仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

二つの山道(その三)

2005年05月18日 | 新増毛町史
【二つの山道】(その二)のつづき
↓ここから
今朝の雪で道は見えません。
依○さんを先頭にして急な斜面を登ります。
左下を見ると冷たそうな海面で、身震いをしました。
なるべく下の方は見ないようにと思って三人の後を追います。
三人の人々は平気の平ざで軽い話をしながら行きます。
私はもう喉がからから、とても皆さんと同じようには歩けません。
思わず「休め」と号令をかけました。
皆さんは驚いて止まり、これからはこの「休め」にものを言わせて五分歩いては十分休み、十分歩いてはまた休むという具合です。
皆さんは道をつけつけ私を誘導してくれますが、私の体重は七十二キロもありますこととて登りになると、がっくりです。
「休め」の号令はだんだん頻繁になります。
私は休めと言うが早いか雪の中に寝転んでしまいます。
今朝降ったばかりの新雪は、疲れた私の身体を羽根布団のように包んでひやりとして、汗の身体を気持ち良く抱いてくれます。
「先生、元気を出せ。天狗岳はもうすぐだ。頑張れ」と、寝ている私の口へ飴玉を入れてくれます。
御好意だけど、喉が渇いて飴玉などは口の中でごそごそするだけで雪の方がどれ程良いかわからない。
せっかく入れてくれたのだがそっと吐き出した。
休んでは寝転び、休んでは寝転びしてやっと天狗岳を越えました。
その時はもう予定の十一時を回っていました。
↑ここまで
【左下を見ると冷たそうな海面で、身震いをしました】という光景が想像できる。
雄冬丸が欠航している11月の日本海である。
標高の高い地点からだと、激しい波というより海全体が動いているようだろう。
鉛色の水面がそれでもキラキラ、ギラギラと不気味に光って見えたのではないか。
その四につづく