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★魏志倭人伝への疑問を削除し、ありがたがる自由社版教科書-記述検証〈5〉

まず、以下の文章をお読みください。
 
『国民の歴史』(西尾幹二著、新しい歴史教科書をつくる会編)
『魏志倭人伝』は日本の内情に関する唯一最古の文字文献として、敗戦後の日本古代史研究に猛威をふるってきた。この書が示す邪馬台国の女王卑弥呼の3世紀前半における実在を前提として、大和朝廷の位置や年代が左右されてきたからである。
私には不思議でならない。
尊重されてきた理由は唯一最古の文字文献だからだが、まったく同じ理由から、私はこの文書は歴史資料としての価値がほとんどないと信じている。その所以を説明するのが本項の主題である。
(中略)
結論を先にいえば、『魏志倭人伝』を用いて歴史を叙述することは、はなから不可能なのである。
(中略)
あれは歴史資料ではない。不正確な距離推定や地形描写や、影か幻のような人のうごめきがつづられているだけであり、まさに「廃墟」である。
(後略)

扶桑社『新しい歴史教科書』初版本(代表執筆者・西尾幹二)
しかし、魏志倭人伝を書いた歴史家は、日本列島にきていない。それより約40年前に日本を訪れた使者が聞いたことを、歴史家が記していると想像されているにすぎない。また、その使者にしても、列島の玄関口にあたる福岡県のある地点にとどまり、邪馬台国を訪れてもいないし、日本列島を旅してもいない。記事は必ずしも正確とはいえず、邪馬台国が日本のどこにあったのかはっきりしていない。大和(奈良県)説、九州説など、いまだに論争が続いている。
 
自分は保守だ、日本人の歴史を取り戻したいと思っている人は、全くその通りだと同意するはずです。支那の記録よりも古事記、日本書紀を大事にしろと。
 
ところが、今回検定に合格した「新しい歴史教科書をつくる会」の自由社版中学校歴史教科書の市販本は、表紙を開くと代表執筆者の藤岡信勝会長がこんなことを書いています。


外国人による日本人の道徳性についての高い評価は、今に始まったことではありません。古代中国の文献「魏志倭人伝」は、盗みが無いこと、争いごとが少ないこと、風俗が乱れていないことを伝えています。魏志倭人伝が書かれた3世紀から、日本は道徳的な高さにおいて特別の国だったのです。

教科書の中身にも「外の眼から見た日本 魏志倭人伝から」と題するこんな囲み記事があります。(p39)
風俗は乱れていない。盗みがなく、争いごとも少ない。死者が出ると家族は10日間ほど喪に服し、埋葬したあとは水辺で沐浴し、身を清めている。

  
なんと、不確かな魏志倭人伝をありがたがって、日本人の道徳性を述べているのです。
 
こういう日本人論は生理的に受け付けません。気持ち悪いのです。吐き気がします。
 
どうも怪しい教科書だなあと思って、現行版(平成22年度版)と比べると…。

 
現行版にある「倭人伝の記述には不正確な内容も多く」という文言をそっくり削除しています(ちなみにフジサンケイグループ育鵬社の教科書には「倭人伝の記述の不正確さのために」という表記があります)。
 
西尾幹二さんは自由社版の執筆者欄に名前を残してもらうために黙っているのでしょうか。「新しい歴史教科書をつくる会」は、善良な一般会員を拉致して、とんでもない方向に暴走していると言わざるを得ません。
 
(つづく)
 
※これまでの連載
 ★南京事件への疑問を削除した自由社版教科書-記述検証〈1〉
 ★秀吉の朝鮮出兵を「侵略」に戻した自由社版教科書-記述検証〈2〉
 ★梶山静六を梶山清六と書く自由社版教科書-記述検証〈3〉
 ★内村鑑三も新渡戸稲造も載っていない自由社版教科書-記述検証〈4〉
 
育鵬社や自由社版の記述について情報を募集しています。
 project-justice@mail.goo.ne.jp
 
※自由社の現行版(平成22年度版)の記述については、こちらから順次ご覧ください。
 ★安重根を取り上げ志士と称える自由社版教科書-扶桑社版からの改悪<上>
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