遣労働について詳しい。30歳をすぎても貯金もできずなんでいつまでも豊かになれないのかと怒る。そこで知り合いのパブ横にある空き地を利用して人を集める事に。ここに移民を集めて日雇いの仕事を斡旋するぞと頑張る話。要するにドヤ街にいるような手配師を始めるのだ。ワゴン車に男たちを詰め込んで労働現場に送り込んでピンハネする。以前に読んだけどイギリスで最下層の階級は日雇いの工場労働者で彼らがサッカーのフーリガンを作ったとか。

 以下ネタバレ


 それで軌道に乗っていくがローチ先生の作品は甘くない。様々な矛盾を見せてくる。不法移民が雇ってくれとくるが彼らを利用したら実刑になる。だが現実にマフィアが彼らを利用しても逮捕されない。建築現場ではマフィアが絡む雇用体制があったり、クリーニング工場の主任は言う「移民どもは働かないからダメだ。不法移民は恐怖があるからよく働く」。現場の上からあいつらは二度とよこすなと商品として扱われる。

 だが不渡手形を掴まされてしまって大変。給料が払えないとなるや揉め始める。タダ働きかと移民たちが怒るんだ。町を歩いてると問答無用で男に殴られる。それでも給料を払わない主人公。彼女もまたアイルランド系で貧しく育った。父は言う「孫の事が心配だよ。数年後にはコソボ人だとかルーマニア人なんかと仕事を取り合うことになる。しかも最低賃金の仕事をだ」。「じゃあ右翼に入れば?」「あんな嘘つきたちと一緒にやれるか」。主人公「お父さんは30年間同じ仕事をしてきた。わたしたちは30の仕事をこなしている。時代も何もかもが違うのよ。私は負け組にはなりたくない」。「お前は家族がよければ他人なんてどうでもいいんだな」。この自由な世界の中を心を鬼にして儲けてる。一つの部屋に移民を数人押し込めば不動産契約だけで儲けるようなことに気づいていく。それでも足りないと不法移民のトレーラーハウス街を通報し一掃させて暮らさせる。ルームメイトのパートナーはついていけないと去っていく。

 息子と仲良く暮らしてると覆面した男たちが強盗に入ってくる。彼らは言う「私の友達の息子は工場へ行ったら服が巻き込まれて体が真っ二つになって帰ってきた。我々の息子とお前らの息子は価値が違うのか?」。息子は無事だが財産は奪われてしまう。会社も軌道に乗りはじめて再び東欧へリクルートへ向かうのだった。

 ローチ作品らしくシステムに支配されている人々を描いていて主人公もその一人。彼の視点は常にそういった人々を作る社会そのものへと向けられる。途中で主人公は言われる「企業がやってる事を個人ができると思うか?一部の人間だけが決して損をしない社会なんだ」。自由とは一体何なのか。搾取する自由も搾取される自由もある。覆面して襲う自由も描かれる。
 

トウキョウソナタ

2009-10-03 03:55:02 | おっぱいなし映画
 映画「トウキョウソナタ」見る。黒沢清は「アカルイミライ」がすごく良くてホラー路線じゃないほうがいいんじゃないかと思えてくるほどに良作。香川照之と小泉今日子の夫婦。大学生と小学生の二人の息子がいて幸せな四人家族。家も建ててるし順調そうな一家だ。もちろん香川は上場企業の社員。そこに中国人の女性が会社にやってくる。「夜中まで日本語ベンキョしてきました」。総務部は日本人一人で中国人三人雇える大連に移すらしい。そして上司に言われる「あなたは何ができるのですか?我が社に何の利益をもたらせてくれるのですか?」。無言で荷物をまとめる香川。総務部にいたから特別に何ができるかなんて証明できるかよと不機嫌そうだ。この映画ではこのセリフがずっと尾を引く。あなたは何ができるのですか?不況から人間の価値が求められる社会になった。突然と存在理由の証明を求められる社会になってしまった。それは働く現場だけでなく家族もそう。家族の役割を求められるだけでなく、存在理由を示さなくてはならないと言ってるようなもの。世間のお父さんたちは不況の中を毎日遅くまで必死で働いてきた。だが得てきたものは何なのか。長男は大学生だからバブル期の生まれ。そんなゆとりがどうたら言われてる世代がどう日本を見つめているのかも注目だ。


 以下ネタバレ


 失業しても家族に言えない香川。かといって家を出ても通勤の流れについていけない。向かう先はもちろんハローワーク。紹介されるのはライン工だとかそういうの。「ワタクシはこう見えても某企業で管理職をやっておりました」「いいのありましたよ管理職の人向け。ニコニコマートの店長です。時給は850円」「・・・」。食事の配給があってバブルゴートゥー配給という素敵すぎる展開に。そこで同級生と出会う。つまり香川は地元のトウキョウ出身である。配給の背景には首都高や高層ビルの無機質な光景が立ち並ぶ。バブル以前のボロアパートでも人間味があった時代の光景は微塵もなく無言で人間の存在を圧迫する。この同級生もまた失業してるが彼は虚栄心からか失業を隠し続ける。携帯電話は1時間に5回は自動的になるというプレイを披露。電話してると仕事に忙しい人に見えるのだ。図書館はいい暇つぶしだと教えてくれる。失業保険の貰い方なんかにもくわしいが家族にはまだ言ってない。心配させたくないから言えないのと虚栄心とハローワークの現実と。それを見て香川は「おまえすごいな」。日本という社会が緩やかに衰えてる光景を描く。ハロワはもうダメだともちろん上場企業の面接に行く。すると一回りは年下面接官に明らかに小バカに言われる「あなたは何ができるのですか?」。「・・・ワタクシは総務でしたので人間関係を円滑にできます。例えば特技はカラオケです」。「は?じゃあカラオケやってよここで」。

 香川は言う「おれは何でもやる覚悟でいるんだ。でも社会が受け入れてくれない」。それを聞いて同級生「おれたちは緩やかに沈んでいく船なんだよ。とっくに女性と子供と若い連中は救命ボートに乗って行ってしまった」。この世代がようやく気づいた現実。だが若いのと違って抱えてるものの大きさが違いすぎる。そして同級生は奥さんを巻き込んで心中する。彼は幸せのまま死にたかったんだ。

 長男はティッシュ配りのバイトをやってる。面倒だからと川に捨ててるような青年だ。アメリカの法律が変わって日本人のアメリカ軍入隊希望者を受け入れると。すると真っ先に応募。もちろん父の香川と喧嘩になる。家族の父親としての役割をできてないじゃないかとなる。日本は憲法9条すら変えられない。おれは日本という国を守るために米軍に入ってみんなを守るんだと存在理由がはっきりしている。現実を見つめすぎてるとすら言える視点でもある。そして中東の戦場へ向かっていく。

 一方で次男の小学生はピアノの先生に一目惚れ。だが父はピアノレッスンを認めない。男ならどうたらとか勉強しろでなく理由は簡単で自分が失業してるから。もちろん家族には言ってない。そこで次男は給食代を勝手に月謝にして習う。キーボードも拾ってきて隠れて練習。しかも才能があると認めてもらってる。

 父は仕事が決まってショッピングセンターの清掃員。もちろんバイト君である。上場企業ゴートゥー清掃員という流れで着替える場所すらバイト君にはないので廊下。メンバー同士で「おはようございます」も「おつかれさまです」という会話すらない。なぜなら全員が「おれはここにいる人間じゃない」と思ってるからだ。「あなたは何ができるのですか?」という自問自答を延々と続けてきた人間たちなのだ。そして出た結論がここにいる自分は自分じゃないので挨拶もしないと。トウキョウって町は怖いと香川も驚くのだ。一方で小泉今日子が待ってる家には強盗が入ってと。それでまあなんちゃらと色々と起こる。描かれるのは男には「あなたは何ができるのですか?」というグローバルな役割で女は家を守るという旧来の家族の役割。小泉今日子は母や妻として存在の理由を自分で自覚してても社会に認められてても腑に落ちない。そこに仕事をなくしたアウトローになりつつある泥棒の役所広司が混じってくる。元々は優秀な鍵屋だったが今じゃそれをいかした泥棒だ。鍵を作る事も破る事もできるということを自覚してる。泥棒と小泉は一緒に逃げようとする。この映画が厳しいのはハッキリと何もできないであろう世代とこれからの世代にわけている。次男は音大の付属中学を受けてずば抜けた才能を見せつける。彼のソナタはまるで「あんたら何やってるんだ?」と訴えてるかのようだ。周囲の大人たちは圧倒されて言葉も拍手すらもできない。