今月もポスターは派手派手。ご丁寧に第一部から第三部まで写真のポスターがつくられている。第三部のポスターは勘三郎にあらず。串田和美の歌舞伎座初演出で話題になっているが、その串田氏がつくった「法界坊人形」のアップ写真だ。その人形が2階ロビーに説明と共に飾られていた。
『串田戯場(くしだワールド)法界坊(ほうかいぼう) 』
奈河七五三助作の『隅田川続俤』を串田和美が演出・美術した舞台。5年前の平成中村座での初演だが、観ていない。
「法界坊人形」を見てから舞台の幕開きを見たために、舞台の左右の奥にある人形群にもそんなに驚かなかったが、これは江戸時代の芝居小屋のつくりを意識した舞台づくりをしたようだ。舞台の左右奥に「羅漢台」とか「吉野」とか言われる桟敷舞台を再現し、そこに観客がいるように人形が並べられている。さらにそこにも仕掛けがあってちょっとお遊びがあるのもご愛嬌。役者の後姿しか見えないが安い席だったようだ。しかし江戸の芝居小屋の役者と観客が一体になるような劇場ということを今回の串田ワールドの舞台づくりの前提にしたようだ。
『法界坊』の通常の演出版の舞台も未見なので、第3幕が基本的に舞踊劇だということも知らずに観てびっくり驚いた。
あらすじは以下の通り(松竹のHPより)。
堕落し切った願人坊主の法界坊(勘三郎)は、永楽屋権左衛門(弥十郎)の娘お組(扇雀)にひと目惚れしますが、お組は手代要助(福助)と恋仲で、もとより法界坊には目もくれません。要助は、実は御家再興を期す吉田家の嫡男松若で、野分姫(七之助)という許嫁のいる身。法界坊は、そんな要助を陥れようとしますが、吉田家の下僕で、道具屋に姿を変えている甚三郎(橋之助)に暴かれ失敗。その腹いせにお組を誘拐しようとしますが、これまた失敗。さらに今度は、野分姫をかどわかそうとしますが、拒否されると「お組との仲にはじゃまだから殺すよう要助に頼まれた」と偽って、野分姫を斬り殺します。しかしその法界坊も、甚三郎の手に掛かって、あっけなく絶命。と思いきや、現世に恨みを残す野分姫と合体霊となって姿を現し、要助実は松若とお組を苦しめる執念深さを見せます。
(合体霊が現れて宙乗りしてふたりを追いかけ始めるまでが第2幕までで、苦しめるところは舞踊)
法界坊の鬘はこれまでのものと違って「法界坊人形」と同じパンクロッカーのようなつんつん髪の頭。禿部分は布切れが貼ってあるような感じで灰色メッシュまで入っていた。羅漢席の人形との一体的な視覚的なねらいがあったのかもと思う。とにかく滅茶苦茶自己チューの悪党の破戒僧で金を手に入れて還俗してぞっこんのお組坊と添いたいのだ。それを愛嬌たっぷりに勘三郎が演じていておかしい。
七之助の赤姫が可愛くてよかった。それでも松若につれなくされるとすぐに懐刀で自害しようとする振りが繰り返されるコメディエンヌぶり。「野田版鼠小僧」のおしなが思い出された。勘太郎もお組に言い寄る金持ちの息子の阿呆ぶりがよかったし、第三幕ではまた女船頭との二役で器用なところを見せていた。やはりお組に言い寄る番頭役の亀蔵もうまい。
要助=松若で久しぶりに福助の立ち役を観たが、今回はよかった。勘三郎の弁天小僧でみた赤星十三郎の時、声がおかしかったのでがっかりしたのだった。お組の扇雀とのじゃらじゃらした痴話喧嘩も可愛かった。それと茶屋女将の芝のぶがしっかりした女将ぶりで見直した。
法界坊が権左衛門らを次々と殺すところは『鈴が森』で白井権八が雲助たちの手足や顔をすぱっと切るやり方と同じ方法をとっていたので歌舞伎のお馴染みの手法なんだなと納得。野分姫も殺してさあ、お組というところで甚三郎にやられそうという予感が正夢になって殺されるあたりまで、とにかくギャグ多発で楽しかった。左右が違う顔の合体霊による宙乗りも勘三郎、汗みずくで頑張っていた。
そこまでは楽しかったのに...。
国立劇場での『本朝廿四孝』の通し上演も第2幕が舞踊劇だったけど。でも最後が舞踊なんだとわかってなんだか冷めてしまった私。「合体霊が後シテ、甚三郎が押し戻しのようになって終わるのがなんか道成寺みたいで変」って思ってしまった。
あとで「歌舞伎座掌本」を読んだら、この部分の舞踊は立ち役だった中村仲蔵がどうしても道成寺を踊りたくてこれを作ったと書いてあって、納得したが、それでもうーん。
せっかくの串田版なのだから普通のお芝居にして終わって欲しかったとか思うのは私が変なのか?舞踊好きじゃないからか?これでしめくくられてちょっと不満。
通常の演出の方の「法界坊」を観てみたい。そうすればそんなものかと観ることができるような気がする。あとはコクーン版で思いっきり縮めて踊りを芝居にしたバージョンも観たいなと、ふと思いついた。怖いもの知らずで勝手な企画を作っている。
写真は、「法界坊人形」ポスターの顔部分。外に貼ってあるものを携帯のカメラで撮影。
追記
①江戸時代の芝居小屋のつくりについては、奥村書店でこの日買ってきた岩波書店同時代ライブラリーの服部幸雄著『江戸歌舞伎』を読み始めたため、ちょうどわかったことである。
②当初、8/7と書いたが8/14のマチガイである。ああ8/7の『もとの黙阿弥』の感想を書いてないので間違えた。夏ボケ、お盆ボケか・・・。
『串田戯場(くしだワールド)法界坊(ほうかいぼう) 』
奈河七五三助作の『隅田川続俤』を串田和美が演出・美術した舞台。5年前の平成中村座での初演だが、観ていない。
「法界坊人形」を見てから舞台の幕開きを見たために、舞台の左右の奥にある人形群にもそんなに驚かなかったが、これは江戸時代の芝居小屋のつくりを意識した舞台づくりをしたようだ。舞台の左右奥に「羅漢台」とか「吉野」とか言われる桟敷舞台を再現し、そこに観客がいるように人形が並べられている。さらにそこにも仕掛けがあってちょっとお遊びがあるのもご愛嬌。役者の後姿しか見えないが安い席だったようだ。しかし江戸の芝居小屋の役者と観客が一体になるような劇場ということを今回の串田ワールドの舞台づくりの前提にしたようだ。
『法界坊』の通常の演出版の舞台も未見なので、第3幕が基本的に舞踊劇だということも知らずに観てびっくり驚いた。
あらすじは以下の通り(松竹のHPより)。
堕落し切った願人坊主の法界坊(勘三郎)は、永楽屋権左衛門(弥十郎)の娘お組(扇雀)にひと目惚れしますが、お組は手代要助(福助)と恋仲で、もとより法界坊には目もくれません。要助は、実は御家再興を期す吉田家の嫡男松若で、野分姫(七之助)という許嫁のいる身。法界坊は、そんな要助を陥れようとしますが、吉田家の下僕で、道具屋に姿を変えている甚三郎(橋之助)に暴かれ失敗。その腹いせにお組を誘拐しようとしますが、これまた失敗。さらに今度は、野分姫をかどわかそうとしますが、拒否されると「お組との仲にはじゃまだから殺すよう要助に頼まれた」と偽って、野分姫を斬り殺します。しかしその法界坊も、甚三郎の手に掛かって、あっけなく絶命。と思いきや、現世に恨みを残す野分姫と合体霊となって姿を現し、要助実は松若とお組を苦しめる執念深さを見せます。
(合体霊が現れて宙乗りしてふたりを追いかけ始めるまでが第2幕までで、苦しめるところは舞踊)
法界坊の鬘はこれまでのものと違って「法界坊人形」と同じパンクロッカーのようなつんつん髪の頭。禿部分は布切れが貼ってあるような感じで灰色メッシュまで入っていた。羅漢席の人形との一体的な視覚的なねらいがあったのかもと思う。とにかく滅茶苦茶自己チューの悪党の破戒僧で金を手に入れて還俗してぞっこんのお組坊と添いたいのだ。それを愛嬌たっぷりに勘三郎が演じていておかしい。
七之助の赤姫が可愛くてよかった。それでも松若につれなくされるとすぐに懐刀で自害しようとする振りが繰り返されるコメディエンヌぶり。「野田版鼠小僧」のおしなが思い出された。勘太郎もお組に言い寄る金持ちの息子の阿呆ぶりがよかったし、第三幕ではまた女船頭との二役で器用なところを見せていた。やはりお組に言い寄る番頭役の亀蔵もうまい。
要助=松若で久しぶりに福助の立ち役を観たが、今回はよかった。勘三郎の弁天小僧でみた赤星十三郎の時、声がおかしかったのでがっかりしたのだった。お組の扇雀とのじゃらじゃらした痴話喧嘩も可愛かった。それと茶屋女将の芝のぶがしっかりした女将ぶりで見直した。
法界坊が権左衛門らを次々と殺すところは『鈴が森』で白井権八が雲助たちの手足や顔をすぱっと切るやり方と同じ方法をとっていたので歌舞伎のお馴染みの手法なんだなと納得。野分姫も殺してさあ、お組というところで甚三郎にやられそうという予感が正夢になって殺されるあたりまで、とにかくギャグ多発で楽しかった。左右が違う顔の合体霊による宙乗りも勘三郎、汗みずくで頑張っていた。
そこまでは楽しかったのに...。
国立劇場での『本朝廿四孝』の通し上演も第2幕が舞踊劇だったけど。でも最後が舞踊なんだとわかってなんだか冷めてしまった私。「合体霊が後シテ、甚三郎が押し戻しのようになって終わるのがなんか道成寺みたいで変」って思ってしまった。
あとで「歌舞伎座掌本」を読んだら、この部分の舞踊は立ち役だった中村仲蔵がどうしても道成寺を踊りたくてこれを作ったと書いてあって、納得したが、それでもうーん。
せっかくの串田版なのだから普通のお芝居にして終わって欲しかったとか思うのは私が変なのか?舞踊好きじゃないからか?これでしめくくられてちょっと不満。
通常の演出の方の「法界坊」を観てみたい。そうすればそんなものかと観ることができるような気がする。あとはコクーン版で思いっきり縮めて踊りを芝居にしたバージョンも観たいなと、ふと思いついた。怖いもの知らずで勝手な企画を作っている。
写真は、「法界坊人形」ポスターの顔部分。外に貼ってあるものを携帯のカメラで撮影。
追記
①江戸時代の芝居小屋のつくりについては、奥村書店でこの日買ってきた岩波書店同時代ライブラリーの服部幸雄著『江戸歌舞伎』を読み始めたため、ちょうどわかったことである。
②当初、8/7と書いたが8/14のマチガイである。ああ8/7の『もとの黙阿弥』の感想を書いてないので間違えた。夏ボケ、お盆ボケか・・・。
たしかに,初演のときとぜんぜん衣裳違うし…
舞踊部分・・・
でも最後は、こりゃ「押戻し」パリディか?
って派手にした分そう思ってしまいました。
私も追って感想かきます。
皆様ありがとうございます。これから観にいかれる方、感想を書かれる方、TBお待ちしておりま~すm(_ _)m
★ha様
harumichinさんだったんですね、誰かと思っちゃった。舞踊を落ち着いてごらんになったということは通常版の演出も観たことあるのでは?吉右衛門あたりで通常版を観てみたいです。そうしたらそういうものだって思えるようになると思うので。でも「押戻し」はいらないなあ。(笑)
ようやく、法界坊・・かなりご意見違いかも
と思いつつ?書きましたので、TBさせていただきました。
初日が一番まともでした(--;
今更なのですが、初日感想TBさせていただきます~。
法界坊人形は楽のカーテンコールで大活躍でしたよ。
一番マシな感想などとおっしゃらずに書いたの全部TBしていただいても大歓迎ですよ~。時系列でわかって有難いです。うわっ、欲張りですね(笑)
気が付くと8月納涼歌舞伎は1年おきに観てます。来年、勘三郎丈出ないとのこと、どうなるかな?まあ演目次第ですかね。とにかく、芝居が面白い演目であること。舞踊はついでに観ているレベルなもんですから。すみませんm(_ _)mNHKの「日本の伝統芸能」で第タームこそ日本舞踊も見てみようっと。
TB、三部の感想自体は23日の観劇のほうが書いてあると思うのでこっちをTBしますね。