今日、2月9日は、漫画家・手塚治虫の命日。そして漫画の日でもあります。
手塚治虫の言葉をかみしめてみたいと思います。
・いわゆる人生の目的、これがぬけては科学も哲学もせんないことになってしまうでしょう。
(『ガラスの地球を救え』手塚治虫 光文社文庫)
・なにが必要な情報か、ということですが、ぼくはとどのつまり、生命の尊厳を伝える情報が最も必要で、かつ重要な情報だと思います。
(『ガラスの地球を救え』手塚治虫 光文社文庫)
いよいよ出版!? オリジナル小説『フライザイン』
もしかしたら、近い将来『フライザイン』が出版されるかもしれません。
「一カ月以内に、人生の目的を見つけられなかったら自殺する」という妹を助けるために、初めて生きる目的を探究し始めた兄と、愛する人が余命一カ月と宣告された天才哲学少女が出会う。そして……」という物語です。
小説『フライザイン』の続きです!
。。。
■13
「美桜」
龍一郎の口から零(こぼ)れおちた響きは、沈黙という空間にジワリ溶け込む。内側から溢れるような微笑は、心に滲む血への包帯。
「確かに無意味に思えるよな」
その言葉を耳にした瞬間、胸の中で何かが動いた。
深い部分の何かが鼓動した。それは太古から大地に潜んでいるリズムのようでもあった。
龍一郎は、切り出そうとして、うまく言葉が出せないような、そんな表情をしばらくしてから口を開く。
「俺もそんな時期があったよ。
ほら、あの頃だ。東ヨーローッパから日本に帰ってきたばかりの時。
あの頃俺は、かなりまずい状態だったろ? ほんとに何もかも無意味に感じられてたんだ」
一つ一つを確かめるような声。
吾輩は静かにうなづいた。
「世界の『現実』ってやつに打ちのめされたんだな。
とにかくめちゃくちゃだった。
向こうでは、塩や砂糖さえ手に入らない家がザラで、いつ崩れるかわからない傾いた家に住んでて、病気になっても薬も飲めなくて、略奪が当たり前のように繰り返されてた。
全てが間違ってた」
お互いの目を見つめ、心で受け止める。
ゆっくり龍一郎が視線を逸らす。
「とにかく自分が無力でな。何も出来なかった。ちっぽけで、俺はまったく無意味な存在だった」
軽く息が吐き出され、言葉が継がれる。
「帰国してからも、もう何を見ても空しくってな。どんな絵を描こうとしても全然駄目で、全部黒い絵になっちまうんだ。正直、画家になるのをあきらめかけてな。
でも、かろうじて俺を留まらせたのはな、あの貧しい国で出会った子供たちの笑顔だった。
俺の描いた絵を喜んで受け取ってくれたり、ちょっと聞かせた音楽を嬉しそうに聞いてくれたんだ。あの笑顔を思いながらな、もう一度あんな笑顔を作らせたいって気持ちで絵を描き続けた。
それに、一流の画家になるって啖呵切って家出てきたからな、意地もあった。
ほとんど失敗作だったけど、何とか色が出せるようになって。はッ、まあ、濃い赤と青だけで、それも結局怒りと哀しみの表れだったけどな。
それでもともかく、虚無の中に、わずかながら感情が芽生えたわけだ」
龍一郎の瞳が静かに向けられた。
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┃編┃集┃後┃記┃
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いかがだったでしょうか。
壁にぶち当たったとき、人は大なり小なり無力感を感じるものです。
ひどい時には、自分の存在さえ否定したくなります。
そこを乗り越えていくのですが、また壁が……
人間には、表面的な支えではなく、根底に支えが必要なようですね。
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ではまた。