前回までの記事の補足として、
人や周囲の出来事への関心が極端に薄い子の
「体験不足を補う」
ことについて書いてみようと思います。
体験が不足と聞くと、いろいろなところに連れて行けばいいのか、
スポーツや音楽などの習い事をさせたらいいのか、
もっと同年代の子と遊ばせたらいいのか、と迷いますよね。
わたしは何か特別なことをさせることより、
それまで通りの生活の中の1シーン1シーンを
身近な大人が少しだけ意識して
その子の心と身体に働きかけていくものに変えていくことが
大切だと思っています。
たとえば、この日の工作で、●くんにとって重要だったのは、
「いろいろある材料の中から気に入ったものを選ぶ」ということでした。
●くんは、「選ぶことは楽しい!」という経験を
あまりしたことがないようでした。
何かひとつのものが気に入って、「見つけた!」と思い、
「これ、ちょうだい」という体験。
「これが好き」「これが欲しい」という思いを大事に育んでもらっていると、
次には、「それで遊ぶ」「じっくり遊ぶ」「ひとつのものに愛着を持つ」という段階に移っていきますし、
そこから人との関わりも生まれてきます。
●くんのお母さんは、●くんの発達の遅れを気にするあまり、
これまで何かが上手にできるようになるためのアプローチに
ばかり励んできたそうです。
そうしたお母さんの努力は、●くんの
人や物や環境への無関心さを加速させてしまったようではありました。
今は、何かを訓練したり、上手に人と関わることを求めたりするよりも、
「どれにしようかな?ぼくはこれがいい。これが好き」と自分で選んで手にできるような
場面をたくさん作ってあげる必要があるのかもしれません。
おでかけの際に、好きながちゃぽんをひとつ選ばせてあげることや、
朝食用のジャムやふりかけを本人の好きな味やデザインでいくつかそろえてあげて、
選ぶ際のやりとりを親子で楽しむようにする
程度のことでも、子どもは変化していきます。
●くんは、ボタンをポンポン押すと、人形がトンカチで相手の人形をポカポカするゲームで
☆くんと遊んだのがうれしくてたまらないようでした。
自分の殻に閉じこもり気味だった☆くんが、「いっしょ、遊べたよ。いっしょ。遊ぶのできた~!」と
お母さんに大きな声で報告していました。
そのはしゃいだ様子からは、
●くん自身、お友だちと上手に遊べないことを苦しく思っていて、いっしょに遊んでいる姿を見せて
お母さんを喜ばせてあげたいと思っているのがうかがわれました。
●くんの場合、ただ、子どもの輪の中に「遊びなさい」と放り込むのではなく、
このトンカチのゲームのように
●くんの今の力でお友だちと遊べそうなものをいくつか用意して、
短い時間でもいいので遊びが成り立つようにサポートしてあげながら、
「これなら遊べる」という自信をつけていってあげる必要を感じました。
できるようになることに注目するのではなく、
体験の中で「楽しい」「うれしい」「面白い」と感じる感性が育まれているか
配慮しています。