パピユ王国日誌 
文鳥の国「パピユ王国」のにぎやかな日々の記録。
 





 大乳母やと1泊旅行に行ってきた。三国温泉で疲れを癒す。宿は幹部Fお勧めの「荒磯亭」。次の日は、大乳母やが行きたがっていた永平寺へ。強い雨だったが、荒れた日本海の波もすがすがしく、永平寺はしとどになった小さなもみじ葉が美しかった。

 文鳥夢十夜の第十話は、構想中。明日の仕事の準備を先にせねば。

画像:永平寺の傘松閣、別名「絵天井の広間」一部。
これは本当に見ごたえがある。もっとゆっくり見ていたかった。


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 こんな夢を見た、

 と、うちの若い衆の一羽が語ってくれた。

「月姫様・・・」

 尾上銀之丞は胸のうちで呟いた。まだ青年になったばかりの若鳥は、まだ見知らぬ姫を思い慕っていた。いや、思い焦がれていた。夢で見たに過ぎない。しかし多感な青年にはそれだけで十分だった。 

 月姫を探さねば。銀之丞はその日から来る日も来る日も町中を飛び、その面影を捜し求めた。あの笑み、あの身のこなしの優雅さは高貴なお方に違いない。滅多に外には出ない深窓の姫やも知れぬ。だがこうして町を飛び回っていると、何かその消息がつかめるかと銀之丞は藁にも縋る思いで日々を過ごした。

 ある夕刻、屋敷へ帰ろうと寺町へ差し掛かったとき、人気のない道を侍女を連れた若い女の鳥が向こうから飛んで来た。その身のこなしからして身分のひどく高い女鳥であるように思えたが、こんな時刻に供一人だけを連れて、他に迎えの者のいないのが殊更訝しく思えた。しかし、そんなことよりも銀之丞は、一目見た途端にこれがかの月姫だとわかった。

 あと数尺で月姫とすれ違うという時、香の匂いが銀之丞を襲った。感覚が麻痺し、嘴も舌も痺れたように動かぬ。爪一本動かすこともままならぬ。いや、思考すらもが停止したのだ。ましてや振り返ることもできず、ただ翼だけが非情にもそのまま動きを進めていた。姫を呼び止めることも出来ず、心だけが「姫よ!姫よ!」と叫びつつ、過ぎ越してしまった。ようやく体の自由が利くようになったときはもはや、女たちの姿はなかった。

 その夜、銀之丞は己の不甲斐なさに歯噛みし、一睡もすることができなかった。夜通し、魂だけがまだあの道を飛びさまよっているようであった。

 次の日、銀之丞は同じ時刻、同じ道にやって来た。月姫に会うために。果たして月姫はやって来た。銀之丞は今日こそは姫を呼び止めようと意気込んでいたが、女たちとの距離が縮まるにつれ、またもや銀之丞は魔法にかけられたように体の自由を失った。
 「姫よ!月姫よ!」

 必死の思いが姫に通じたのか、すれ違いざまに姫は驚きのあまり身を固くし、振り向いたのが銀之丞には気配でわかった。ただし、哀れなこの青年は振り向くことが許されなかった。今宵も銀之丞は、目配せ一つ出来なかったと身をよじって涙した。

 3日目、銀之丞は早朝に床を抜け出し、水垢離をして身を清めた後、母の菩提寺である寺へ出向いた。母の墓前で手を合わせ、心を鎮めた後本堂に入っていった。本堂では早朝の務めを終えた和尚が銀之丞を待っていた。銀之丞は、それまでに起こった事を話し、女が魔性の者か天上の者か問うた。和尚は話を聞くと何も言わず、小さな木彫りの聖観音像を若者に渡した。銀之丞はうなずき、それを懐に入れ、深く一礼をして寺を辞した。

 夕刻、かの道へ向う銀之丞はひどく恐ろしかった。深く息を吸っても体が小刻みに揺れる。魔性の者か、天上の者か、夢なら覚めて欲しいとすら願った。その反面、月姫の顔を、その姿を一目見たいと欲した。引き返すべきかどうか逡巡している間にも、陽は翳りを見せ、涼風が吹いてきた。と思うと、姫が現われた。

 「月姫!」

 声が出た。矢のように傍へ飛んで行った。これは如何なる事か、体の自由が利くではないか。それを見て姫は「あっ!」と小声で叫び、立ち去ることなくその場に侍女と留まっていた。銀之丞が駆け寄りその手をとろうとした瞬間、忽然と姫の姿はかき消えた。と、見る間に、眩いほどに光り輝く姿になり再び現われた。

 「銀之丞、銀之丞、礼を言いますぞ。そなたの懐にある聖観音のおかげで私は救われました。誰かが清らかな心でわたくしのことを思い、わたくしのために神仏に縋ってくれる、そのような者が現われるまで、わたくしは浅ましくもこの世をさ迷っておらねばならなかったのです。そなたの祈願とそなたの母の心である聖観音のお像によって、わたくしの業は浄められました。礼を言いますぞ」

 月姫はこう言うと、さらりと翼の音も軽やかに背中を向け、そのまま夕靄の中へ消えていった。銀之丞はあっけにとられて、その場に呆然としたままであった。

 月に照らされて我に返った銀之丞は観音像のことを思い出し、それを懐から出した。聖観音が手にしていた水瓶からはわずかではあったが水滴が滴り、蕾であった蓮華は花開いていた。蓮華は月姫と同じ香りを放っていた。


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 こんな夢を見た。

 飼い鳥の中で「知りたがり病」が蔓延しているという。もとは子供の本の中だけの絵空事であったのが、何かのはずみでコドモ・ドラゴンとともに現実界へ飛び出してしまったらしい。

 うちの鳥達は大丈夫かと、襖の陰から様子を見ることにした。皆、水浴びをした後なのか、しきりに羽繕いをしている。半時ばかり見ていたが、ずっと羽繕いを止めぬ。己の容姿のことにしか興味を示さぬ連中らしい。

 知りたがり病というのは、あれはやはりカナリアだけの話なのだと結論を出し、ひとまず安心した。

 しかしまた半時もすると、近所のカナリアはどうなのかと気になりだした。届け物があったので、そのついでに見てくることにした。カナリアは自分にはまったく関心を示さなかった。いつものとおりるるるるるると囀っては、飲み水でのどを潤していた。自分の歌にしか感心のない鳥なのだと思った。

 インコはどうだろうかと、反対隣の家へ行って、人に尋ねた。インコはいつものとおりだと言う。退屈げに、柄杓で水を掬ってはあたりに撒き散らしている。飼主を困惑させることにのみ関心を持っているようだった。

 そうして次々と鳥のことが気になり、九官鳥からメジロ、十姉妹、胡錦鳥等々、近所の知る限りの鳥を訪ね歩いた。最後に公園へ行って、鳩、雀、烏、ヒヨドリ、ツグミ、鴎などあらゆる鳥を見た。鳩と雀は餌を貰えると思ったのか、こちらから何も呼びかけぬうちにやって来たが、餌以外には何の興味も持たないようだった。それ以外はみな人間には無関心だった。

 一日かけてあちらこちらで鳥を見て廻ったが、いずれの鳥にも「知りたがり病」の兆候は見られなかった。疲れ果てて家に帰ると、一斉に歓声が上がった。うちの鳥たちが自分の帰りを心待ちにしていたようだ。襖を開けて部屋に入るや、番頭格の小鳥がいそいそとやって来て尋ねた。

「お帰りなさいまし。で、どの鳥が1番好奇心が強かったですか」

 自分はうちの奴らに一杯喰わされたのだった。



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 こんな夢を見た。

 自分は維納の公園のベンチに座っている。初秋であった。風はなく、日の当たるところであれば少しは太陽の恵みも受けられるであろう日である。あちらこちらのベンチには最後の陽光を求めて、これから冬を迎える老人たちが座っていた。自分はそれを見て、『老婦人の夏』という言葉がどういう意味だったかを思い出そうとしていた。そのとき一羽の黒ツグミがやってきた。

「お久しぶりです。私を覚えていらっしゃいますか」

 数年前、やはり此処で遭った鳥であることを、自分はすぐに思い出した。だが、以前に遭った時は夫婦(つがい)であったはずだ。訝しげな眼差しに鳥は直ぐに気づき、言った。

「妻(さい)は先だって亡くなりました」。

 自分はこの言葉に困惑し、口ごもりつつ丁寧に悔やみの言葉を述べた後、後に続く言葉を失ってしまった。黒つぐみは私の困惑を見てとり、何事もなかったように話題を変えて話し続けた。

「ところでお宅のは元気で?いや、あれは私の遠い親戚に当たるもので、叔母があなたに消息を聞いて来いとうるさく言うものですから」

 「おかげさまで、なんとか元気で居るよ。今は換羽で不機嫌だがね」

 鳥は首をかしげ少し考えてから、居住まいを正して小さな声で言った。

「満月に雲がかかったら、その抜け落ちた雨覆い羽を月の光に当てて御覧なさい。不思議なものが見られますよ」

 それだけ言うと、黒つぐみはついと飛び立って行ってしまった。

 丁度三日後が満月であった。自分は集めておいた小さな雨覆い羽根を銀の皿に乗せて、月の出るのを待った。晴れた夜であった。到底、雲なぞ月にかかりそうになかった。しかし自分は雲が来るのを辛抱強く待っていた。

 どれほどの時が過ぎただろうか、もうすぐ夜も明けるという頃、一群れの雲が風に流されてやってきた。月はもう白く薄れかけていたが、薄雲はかろうじて月にかかった。

 雲が月にかかった。しかし羽には何の変化も見られない。そうこうしているうちに雲は去り、東の空がほんのりと朱に染まり始めた。羽は依然としてそのままであった。

 鳥一羽の与太話を真に受けた自分にあきれつつ、もはやこれまでと、皿と羽を片づけようと立ち上がった。こんなばかげた話を、うちのやつにどうやって話そうかと言訳めいたことを考えていた時、涼しい明け方の風を受けて銀の皿からさらりと何かが落ちた。青い花びらだった。青い花びらが輝きながら、軽やかな音を立てて飛んでいった。

 さてはうちのやつは「青い鳥」だったのかと、急いで部屋に入り、覆い布を取るももどかしく、かごの中の鳥を見た。

 鳥は夕方寝かしつけた時に見た色形、そのままであった。だが、目はしっかり固く閉じられ、すでに息絶えていた。その小さな体にはまだほのかな温かみが残っていた。自分はそれを拾い上げ、いつまでもおしいだいていた。


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 こんな夢を見た。

 暗い森の中で、無数の白いものが音もなくふわふわと漂っていた。蝶の群れだと思った。ひらひらと飛ぶでもなく、一箇所に留まっている。そこだけ別の時間が存在するかのように。

 「蝶じゃない、あれは蛾だ」

 それを聞いた途端、周りの景色が幻想的なものから、見るもおぞましい、恐ろしいものへとすりかわった。全てが音もなく蠢いている。音を出しているのは自分達だけなのだ。そうなると、自身の鼓動すらもが殊更大きく聴こえ始め、その場に立っていることすらできなくなった。恐怖のあまりへなへなと崩れ落ち、目を塞ぎ、耳をも塞いだ。

 「よくご覧。あれは蛾だ」

 見ずともそれを信じた。そうだ、あれは蛾だ。蝶ではない。

 「あれは世の終わりまでああしているのだ」

 地獄の案内者は言った。かつてヱルギリウスに案内された伊太利亜の詩人は、今度は自らが案内者となっている。物見遊山で地獄巡りに参加した自分はほとほと後悔した。来たばかりだが、もう帰ろうと思った。しかし生来、吝嗇な性格である自分は、せめて地獄巡りの土産にこの有名な案内者の手形と署名を貰おうと思った。

 「すいません。帰ります。サイン下さい」

 案内者はもう慣れっこになっているようだった。袂から墨入れを出し、面倒臭げに一筆記した。自分はそれを貰い、懇ろに礼を述べ退去した。

 振り向くと薄暗い森の中の蛾であったものは、今、美しい白い鳥となって、酒をなみなみと注いだ杯の周りできゃぁきゃぁと嬌声を挙げながら、飛び戯れていた。それを見て、しまった!早まった!と、ほぞを噛んだが、暇を告げた後だったので如何ともし難く、歯噛みしながら帰途についた。

 自室に帰ってきて、辺りを見回した。出たときと何らの変わりもなかったが、なんとなく様子が変である。さては奴さんに一杯喰わされたか。元の場所に戻してやると言って、実の処ここは依然として地獄なのではあるまいか。

 その時、うちの番頭格の白い小鳥がやって来て言った。

「ようお戻りくださいました。ここは先ほどまで、鬼が番をしていたのでございます。なんでも、留守中に伊太利亜の聖人が視察に来ては大変だと言って、口裏を合わすための取り決めを私たちに交わそうとしていたのございます。

 人間が地獄巡りに行っている間、かの聖人のお弟子が私どもの世話をしてくれることになっているのですが、ただ、時折はその弟子たちも内緒の休暇が欲しいらしく、その時には鬼が上に内緒で代理でやって来るのです。それが聖人に知られると、弟子達はこっぴどく叱られるのだそうで…。今日来た鬼の上役である弟子はなんでも、『襟足』という筆頭弟子みたいな人だとか」

 まったくもって理解不能な取り決めが、中世と現代と、あの世とこの世で出来ているようである。自分にもよくわからぬが、唯一わかったことは、白い小鳥達の居る処が自分の居場所であるということらしい。

 自分はそのように納得し、また布団を引っかぶって眠った。明け方の話である。詩人のサインは跡形なく消え失せてしまった。或いは自分が何処かへ落としてしまったかも知れぬ。酒盛りしていたあの小鳥たちが、酒の肴にどこかで弄んでいるのかも知れぬ。それはそれで愉快なことだと思うことにした。


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 こんな夢を見た。

 灰色の高い塀に囲まれた庭園があった。石造りの門から覘くと、中で人が緑の橄欖(かんらん)の実を採っているのが見えた。ここは普段は誰もいないところだ。収穫のために主が遠い処からわざわざやって来たのだろうのと思った。眺めていると一人の小僧が出てきて、門前に石板を置いた。更に人手が要るのだと云う。

 自分はするりと建物の中に入った。フランク・ロイドが建てたという四角張ったその建物は、内部はかなりモダンであった。案内されてあちこちを見て廻る。金を扱う部署にはすべて柵が下りるようになっていて、金庫番が一日の最後の処理をするその時、機械の画面に大きく白い文字で「この金を盗る者は泥棒であり、裏切り者である」というような文言が現われる仕組みになつている。金庫番は毎日、毎回その文字を見なければならぬ。随分嫌味な事をする処だと思った。

 次に案内されたのは花番である。生け花であるが、野に咲いている姿そのままに見せるために花番はとてつもない工夫をせねばならぬ。上から花首を支える仕掛けがしてあった。此処に勤めるのは成程やりがいもあることだが、とてつもなく大儀なことだと思った。到底自分には出来ぬと思った。

 それで自分はやはり勤めは止そうと思い、外の庭園に出た。橄欖の実はもう黒くなってしまって、辺り一面に散らばっていた。樹々の上で鳥の群れが喧(やかま)しく囀(さえず)っていた。

 「鳥がこの実を食べるから、こんなに散らばっているのでせうか」と件(くだん)の小僧が尋ねた。
 「そんなわけはあるまい。橄欖は渋すぎる。渋抜きをせずには食べられまい」と自分は答えた。答えながらこれは己(おのれ)のことだと思った。

 その時、鳥たちが一斉に飛び立った。大勢の人間が口々に喚(わめ)きたてながらやってきた。自分は何も疚(やま)しいことはなかったのだが、咄嗟に木の陰に隠れた。一寸した流血騒ぎがあったようだ。人々は暫く擦った揉んだした挙句、痩せこけた貧相な男を一人、引っ立てて去って行った。その間、鳥たちは鳴りを潜め、一声も発さなかった。

 後日、鳥たちが噂するのを耳にした。この男はなんでも己が主(あるじ)だと言っただの言わなかっただの、金庫番が詰め腹を切らされたのどうの。それを聞いてなぜか、自分はあの時勤めを止さなかった方がよかったのではなかったかと悔やんだ。しかし自分が勤めていたところで、知らぬ存ぜぬで如何(いかん)とも出来なかっただろう。

 踏みしだかれた黒い橄欖の実は、芳香を漂わせながら朽ち果てていった。米を喰う文鳥たちは、その渋い実はやはり食べなかったのだ。


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 こんな夢をみた。

 その部屋にはたくさんの鳥がいた。鳥はかごから自由に出入りし、仲の良い同士2羽、3羽連れ立って遊んでいた。

 そんな賑やかな中で、戸口は開いているのに出ようとしないとしない鳥が一羽、ぽつねんとかごの中に残っていた。かごから出られないのか、出たくないのか、止まり木に止まったまま出入り口を見つめていた。老鳥であるらしく、片目は白く濁っていたが、羽はそう古びていなかった。

 「かごから出ようとしないのです」

 背後で声がした。自分は振り返ることなく、そこの家人だと知った。

 「かごから出ようとしないのです。でもそうして毎日、戸を開けてやるのです。いつか出るかと思って」

 かごの前に仲間の鳥が三羽、やってきた。三羽は尾羽をふりふり、中の老鳥に向ってしきりに何か呼びかけていた。尾羽の上下とともに頭まで動くので、まるで何か懇願しているようにも見えた。老鳥は微動だにしなかった。

 「出るか、出ないか、出ないか、出るか。
  いつか出よう、いつか出よう、
  さぁ、いつになるか、いつになるか。
  いつか出よう、いつか出よう・・・」

 妙な歌を歌いながら、家人は部屋から出て行った。3羽の鳥もどこかへ飛んでいってしまった。自分はそのままじっと老鳥を見ていた。頭の中ではその節回しがいつまでも渦巻いていた。

 「いつか出よう、いつか出よう、いつか出よう・・・」

 いつかしら、自分もまたその部屋から出られなくなっているのに気がついた。家人はどこへ行ったのかしらん、また戻ってくるのかしらん。

 そのうち部屋が暗くなった。他の鳥たちはかごに帰ったのか、あたりはすっかり静まり返った。そのとき柱時計がボーンと鳴った。老鳥はかごの中の藁巣へ入ってしまった。これを見て、自分は果たして柱時計がすっかり鳴り終わってしまうまでに帰れるだろうかと焦りを感じ始めた。柱時計はとうとう十まで鳴ってしまった。あと二つ。

 時計が十二を打つと同時に自分は悟った。

 座禅を組んでいて不覚にも眠ってしまったらしい。警策を受けて気がついた。合掌のまま深々と礼をすると、外でチチチチ…と鳥たちが一斉に笑いさざめいた。


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 こんな夢をみた。

 夜、自分は鳥を病院へ連れて行こうとしていた。鳥は小さな箱に入っていた。

 一両だけのその列車は、真っ暗な中をぎー、ごとんごとんと音を立てて走っていた。時折、ひゅうひゅうひゃらひゃらと、お囃子の笛のような音が聞こえる。たしかにこの列車はいくつもの神社の間を縫って走っているのだな、と思った。そのうちに越天楽の出だしが聴こえ始めたが、いつになっても次に進まぬ。いったいいつになったら次の節に移るのか、とじりじりしていた。

 列車の中はうす暗く、乗客はパナマ帽をかぶった老人一人である。まもなく列車は川を渡ったかとおもうとすぐさま止まった。岸辺に停留所があった。

 あたりは真っ暗である。駅の明かりもない。周りに人家があるとは思えない。こんなところで誰が乗り降りするのかといぶかしげに思っていると、その老人が降りた。降りしなに茶色いふわりとしたものが見えた。目を凝らしたが、列車の戸が閉まり老人の姿は見えなくなった。

 列車はまた走り出した。笛の音がする。今度は小さな神社の前で止まった。もはや、だれも乗り降りする人はおらぬ。列車はまた真っ暗な中をごとんごとんと走り始めた。窓の外は暗闇以外の何物も見えない。窓ガラスには、薄暗い車内の明かりと鞄を抱えた自分の姿が写っているだけである。一瞬、夜目にも白く蔓薔薇が咲き茂っているのが見えた。でもそれもすぐまた見えなくなった。

 自分は小鳥を病院に連れて行かねばならぬのに、果たしてこの電車は病院へ行くのだろうか。やにわに不安になった。しかし、そんな時間に診察をしてくれるだろうかなどという疑念は、微塵も抱かなかった。乗客は自分ひとりである。運転手に話しかけてみた。

「あのう・・・、この列車、病院へ行きますか」

 運転手は振り向くこともなく、「はい」と答えた。それだけだった。

 なにもわからぬままに、とうとう終着駅まで行ってしまった。運転手に促されて列車を降りると、そこは海辺の駅だった。駅と言っても駅舎はなく、明かりがひとつだけ灯っているそのホームからすぐに砂浜が続いていた。もちろん真っ暗で人っ子一人見えない。しかたなく歩き始めた。たぶん病院はこちらの方角だろうと。

 しばらく歩いて、病院がないのに気がついた。しまった、あの先生はもうずいぶんな歳だったから、病院ももう止してしまったのだろう。何故、人に尋ねておかなかったのか。途方にくれて、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 他にすることもなく、鞄から箱を取り出して死んだ鳥を見つめていた。そもそも自分はどうして死んだ子を病院へつれてこようとしていたのか、どうしても思い出せなかった。

 風が耳元でひゅうとうなった。風を得た瞬間、死んだはずの子は白い鳥になって、真っ暗な夜空を天をさして飛んでいった。白い点はすぐに見えなくなった。


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 こんな夢を見た。

 亡くなった文鳥を思い出してさめざめと泣いていると、その子ども鳥がやってきた。その子は膝に置いた手からそっとこちらの涙顔を見上げた。子鳥を乗せた手を持ち上げ、顔と顔をつき合せ、その子の顔に見入った。そして、父親にあまりに似ているので、また泣いた。

 この息子も父を亡くしたことを悼み、悲しんでいた。低い声で話しかけると、目を閉じた。それは、あたかも涙をこらえているかのようだった。その姿にいっそう哀れさを感じた。

 突如、その子は目を見開き、くいいるように顔を見つめたと思うと「くくく」と語り始めた。
「あたしがいるわよ。ね、あたしがいるわ」

 その目は、その口調は、数年前に亡くなったその子の母親のものだった。母鳥がいつも自分を慰めてくれていた時と同じように、その子は自分の顔をじっと見つめ、まったく変わらぬ口調で語りかけてきたのだった。

 そのとき初めてわかった。亡くなった父鳥も母鳥も、その子の中にいたのだと。

 ビアンコはもう一度、「くくく」と泣いた。


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 こんな夢をみた。

 かごがふたつ、目より少し上の高さで並んでいた。かごの戸を開けて、鳥を呼んだ。
「グーちゃん、おいで」
 次にとなりのかごを開けた。
「どきんもおいで」

 頭の上にややずっしりした重みを感じた。グーちゃんだ、と思った。爪が伸びているのか、地肌にあたって痛い。

 空のかごに目が行った。そして気づいた。あぁ、グーちゃんはもういないのだ、と。そこで鳥かごの夢から目が覚めた。グーちゃんはもういないのだと思い、さめざめ泣いた。

 泣いている時、ふと目が覚めた。泣いていたのも夢だった。目が覚めた時には泣いていなかった。それがまた悲しかった。


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