迷宮映画館

開店休業状態になっており、誠にすいません。

輝ける青春

2005年11月24日 | か行 外国映画
ローマに住むカラーティ一家。大学に通う兄弟がいた。兄のニコラは穏やかな性格で、医者を目指していた。弟のマッテオは、文学先攻。明晰な頭脳と、繊細な精神を持ち、どこかぴりぴりしている。一つ違いの兄弟は仲よく、どちらも試験を控えていた。この試験が終ると、楽しみにしていた旅行に行く。若者の誰しもが自分の道を模索しつつ、生きていた。

口頭試問を行う教授がいい。ニコラに医者としての未来を託す。ニコラにある宝は患者の身になれること。彼の優しさは、医者として大切な資質だった。教授はそれを高く評価するが、同時に現状のイタリアに対して、唾棄すべき国とも思っている。ニコラに対して、才能を活かすためにはイタリアを出ろと促す。此処には、得体のしれない古代からの恐竜がすくっている。此処ではダメだ。才能を発揮できない。そして、自分こそが恐竜の代表なんだと言い放つ。

イタリアの持ち続けてきた問題点。戦争を経て、大敗を喫しながら、生まれ変わる事の出来なかったイタリアの苦悩と、長きに渡った、馴れ合い、汚職、くさいものには蓋の体質がよーく表されている。

日本とイタリアは、同じ政権が長く続かず、よく似ているといわれるが、イタリアの場合は日本とは事情が違う。同じ民族でありながら、小国家的な要素がものすごく色濃い国だ。地域によって、事情も違えば、経済状況も、コミュニティのあり方も全然違う。この映画の中でも、ローマ・ナポリ・トリノ・フィレンチェ・ミラノ・ラヴェンナ・シチリア・トスカーニと、それぞれ個性豊かに地域が登場する。

試験を終えて、悪友とともに旅行をするつもりが、二人は精神を患うジョルジアと出会う。病院で不当な扱いを受けているのを知って、連れ出し、親元に返そうとする。若い正義感は彼女のため、自分達のためと信じて疑わず、突き進むのだが、すぐに挫折をしてしまう。結局は失敗。ニコラは精神科の医者になることを決意し、手折れてしまったマッテオは、より自分を厳しく律するために、軍人への道を歩む。兄弟の別れのときだ。

ここからは別々の道を歩んでいく兄と弟をそれぞれ描いていく。優しくおだやかに、しかし、どんどんと自分の人生を切り拓いていくニコラと、正義に溢れ、悩み、傷付き、どこまでも、どこまでも繊細なマッテオ。時に引き寄せられ、時に対立し、とことん結びついている兄弟。「イン・ハー・シューズ」で、姉妹の持つ、大事な大事な要素を見たが、兄弟の結びつきの強さと、深さをここで見た。

ニコラの愛する女性・ジュリアとは、1966年に起こったフィレンチェの大洪水で、出会った。女の子も生まれるが、社会主義運動全盛の時期。ジュリアはニコラと娘・サラの元を離れ、過激な運動に身を投じていく。イタリアの過激派「赤い旅団」が活動を活発にしたのは、1970年代後半だが、日本の連合赤軍に強く感化され、どんどん過激になっていった頃だ。

一方、マッテオは軍隊から警察に。マフィアの影響力の濃いシチリアに赴任する。そこで、写真の道を目指そうとしているミレッラに逢う。マッテオのとっては、ひとときの邂逅だったが、ミレッラは、自分の生き方まで左右されたほどの出会いと思う。

シチリアで起こる殺人事件。マッテオが捜査に力を入れれば入れるほど、シチリアの住民との対立が激しくなる。殺人事件ですら、口を閉ざそうとする住民たち。マッテオの正義は、どんどん空回りしていく。

ローマに護衛隊として戻ってきたマッテオは、ミレッラと再会し、重要手配犯のジュリアの顔写真を見る。うまく行かない人生。自分は今まで何のために生きてきたのか。自分を偽っても来たのか、ミレッラと出会ったとき、思わず自分をニコラと名乗ってしまった。護衛隊になった自分はジュリアを捕まえるのか・・・。悟りきったように、そしてあまりに哀しくマッテオは、唐突に飛び下りる。マッテオのやりきれなさと、静かな慟哭は、瞬間、心臓をつかまれたような衝撃を受けた。

自分の愛するものを救えなかったとニコラは、自分を責めるが、それでも彼は静かに、強く自分の道を歩んでいく。

ある日、ニコラは写真展で、マッテオが写った写真を見つける。だれが彼を撮ったのか。撮ったところどこか。マッテオの姿は美しかった。彼を撮った写真家は、当然ミレッラ。ミレッラのいるシチリアに行く。そして、知る真実はまた素晴らしい。


6時間、たっぷりと、ゆったりとひたらせていただいた。長いが決して冗長ではない。必要な長さであり、心のための贅沢なご馳走であった。二人の兄弟を中心に、彼らを取り巻く家族、友人、恋人。だれにでも人生があり、喜び、悲しみ、愛を謳歌し、それをしっかりと描いていく。そして、それをキャンパスに描いていくのは役者たち。この役者たちがどれも素晴らしい。

凝視していたい男性たち。久々にそんな思いを抱かせた男優たちもよければ、風景がまた素晴らしい。もとはTVシリーズで作られたと言う事で、大写しにすると、少々画面が荒いが、そんな事も吹っ飛ぶ。イタリア各地に、北欧のピリッとした空気まで、どれも悠久の自然が写される。「本当に全てが美しい」という言葉が、これほど素直に出てくる風景だ。

1966年から2003年まで時代を追っていくのだが、イタリアにはしっかりと古いものが根付いているので、何の違和感もなければ、うらやましいまでの文化財だ。40年という時の流れを象徴している『フィアット』のモデルチェンジも面白い。

全編を流れる曲もまた時代を象徴している。冒頭の「朝日のあたる家」のやるせなさに始まり、どの曲も画面にぴったり来る。後半の始まりのクィーンの「Who wants to live forever」がまた沁みる。

時間的制約が大きく、見たくても見ることの出来なかった方が大勢いらっしゃると思う。出来れば、自分の陳腐な言葉で感想などあらわすなど、おこがましくて、あらわしたくはないほどなのだが、見れなかった方のために、少々長く書いた。こういうものに出会えるから、やはり映画はやめられない。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
輝ける青春 (あん)
2005-11-25 09:36:35
岩波ホールで7月15日に見ました。まるで、長編小説を読んでいるような、中だるみもなく一気に見せましたね。

今年109本の映画を見ていますが、間違いなくベスト10に入ります。
返信する
たっぷりと (sakurai)
2005-11-25 13:54:51
でも、脂ぎっていない。ゆったりと懐石料理を味わったという雰囲気でしょうか。心がとっても満足しました。

たまにこういう映画もいいですよね。

ありがとうございました。
返信する
きゃぁ~♪ (メル)
2008-12-06 09:40:38
sakuraiさん、この記事を載せてらっしゃったんですね~♪
いままで気づかず(^^;;)

この映画、すっごく好きなんですよ~!!!
また時間を見つけて、どーんと続けてこの
大河ドラマ的壮大な人生物語を見てみたいです♪

そうそう、こういういい映画に出会えるので
見るの止められませんよね~。

あ、昨日「普通じゃない人」を借りて来ました(^▽^)V
ちょっと今日はこれから忙しくなるので
明日になるかもしれませんが、見る予定です♪
楽しみです~~~~♪その節はいろいろ教えてくださって、どうもありがとうございます
返信する
>メルさま (sakurai)
2008-12-06 23:06:44
ちゃんと見ましたよ。
スクリーンで見たのが私の自慢です。
えっへん。
小さなひとつに家族なのに、壮大なんですよね。示唆も多かったし。全体の物語の構成も素晴らしかったと思いますが、やっぱいい男がずらり!!というのも垂涎でしたね。
イタリア男は世界一セクシー・・とか言われても、ケイン・・・じゃなかったコスギで、いまいち苦手だったのですが、この男性陣は、素敵な人たちの勢ぞろいでしたよ。

「運命じゃない人」ですよね。
感想、楽しみにしてます。
返信する

コメントを投稿