without a trace

ヤマザキ、フリーターを撃て!

スキャナーズ

2004-09-28 00:15:31 | 映画
 映画「スキャナーズ」 


 監督、脚本:デヴィッド・クローネンバーグ。マイケル・アイアンサイド。81年


 頭爆発でボーン、目玉飛び出し、得体の知れない何かとの融合などクローネンバーグワールドが既にあちこちに見れる。人を操れる超能力者が世界征服を乗っ取ろうとしている。それを阻止すべく他の超能力者たちが戦いを挑むという、お馬鹿だけど面白いB級SFホラー。



 SFって基本は哲学だから難しい。例えば、この映画だと後半に妊婦の腹にいる子供が既に超能力を備えていることが判明する。なぜなら医者が超能力者を作る世界に加担して薬を妊婦に打っているから。この医者はアメリカの中絶反対のキリスト教原理主義者たちに殺されるというメタファーだろう。彼らは現実に平気で中絶をしてる医者を爆弾とかで殺す。もちろんこの映画でも爆発シーンあり。



 警察も抱え込んだ軍事大企業が人間を変えるべく工作をしていて、全てがコンピューターで繋がっている。そのコンピューターにテレパシーで入り込んで戦うなど先見の明のある映画。ヨガ(精神世界)とコンピューター(人工世界)、両方に入り込める超能力者(精神と人工の世界の狭間にいる=死と隣り合わせ)。ヴァンゲリスのような電子音楽など時代を感じさせるシーンも多いけど、それも「スカーフェイス」チックで良し。
 クローネンバーグ鑑賞7本目。★★★1/2

非常線の女

2004-09-20 00:11:16 | 映画
 映画「非常線の女」


 監督:小津安二郎。田中絹代、岡譲二。33年


 今まで見た小津映画の中で最もハリウッドっぽい。「朗らかに歩め」のようなギャング物。逃亡シーンでの音楽もタンゴ調だったりと思いっきりノワール。姉と弟だけの貧しい家庭で姉が苦労している姿はそのまんま「東京の女」。でもあの映画ほど暗さは無く、どちらかというとメロドラマ。


 伏線もベタだし、そもそも田中絹代はチンピラ顔じゃない。卓球やりながら奇声発してそうな顔だ。それでも驚いたのは二人が逃げるシーンや何気ない物を映してるシーン。もろにハリウッドで驚き。いかに小津が若い頃にアメリカ映画が好きだったかわかる。一番驚きなのは、思いっきり心理描写が省かれている所。 小津鑑賞22本目。★★

ドキュメンタリー

2004-09-13 01:54:54 | Weblog
 ブッシュ家のなんたらかんたらという番組をたけしがやっていたが、田中宇が出てきた時点で変える。あの人の情報源はネットだし。東スポに行ってネッシーって実在するんですか?って聞きに行ってるようなもんじゃないか。先週だかにやっていたCBSのケネディ家の子供たちの方が全然面白い。

 ハーバード大学の数年前の学生運動のドキュメンタリーを見る。大学での清掃員などの労働者の苛酷な現実は凄まじい。仕事を2つかけもちしないと生きていけず、帰ってくるのは23時半。0時に寝て4時には仕事という生活を週に6日もしている。彼らの賃金をどんどん下げる大学に学生がついに蜂起する。学長室を占拠し、大学にテントを張って暮らす。最初から全てを映像として残しているのがさすが。それを地元のメディアに送りつける。大学としては、警察に突入させて衝突する映像を国中に晒すわけにはいかない。「A」で明らかに公安がオウムに越権行為を行っていた映像が残っていたのと同じで、映像は真実として記録される。


 ここで蜂起したのが学生じゃなくて労働者だったら即刻で逮捕されてクビにされただろう。数十年も働いても、一流大を出た学生の初年収に死んでも追いつけないという現実。あんな環境じゃ「グッドウィルハンティング」での主人公の苦悩も当然。この運動は全米の大学に広がって改善されましたとさと終わる。


 
 テレ東でM・ムーアの「アホでマヌケな~」も見るが、何が自由なのか考えさせられる。まるで貧乏人には人権はないかのようだ。ヨーロッパなんて外国人でも医療費がタダなんて国もあるのに、世界で最も医療の進んでるアメリカではバカ高い。おれがインドで入院した政府系病院も無料だった。その代わり乞食だらけだったけども。その後に入った民間の一流病院はなんと1日1万円。保障とは金なのだろうか。
 どうせなら「ロジャー&ミー」もやるべきなのに。



お茶漬けの味

2004-09-05 23:17:03 | 映画

 映画「お茶漬けの味」


 監督:小津安二郎。佐分利信、木暮実千代、鶴田浩二、淡島千景。52年


 前半は退屈だったが、後半はさすがの展開。戦争中に書いてたシナリオがお蔵入りしていたようで、本当は後半に夫が南米に行くのではなく、戦争に行くという話。その方が崩壊を描いていた小津らしい。だから珍しくこの映画は家庭の崩壊ではなくて再生という逆の話になってる。小津曰く「失敗作」


 戦前と戦後を対比させていて、それがあちこちで出てくる。木暮は常に着物を着ているが、部屋は完全な洋室で神戸育ち。戦前だからお見合いで結婚をさせられていた世代。姪がお見合いにこなかったのに激怒する。それは自分もお見合いで結婚させられたんだという人生への怒りの転嫁でもある。そして彼女は気づく。姪に怒ってるのではなく、自分に夫に頭にきてるんだと。そして夫が出張でいなくなってから、初めて夫婦愛に気づいていく。本来の脚本は夫が出征して、失ってから初めて気づくって展開だったんだろう。


 夫婦はお茶漬け。お茶とご飯のごちゃ混ぜ。一見は下品でマッチしてなさそうだが、不思議と食べてみるとおいしい。さすがにこの映画は演技がうまくない笠智衆が脇役で、芸達者な二人を夫婦にしてる。なぜか小津の女性に対する見方はかなりシビアに見える。
 小津観賞21本目★★★1/2


DISTANCE

2004-09-02 23:16:26 | 映画
 映画「DISTANCE」


 監督、脚本:是枝裕和。ARATA、伊勢谷友介、夏川結衣、浅野忠信


 カルト教団による集団殺人テロが起こり、彼らは自決する。その加害者側の遺族と元教団の男が一晩を過ごすハメになる話。もちろん素材はオウムの事件。といっても実際にオウム内部に入って撮った衝撃作「A」と比べてしまうとフィクションの要素が大きすぎるけど。


 天然光を使う、スタジオを使わないなどドグマ95的な撮影と、役者に自分のパートの脚本しか渡さないなどして撮られた映画。そのため、小津のような計算された定型的な”間”とは違う、独特の”間”がある。家族はなぜカルト教団に入ってしまったのか、その過去のと現在が交錯してそれぞれの距離が丁寧に描かれる。是枝の「ワンダフルライフ」時の舞台挨拶に行ったんだけど、観客の質問に言葉を選んで答える丁寧な人だなと思った。それがここでも滲み出てる。また、HP読めばわかるけどかなりリベラルな主張をする人なのでそれも良くも悪くも滲み出てしまってる。喪失と再生にこだわる人。


 集団自決した後に湖に灰を流してる。そこに供養に行くんだけど、車が盗まれてしまう。誰が盗んだかは後にわかってくる。みんな誰でもそれぞれが家族と、他人と、社会との距離を模索して生きている。カルトにはまっていく遠藤憲一が言う「本当って何だよ?何で世の中はこんなに濁ってるんだよ?」。多くの人が感じてる社会の何かのずれを言い表してると思う。


 ここでは絶対的存在の父性の喪失が大きい。そのために父がカルトの教祖であるARATAは彷徨うしかない。父にとって家族は宗教団体という疑似家族だから。彼は自己を保つために疑似家族を作り上げる。それは姉であり父である。そして彼らがいなくなった時に疑似家族を捨て(=本当の家族を捨て)、もう元の場所に戻ってくることはないだろう。自分自身が絶対的存在になったのだから。
 是枝観賞3本目。70本目。★★★