without a trace

ヤマザキ、フリーターを撃て!

セプテンバー11

2005-09-30 03:55:22 | 映画
 映画「セプテンバー11」

 監督:ケン・ローチ、クロード・ルルーシュ、ダニス・タノヴィッチ(ボスニア)、今村昌平、アモス・ギタイ(イスラエル)、ショーン・ペン、サミラ・マフマルバフ、ユーセフ・シャヒーン(エジプト)、イドリッサ・ウエドラオゴ(ブルキナファソ)、ミーラー・ナイール(インド)、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

 ニューヨークの9.11テロに対しての世界中の監督によるオムニバス。全作11分9秒で構成されてる。あれは衝撃的な事件だったんだけども、世界中の人間が手放しで悲嘆したわけでもない。複雑な思いが映し出される。 人の命の重さとはまったく違うって事がわかる。

 ボスニアではユーゴ内戦によって男たちは戦場へ行って殺された。残された女たちは誰もが注目されないデモに出かけていく。女たちが旗を持って連なり、冷戦時代に立てられた建物は弾痕だらけ、隣には両足のない生き残った男、どこかギリシャのアンゲロプロスっぽい。

 ショーン・ペンの作品では孤独な一人暮らしの爺さんが出てくる。彼は耐えられないのか、もはや誰もいないベッドに向かって話しかけている。妻が好きだった花は枯れっぱなしだ。彼は既に妻が死んでることをわかってるが受け止められない。誰も彼の悲しみの世界を崩せないし入り込む隙間さえない。その隙間に太陽の光がさした時、夢と死が混じり合う光の中で彼はベッドに向かって号泣している。しかもこれは彼の死をも暗示してるんじゃないかな。

 ケン・ローチはやっぱり9.11に起きたチリの独裁政権による虐殺事件。アジェンデ大統領の社会主義政権をアメリカ協力によって将軍のピノチェトがクーデターを起こす。そして数万人の人間が虐殺されていく。チリって今でもビルを壊すと壁の中から死体が出てくると聞いたことがある。アメリカの行ってきた自由の強制の失敗例。 当時の本物の映像とブッシュの宣言が皮肉的に映し出される。やっぱこの監督は只者ではない。

 今村昌平は戦争に行ったショックから蛇として生きていく男の話。この設定からしてエロス。みんなで村人が殺すでもなく抑えられてる感じがする。北野武がこのオファーを断ったとか。中国や韓国の監督の9.11に対する捉え方も見たかったかな。
 ★★1/2

続・激突!/カージャック

2005-09-29 02:14:10 | 映画
 映画「続・激突!/カージャック」

 監督:スティーブン・スピルバーグ。ゴールディ・ホーン、ウィリアム・アザートン、ベン・ジョンソン。73年

 子供に会うために刑務所から夫婦で脱走していく実話。個人的にはスピルバーグってあまり評価されない映画がとんでもない逸品だったりする。「未知との遭遇」なんかもう傑作。この映画は「激突」の続編ぽいタイトルだけど全く関係ない。パトカーを盗んでテキサス中の警察から追いまわされる。警察を撒いたと思ったらそこはテキサス、頭のおかしい連中が問答無用で撃ってくる。養子に出されてしまった子供に会いに行くために警官を人質に逃走してる若い夫婦は一般人のヒーローになってしまう。逃亡してるパトカーをパトカーと一般人の車の大群が追いかけていくという奇妙な光景。夫の見てるアニメのキャラクターは落ちていく、妻は豚に小便を引っ掛けられる、あの事件と一緒だと言う新聞記者、もうスピルバーグワールド。この頃からやっぱり既に家庭は崩壊してる。スピルバーグなのにニューシネマなんだよね。でもやっぱりスピルバーグなんだ。

 日本では長谷川和彦の「青春の殺人者」。これも同じ69年に起きた実際の事件を70年代に映画化している。両親を殺して家庭を崩壊させていく。ここら辺比べると面白いかも。
 スピ鑑賞20本目。★★★★
 

見忘れた

2005-09-28 05:20:56 | 駄文
 寝てたらテレビ東京のヘビメタさん見忘れちゃった。しかも最終回じゃないっすか。なんとか再放送して欲しいな。西新宿在住らしい元メガデスのギタリストが日本語で出てるっていうすごい番組。といってもおれらの世代はグリーンデイやオフスプリングとかちょうどメロコアなんかの90年代パンクが爆発した頃なので正直メタルはよくわからない。ちょっと上の世代まではメタルやグランジ好きが多いんだけどね。学生時代に音楽サークルにいたんだけど、長髪で頭を振り回してるのを見てこいつら何やってるんだなんて思ってた。

 というわけでかなり勉強になっちゃう番組だった。メガデスってアルバム二枚持ってるんだけど、怒り満載の物凄い怖い人たちなのかと思ってた。でもフリードマンが盆踊りはメタルですよとか言ってギター弾いて爆笑。この番組見てて思い出したのは深夜にやってた「金髪先生」。ドリアン助川って人が色んなロックバンドを毎週教えてくれて勉強になったなー。録画して残しとけばよかった。メンバーが捕まっちゃったりして終わっちゃったんだよね。団塊世代の技術を伝えるのが急務なら、この手のロックお勉強番組も伝えていくべき。

特別な一日

2005-09-27 03:42:41 | 映画
 映画「特別な一日」

 監督:エットーレ・スコラ。ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ。77年

 ムッソリーニ政権下のイタリアにナチスのヒットラーがやってくる日の情事。S・ローレンとマストロヤンニと言えばやっぱり傑作「ひまわり」が浮かぶ。あの映画は待つ話だった。ここでは違った意味で待たされている。もう完全にS・ローレンが映画を食っちゃってる感じ。

 ヒットラーがやってきて同盟を結んでる時に不貞を働く男女。女は時代を反映したファシスト、夫は筋金入りのファシスト党員で支配的。男は同性愛者で社会から隔離されかかってる。男の支配的な母の話があってから情事シーンがある。このシーンの後に同性愛者と普通の女のセックスがあるとどう見ても性虐待されてる子供にしか見えない。間接的に母から許してもらってるんだろう。ソフィア・ローレンは母であり、夫と男の間に揺れる女でもある。だから飛んでいる飛行機は三機で、読む本は三銃士でないとならない。ファシストに連れて行かれる男、支配的な夫に向かう女、彼らの向きは逆。二度と同じ方向を向く事はない。

 男二人を結んでる女。この男たちは社会そのものなんだから、社会を子宮が結んでる事になる。ちょっとキリスト教の話になるんでわからない。同性愛とファシズムだとベルトルッチの「暗殺の森」は父(=男根)だと思うんだけど、これは逆だと思う。イタリア映画をよく見る人には評価高いんじゃないかな。
 ムッソリーニの孫が出演してる。この人はS・ローレンと一応親戚。
 ★★

ナビゲーター ある鉄道員の物語

2005-09-26 04:17:51 | 映画
 映画「ナビゲーター ある鉄道員の物語」

 監督:ケン・ローチ。

 民営化された鉄道会社の労働者たちを追った実話。運転手や駅員の話ではなくて線路工事をする人たちの話。この手の映画だとどうしても組合がどうたらとなったり、労働争議だとかになりそうだけども既に民営化されてる状態から始まるのでそういうのは出てこない。

 会社はわざと工具や部品を壊すように命じたりして狡猾に仕事を無くしていく。徐々に会社を出て行く労働者たち。それで線路工事を請け負う人材派遣会社が拾っていく。時給はそれなりに高いが仕事はあるかないかわからない。無理な仕事も少ない人数でこなさないとならず、現場のリーダーとかいう人から会社に文句を言われたらもう呼んでもらえない。意味のわからない研修では雇われる側が金を払う。交通費などあるわけない。日本と全く一緒だ。しかも日本では平気で人材派遣会社がヘルパーを養成してテレビでCMまでやってる。ムーアも世界最大の人材派遣会社に突っ込んでた。

 それで彼らは働くが人員が足りないために労働者が電車に轢かれてしまう。ほとんど音がしない電車で彼らは誰も気づかない。そういった電車が走ってる事も知らない元鉄道員たちと企業の決定的な差。そして仕事を無くしたくないために仕掛けを始める。

 鉄の女サッチャーが小さな政府を掲げて色々と民営化。社会は変革せざるを得ない。この映画はそういった変革に対して批判してるというよりも、雇用側もまとめて歪みに巻き込まれていく人々って感じがする。それでも視点は元祖ニートの大英帝国らしく絶望的な労働者階級ムービー。華やかなことが起こるでもなく、昔のように労働争議が起こるでもなく、現実的で何もカタルシスなどない。この監督が厳しいと思うのは労働者万歳じゃない所。登場人物たちは決して連帯などしてはいないし、愛があればどうたらなんて生易しい世界に生きてない。
 ローチ鑑賞3本目。★★★