飛鳥への旅

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絵と語りの芸能2:写し絵

2009年08月09日 | 絵と語りの芸能
 写し絵は、幻灯器を改良発展させ、さらに芝居の要素を強めて、写し出された絵に独特の語りで進行する小規模な芝居小屋の中で行なわれる芸能である。
日本では、寛文二年(1662)あたりから、人形を動かす「からくり」が盛んであった。そのからくりを幻灯に応用し、新しい表現を開発したのが「写し絵」である。
その幻灯器は、当時オランダから輸入されていた。
西欧の幻灯の種板(スライド)には、2枚以上のガラスを組み合わせたり、歯車やレバーを使った仕掛けで絵を動かすものがあったが、日本の写し絵は、伝統の技と組み合わせることで、複雑でダイナミックな動きを可能にした。
江戸では、「写し絵」と呼ばれたが、関西では、「錦影絵」または、「錦操り」と呼ばれ、他に「影デコ」(島根)、「影人形」(松江)とも呼ばれた。

 写し絵の幻灯機





 写し絵は、映像に語りと音曲を加えて劇を演じた、映画に百年も先行した芸能だった。単に映像を映しただけではない。写し絵師が「光を操り」、映像を自在に操作して劇を演じたのが「江戸写し絵」である。絵を動かす原理は今日のアニメーション映画と同じで、その基本技術はすでに江戸時代に考案され、劇に生かされていた。映画などのフィルムに固定され映像ではなく、客の反応に受け答えする「生」の映像と言えるだろう。



 江戸時代、写し絵は油皿に立てた芯を点して明かりとした。そこで得られる明るさでは、百名の客に観せるのが限度だった。その後映画が輸入されるにおよんで、興業としては成り立たずに衰退していった。



 平成5年に「劇団みんわ座」が「江戸写し絵」を復活させた。今では毎年公演を行っているというのだが、小さな劇団が自力で資料を復元することを可能にしたのはコンピュータだったという。目覚しいデジタルメディアの発展が伝統文化に及ぼす影響の方が目に付くような昨今にあって、デジタルメディアが伝統文化に果たす役割を考えさせられる。

 だるま夜噺

 あたま山

 牡丹灯籠 お札はがし

 みんわ座は現代の優れたランプを使い、欠点であった光量を上げ、鮮やかな映像を映すことに成功した。演劇性の高い「からくり」の技術を復元し、音楽と独特の語りで影絵が動き出す。語りでは人間国宝の新内節弾語りが演じる場面もある。大勢の観客に観て貰える江戸の香り高い「写し絵」を上演しているのである。
 「江戸写し絵」は、今日では世界でも例のない日本独特の芸能である。

 私も2回ほど、みんわ座の公演を観たことがあるが、小さな小屋のような空間で、真っ暗な部屋のスクリーンに色鮮やかに影絵が動き出すのは、子供の頃に体験したような新鮮な驚きでワクワクしていたものだ。現在の映像技術からすれば、簡素で単純な映像であるが、それだけにインパクトがあり独特の弾き語りも加わって、心に直接響くような新鮮さを感じるのである。
 みんわ座の復元は、昔の懐かしさと、今日的な舞台芸術の可能性を切り開く、斬新性を兼ね備えていると、日本以上に海外で評価されているのである。

<参考サイト>
劇団みんわ座 写し絵の舞台映像を動画で観ることができます。