一般的な子たちも五年生になって『割合』の学習に入ると、
つまずく子が続出します。
発達障害のある子の場合、学べば学ぶほど、わけがわからなくなる……ちんぷんかんぷんに
なっていく……ということも起こりがちです。
そこで親御さんが教科書を片手に
教えていこうとすると、
「自分が解くのでいっぱいいっぱいで、わかるように教えられそうにない」という話をうかがいます。
アスペルガー症候群の5年生の★ちゃんも、この『割合』でつまずいていました。
最初のうち、わたしも教科書に添って教えていたのですが、教科書の説明の順序や
説明のあり方が★ちゃんを混乱させるもとになっているのに気づいたので、
★ちゃんがわかる順序で、
★ちゃんが理解できる概念で、
『割合』というややこしい単元を学んでいってもらうことにしました。
教科書で学ぶ『割合』がなぜ難しいのかというと、
割合=比べる量÷もとにする量
と覚えたところで、
たとえば、学校のクラブ活動の「定員数」と「希望者数」を整理した
表を見て、もとにする量は「定員数」の方で、
比べる量というのが「希望者数」の方だな、察することが
まず難しい、ということなのです。
発達障害のある子たちは、
「定って漢字がついているのが、もとになる数だ」とか、
「比べる量÷もとにする量っていうのは、小さな数字から大きい数字のやつを割ればいいんだな」
なんて
細部の違いに注目する自己流の無茶苦茶な解き方を
編みだしがちですから。
★ちゃんに、教科書に出てくる問題の
どれがもとになる量で、どれが比べる量なのか
言い当てていってもらったところ、毎回のように間違えていました。
★ちゃんにすると、1つ目の問題で、もとにする量が定員数で、比べる量が希望者数だった
となると、
次の問題が大豆の中のたんぱく質の量の問題だろうと、
おもちゃやの値引きの問題だろうと、
「定員」という言葉や「希望者」という言葉を探していて、
「定員も希望者も書いていないから、もとにする数も比べる数もない」と
いうことになってしまうのです。
そこから先は当てずっぽうで、式を書いていってしまいます。
こうした類推を必要とする作業に
困難を持っているからです。
また「もとにする」というイメージ、
何かを1と置いてみるイメージを
言葉ですることに無理があるようです。
アスペルガー症候群の子は見えないものを言葉だけで想像するのが
苦手な子が多いのです。
それこそ、教科書で、「割合=比べる量÷もとにする量」の例題をあれこれした上で、
「おもちゃ屋では、定価2500円の模型を、30%引きで売っていました。代金は何円ですか」
という章末の問題を解けと言われても、
「比べる量からもとにする量を割るんだったけど、どの数からどの数を割るのかな?」という
捉え方で考えれば考えるほどちんぷんかんぷんに
なってしまうのです。
そこで、教科書のリードに従って、段階的に理解していくのをやめて、
「最終的にこういう問題が解けるようにならないと……」という
まとめの課題を、
★ちゃんが得意な視覚的な判断で解いていくように導き、
「解ける」「わかる」という身体でマスターさせたものに、
抽象的であいまいな言葉を重ねていくように努めました。
そうして学習する順序を変えると、
★ちゃんは徐々にですが、理解しはじめました。
どういうことかというと、「もとにする量」をシンプルな1本の帯で
表して、
「○割」
「○%」
を視覚で捉えて、計算で解けることを最初に目指し、
この作業が定着した時点で、
どちらがもとにする量で、どちらが比べる量にあたるのか、
目で判別できるように導くのです。
先ほどのおもちゃ屋の30%引きの問題にしても、
1本の帯で定価を表し、30%引きとは70%のことといっしょと
目でわかるように整理します。
計算するとなると、★ちゃんは小数の方が解きやすいようでした。
でもいったん分数で表しているのは、
いちいち、「%だからね。100個に切るよ。トントントン……その切ったのの30個分」と具体的に作業で表現して、
解く回数を重ねるうちに
割合の意味の理解していけるように、そうした書き方をしています。
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アスペルガー症候群の子 の 高学年の算数のつまずきを減らすためには、
「本質的なことを理解しなまま細部の記憶に振り回されて、学べば学ぶほど
わけがわからなくなりやすい」
「類推が苦手」
「言葉だけで見えないものをイメージするのが難しい」
といった特性に配慮した教え方をするのが大事だと感じました。
そのためには、
問題ごとにころころ変わらない「基本の型」のようなものを設定し、
どんな問い方をされてもそれに当てはめていけば何とかなるような
マニュアルを作ってあげる必要を感じました。
教科書のようなだらだらと長引く説明は、何度読み返させても
混乱を招くだけですから。
先に「できる問題」「解ける問題」を作って、
それを解くのに慣れたところで、
抽象的な言葉が、すでにできるようになったことのどれにあたるのか、
指摘していってあげるのです。