ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/05/28 五月花形歌舞伎千穐楽夜の部(2)なかなか見せた染五郎の「熊谷陣屋」

2010-05-30 12:32:42 | 観劇

歌舞伎座さよなら公演と2ヶ月続けてかぶらせる演目の第二が「熊谷陣屋」。染五郎の熊谷がどうかとドキドキの演目だ。
御名残四月大歌舞伎「熊谷陣屋」の記事はこちら
【一谷嫩軍記 熊谷陣屋】
今回の配役は以下の通り。
熊谷直実=染五郎 相模=七之助
藤の方=松也 堤軍次=亀三郎
源義経=海老蔵 梶原平次景高=錦吾
白毫弥陀六実は平宗清=歌六
             
フレックスで早上がりするつもりの仕事がどうしても4時上がりになってしまい、冒頭を少々遅刻。堤軍次が相模と会話するところで聞きたかった亀三郎の台詞は間に合わず。熊谷が着座して相模に「女め~」と叱責するところから。染五郎の熊谷の野太い第一声に驚いた。これならいけるぞ!七之助の相模は線が細すぎる感じがするが、明瞭な台詞で初陣の息子への思いにひかされた母親の思いがよくわかる。
戦場での手柄話で熊谷が敦盛卿の首を打ったというところに、母の藤の方が上手の一間より走り出て熊谷に斬りかかる。松也の藤の方が予想以上によかった。後白河院の寵愛を受けるのも無理がないと思わせる美しさ、声も綺麗で台詞もいい。音羽屋の若手は粒ぞろいだとあらためて思う。
熊谷が敦盛を討たねばならなかった事情が明らかにされるここからの場面、いつもは退屈に感じることが多いのだが、3人の台詞がいずれも聞き取りやすくて引き込まれた。
そして染五郎の「平山見得」に驚いた。叔父の吉右衛門の見得の表情に似ている!DNAのなせる技もあるが、染五郎の気合の入れ方がよく伝わってくる。

義経の前での首実検。桜の制札を抜いてともに差出し、暗示された意向をうかがう。動転した相模と藤の方を階下に追いやっての「制札の見得」も形よく極まり、絵になる美しさが花形の若々しさでよりきらめいた。
あくまでも敦盛の首として相模に藤の方へ首を見せるようにさせるが、実は相模に小次郎の首を抱かせるのだ。先月の吉右衛門の熊谷は下にいる相模にずっと思い入れいっぱいの顔を向けていたのだが、染五郎は呆然とした表情で、相模への思いを感じさせない。吉右衛門の芝居の方が好きだが、高麗屋の型とか何かあるのだろうか。

海老蔵の義経と歌六の弥陀六。弥陀六実は平宗清が、平氏と源氏の盛衰がひっくり返る原因をつくってしまったことを悔やむ歌六の苦渋を体現する歌六の芝居がいい。二人のコンビは後の「助六」のよさを予感させる。

宗清に托すという鎧櫃の中には敦盛。ここで二人の母の悲嘆の立場は完全に逆転し、その対比をくっきり見せる作劇の妙に感心させられる。
義経に暇乞いを許された熊谷は早くも出家姿になり、「十六年は夢だ夢だ」と嘆いて黒谷の法然上人のもとへと走って去っていく幕切れ。自分で手をくだして息子を身替り首にした父親の嘆きはわかるが、やっぱり妻の相模をひとり残さないで欲しいと、ついつい思ってしまう私である。

冒頭の写真は、幕間にコンビニに出て戻った時に人気の少ない新橋演舞場の前を携帯で撮影したもの。この櫓は今月だけかもしれないなぁとふっと思ったが、どうなのだろうか。
それとくる前に通りかかった歌舞伎座の屋根に青草が何ヶ所も生えていて驚いた。

「五月花形歌舞伎の演目を眺め渡す」記事はこちら
5/22昼の部(1)「寺子屋」 
5/22昼の部(2)「魚屋宗五郎」 
5/22昼の部(3)「吉野山」「お祭り」
5/28千穐楽夜の部(1)「うかれ坊主」


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4 コメント

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思い入れ (まるこ)
2010-05-30 15:18:06
こんにちは。だいぶ前に書き込みさせていただきたまるこです。書き込みのは久々かな。いつも拝読させていただいております。

ところで染五郎の熊谷も吉右衛門丈の熊谷と同様に嘆く相模に思い入れをし、終始顔を向け見つめていました。吉右衛門丈ほどの思い入れを強く表現するにはまだ未熟ということかもしれません。

ぴかちゅうさん、右袖にいらっしゃいましたよね?角度が横からだから、多少見え方が違ったのかもしれません。私は3階真正面でしたので。染五郎の熊谷、あれほどやれるとは思ってもみませんでした。哀愁を帯びた引っ込みもとても良かったです。
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★まるこ様 (ぴかちゅう)
2010-05-31 08:31:59
いつも読んでいただいているとのこと、久々のコメントも有難うございますm(_ _)m
>右袖......ごめんなさい、左列がイコールなのかよくわかりませんが、花道上の脇席です。ですから花道の引っ込みもモニター頼みでした。これまでもずっと見えなかったので、身をもんで嘆いてから網笠を両手でぐっと顔に押し付けて走り去るというのも初めて見たようなもんです(^^ゞ
いつも10倍の双眼鏡でのぞいています。染五郎の熊谷ばかりを見ていたわけではないのですが、この場面は気になって何度も見ていました。
>吉右衛門丈ほどの思い入れを強く表現するにはまだ未熟......先月の吉右衛門丈の思い入れの強さが実に印象的だったのでそれと比べてしまうと遠く及ばないように感じたのだと思います。筋書では今回は父の幸四郎に教わったとありました。けれども叔父の吉右衛門の方に似ているように思えたのは、染五郎が二人の芸を意識してくれたのではないかと推測して、喜んでいました。
この芝居自体があまり好きではなかったので、先月今月でようやく面白さがわかったので、私の観方も前よりも気が入ってきたように思います。次回は正面から観たいなぉと思いますが、演舞場の3階席はあっという間に売り切れるので頑張らないといけないですね!
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見応えありました (スキップ)
2010-06-20 00:11:19
ぴかちゅうさま
コメントがすっかり遅くなってしまってごめんなさい。
花形歌舞伎の、力作揃いのぴかちゅうさんのレポ、いずれもじっくり読ませていただき、とても楽しませていただきました。
高麗屋の若旦那贔屓としては、やはりこちらにコメントを(笑)。

演舞場開演前から、「染五郎さんの熊谷が心配」とぴかちゅうさんにご心配いただいていましたが、まずは合格点をいただいたようでひと安心です。
染五郎さん自身、こんな骨太の役はこれまでご経験がないようですが、思いの外、ハマっているように思えました。
ぴかちゅうさんのおっしゃるように、相模への思いとか、感情表現が淡泊に感じられるのは、やはり所作とか、セリフとか、習った通りにやることで精一杯だったのではないかなぁ、と思います。
私が観た日は後半になるにつれて感情が顕わになって、感極まったような「夢だ、夢だ」の花道の引っ込みでは、思わずもらい泣きしてしまいました。

海老蔵さんの「助六」もすばらしかったし、勘太郎くん、七之助くん、松緑さんもそれぞれ熱演で、瑞々しくも歌舞伎の明るい未来を感じさせる「歌舞伎座から新橋演舞場へ」の初っ端の舞台でしたね。
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★スキップさま (ぴかちゅう)
2010-06-22 00:00:26
貴ブログの記事のURLを入れていただき、有難うございますm(_ _)m
新橋演舞場五月花形歌舞伎は、四月の歌舞伎座さよなら公演と3演目わざわざかぶらせたことで、若手の奮起の場となって芸の継承を目の当たりにして感慨深いものがありました。
七代目幸四郎の曾孫たち+中村屋兄弟の花形がそれぞれ頑張ってくれているのが嬉しく、これからも歌舞伎を観続ける楽しみが増しました。
>高麗屋の若旦那贔屓......私も応援はしているので、ハラハラドキドキものの「熊谷陣屋」でした。若手花形の中では年長の染五郎丈ですが、立役でこのお役を争う存在として海老蔵、勘太郎がメキメキ力をつけてきているので、高麗屋を背負う存在感を示そうという気合が漲っていました。
基本の型をきちんと教わって身につけていることがわかり嬉しかったです。自分の台詞がない間の芝居にまで気を張れるかどうかが若手のこれからの課題のようです。
歌舞伎の未来は明るいなと安堵の五月花形の舞台でした。
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