落合順平 作品集

現代小説の部屋。

上州の「寅」(42)3番レジ

2020-11-24 19:00:27 | 現代小説
上州の「寅」(42)3番レジ


 「突き当りを右。そのまま直進して2キロ。
 左前方に建物が見えてくる。そこが目的地のホームセンター」


 助手席へ座ったチャコがすらすらと指示を出す。
まるで何度もこの道を走った様な雰囲気だ。


 「前にも来たことがあるの?。この島へ」


 「ある。2回来た」


 「2度も来たの?。なにか特別な用事でもあったのか?」


 「普段はぼんやりしているくせに、ときどき鋭くなるわね、あんたも。
 行けばわかる。そこに答えがある」


 「どんな答えだ?」


 「そのうちわかる。いいから前を見て運転してちょうだい。
 あんたの運転は下手くそなんだから」


 「そこまで言うなら君が運転すればいいだろう」
 
 「可愛いレディは助手席が似合うの」


 (ホントに18歳かこいつ。なんだか年上に思えてきた・・・)
寅が口の中で毒づく。
実際、寅の運転はたどたどしい。とにかく危なっかしい。
ようやく左に目的地のホームセンターが見えてきた。

 寅がよたよたとブレーキを踏む。
よたよたは普通、足元が定まらず、足がもつれたように歩くさまを指す。
しかし寅が運転すると、なぜか車もよたよた動く。
おぼつかない動きのまま、ホームセンタの入り口を曲がっていく。
大汗をかきながら寅が、空いているスペースへ車を停める。


 「安全運転だ寅ちゃんは。あたし、胃が痛くなってきた」



 ドンとチャコが助手席のドアを閉める。


 「だから言ったろ。君が運転したほうがはるかに速いって。
 しょうがないだろう。
 免許を取って以来、運転したのはこれで3回目。
 最初が免許が来た日。
 母を乗せてドライブしたら、あんたは2度とハンドルを握るなと言われた。
 2回目が君たちを乗せて宇都宮まで餃子を食べにいったとき。
 そして今日が記念すべき3回目だ」


 「なるほど。よくわかりました。
 じゃ4回目はないよ。安心しな。帰りはわたしが運転するから」


 踵をかえしたチャコがスタスタと、ホームセンターへ消えていく。
寅があわててあとを追う。
こんなときでも寅は遅い。
本人は真剣に走っているのだが、周りから見れば早歩きにしか見えない。


 「あれとこれと、それ」チャコの買い物ははやい。
ぱたぱた選んだあと、あっというまにカートへ積み込む。


 「清算は3番レジのおばちゃんね」


 「3番レジのおばちゃん?。なぜ?」


 「訳がある。いいから3番レジで会計して」


 「どんな訳があるんだ?」


 「3番レジのおばちゃんの顔をよく見ておいてね」


 「おばちゃんの顔をよく見る?。俺のタイプじゃないけど・・・」


 「あんたの好みは関係ない。
 ちゃんと顔を見て会計してちょうだい。あとで感想を聞きますから」


(43)へつづく


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