Aくんのお母さんは優しい子ども好きの方です。
「周囲のお友だちがしっかりしていて……」と相談しておられたものの、
Aくんの個性をおおらかに見守っておられます。
レッスンの帰り際に、「ふたつ筒が持って帰りたい」というAくんに対して
「ひとつにしておきなさい」と諭すことは、ごく普通の常識的な配慮でした。
他の子らは持って帰っていなかったし、
教室で使う備品だということは一目瞭然でしたから。
今回は、わたしが「持って帰っていいですよ」と言ったからいいものの、
持って帰ったらダメな場面も多いでしょうし、ふたつもひとりで取ったら
他の子が困るということもあるでしょう。
だとしても、帰り際のお母さんとAくんのやり取りには
ちょっと気になる点もありました。
Aくんは人の気持ちを察知する繊細な性質の子です。
意気揚々と「ふたつ持って帰りたい」と言っていたAくんが、
優柔不断なぼそぼそしゃべる態度に変化していったプロセスでは、
大人の強い口調も厳しい表情も必要ありませんでした。
ただ何となく大人は自分の主張を面白く思っていないらしい……
自分の言い分は間違っているし、価値がないようだ……という雰囲気が
Aくんの気持ちに浸透していくなかで、Aくんは、「ふたつ持って帰りたい」
という主張を「ひとつでいい」に変えました。
子どもにすると、そうして自分の気持ちに決着をつけるのは大変なことです。
それにも関わらず、その瞬間にお母さんが、
(Aくんに対して怒っているわけでもないのに)
「それなら持って帰るのをやめておいたら?」と提案したのを聞いて、
こうしたやりとりの流れが、いつもあたり前のように
Aくんと周囲の大人との間でで展開しているのではないかと感じました。
次回に続きます。