秋山のもみぢを茂み迷(まと)ゐぬる
妹が求めむ山道(やまぢ)知らずも
=巻2-208 柿本人麻呂=
秋の山に、紅葉した草木が茂っていて、そこに迷い込んだ妻を捜す山道すらわかわない、という意味。
この歌の前の長歌(207)で、「天(あま)飛ぶや 軽(かる)の路(みち)は ・・・」とあり、「軽の路」は奈良県橿原市大軽の辺りで、畝傍山の東南の地といわれる。
当時、死んだ人は自ら山路に入っていくと信じられていた。まだ妻の死を認めようとせず、山道に迷い込んだだけだと思っているのである。
橿原市地黄にある人丸神社は、柿本人麻呂のいくつかある出生地のひとつとされている。
万葉集巻2にある柿本人麻呂の「泣血哀慟の歌二首」それぞれ長歌1首・短歌2首(207・208・209)(210・211・212)は、亡き妻を思う切々たる気持ちが溢れている歌である。