ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

11/04/15 亀治郎客演で劇団若獅子公演デビュー(1)「一本刀土俵入り」

2011-05-06 23:59:48 | 観劇

「一本刀土俵入り」は何回か観たような気がするが、自分でブログ内検索してみて一度も記事アップできていないことを確認。2008年の新橋演舞場五月大歌舞伎公演で観て、実にいい芝居だなぁと思っていたが、この月は結局「東海道四谷怪談」の感想しか書けていない(^^ゞ吉右衛門の駒形茂兵衛は柄が大きいだけで大成できない相撲取りのへなちょこぶりがキュート、後半の渡世人になったところも颯爽として実にカッコよかった。芝雀のお蔦も情の深い女にみえ、この作品でのコンビも気に入ったものだ。
あらすじは、goo映画の「一本刀土俵入」(1957)の作品情報が詳しい。

長谷川伸の人情芝居はけっこう好きなので、劇団若獅子陽春公演に亀治郎がお蔦で出るとわかってすぐに観る気十分になった。さちぎくさんによみうりカルチャーのトークショー付き企画をお誘いいただき、15日(金)に年休をとって浅草公会堂での初日公演を観劇。
【一本刀土俵入】(作:長谷川伸、演出:田中林輔)
出演は、笠原章 市川亀治郎(特別出演) 南篠瑞江 横澤祐一 真砂皓太 細川智 中條響子 他
笠原章は、2008年4月の亀治郎主演の日生劇場公演「風林火山-晴信燃ゆ-」で父の信虎役(前年の大河ドラマの時は仲代達矢)だったのを観て新国劇出身の方だけに堂々としたものだと記憶している。そもそもは猿之助がスーパー歌舞伎に出演依頼をした時からのご縁だという。
笠原章の駒形茂兵衛の前半はとても人のいい感じのもっさり感がよく、亀治郎のお蔦が芯の強い女でポンポンとものを言うのと相性がよい。はっきり言って亀治郎のお蔦が主役のように見えるバランスだったが、これはこれでよいのだと思う。
好きな辰三郎の子どもを産んで子守りに見てもらいながら酌婦を続けているお蔦。辰三郎は出奔してしまい自暴自棄になって手酌で飲んで酔っ払っているのだ。安孫子屋の二階の手すりにもたれて斜め後ろの姿をみせる亀治郎のお蔦には、孤独と闘う女のあだっぽさに満ちていて思わず溜息が出る。うなじから細い顎、切れ上がったまなじり、ポンポンと緩急自在の言葉が飛び出る唇、とこれはヤクザの親分に岡惚れされるのも無理はないと思えた。

茂兵衛の話に心を動かされ、郷里の越中八尾の小原節を三味線をとって歌う気になり、実に聞かせてくれる。歌の巧さに客席が湧く。無一文の茂兵衛に巾着に簪まで添えて「きっと横綱になっておくれ」と励まし、感謝しながら花道を去っていく茂兵衛に「よっ、こまがた~」とかける声の調子のよさに快感が走る。これだ、これだよ、私が観たいお蔦はさ!という感じだ。

10年後、やくざになってしまった茂兵衛が利根川の船大工に取手の安孫子屋のお蔦の消息をたずねるくだりも秀逸。劇団若獅子の役者たちの底力をみせてもらった。
ほそぼそと飴を売りながら大きくなった娘お君と二人で暮らすお蔦はいいお母さんになっている。そこに辰三郎がイカサマ博打で手に入れた金をもってやってきて親子三人一緒に暮らす気になったと言う。しかしながら捕まれば殺されるかもしれず、金をおいて逃げようとするところに茂兵衛がたずねあててくる。お君が歌う小原節で確信をもった茂兵衛が名乗り、恩返しのお金を渡そうとするが、お蔦には覚えがない。
辰三郎を追ってやくざたちが暴れこむところを茂兵衛がなぎはらう。親分の儀十も素人角力上りで、茂兵衛とがっぷり四つに組み、頭突きで倒す姿にお蔦が思い出す。この演出も新国劇のもので、それが今は歌舞伎でも取り入れられているとのこと。茂兵衛の鬘は月代が伸びた「毟り」なのが歌舞伎とは違うらしい。そのあたりはプログラムの座談会のページに詳しかった。
亀治郎のお蔦の「思い出したっ」の声も気持ちよく、すっきりと恩返しができた茂兵衛の最後の長台詞が心にしみる。
「お蔦さん、十年前に櫛簪、巾着ぐるみ意見を貰った姐さんに、これがせめて見て貰う駒形茂兵衛の、しがねぇ姿の土俵入りでござんす」

笠原章の駒形茂兵衛は後半もカッコイイという感じではないが、やくざとはいえ、素人をいじめることはしない侠気の人の感じは十分で、10年来の恩返しをしたい思いをようやくかなえた安堵感と人生の哀感にみちた人間味のある姿に好感がもてた。

やっぱり「一本刀土俵入り」って好きな芝居だなぁ(^^ゞ
冒頭の写真は、今回公演のチラシ画像。


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