MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1916 乱暴な開発行為のツケ

2021年07月26日 | ニュース


 蒸し暑さが続く7月3日。折からの梅雨前線停滞に伴い全国的に記録的な大雨が続く中、土曜日の午前中のテレビ画面に突然映し出された静岡県熱海市の土石流の映像は、週末のんびりした各家庭の空気を一瞬にして凍り付かせたものと思います。

 急峻な斜面に張り付く家々の間を縫う谷筋を、大量の土砂とともに鉄砲水が流れ下りてくる。建物や自動車を薙ぎ払い、平穏な日常生活を一瞬にして押し流す自然の力の恐ろしさに誰もが息を飲んだことでしょう。

 その光景は、私たちの暮らす家や道路や様々なインフラが、いかに脆弱な基盤の上に成り立っているのかを改めて思い起こさせるとともに、住民の生命を脅かすような災害がいつどこでも起きうることを痛感させるものとなりました。
 とはいえ、あの映像を見て、「これは普通じゃないな」と一瞬で感じたのは私だけではなかったでしょう。

 一般的に「鉄砲水」と言えば、上流にせき止められていた水が決壊し大量の土砂とともに一気に谷を滑り落ちてくる状態を指すものです。
 なにか「きっかけ」がなければ、ああした(突然の)災害にはならないはず。案の定、上流では建設残土や廃材などによる谷筋の不法な埋め立てが進んでおり、そこには水抜きのための施工などもなされていなかったことから、一帯が大雨で大きく滑り落ちたことが後の調査で分かりました。

 そういう意味では、今回の災害がまさに「人災」であったことが判りますが、あの地形で上流の谷が埋め立てられれば、何が起こるかは地元の人なら容易に想像できたはずです。

 私も被災地域の周辺には多少の土地勘があるのですが、あの辺りの地形はテレビの画面からもわかるように大変急峻で、谷筋に通った狭い道ごとに(その多くは別荘として開発・分譲された)家々が張り付いている状況です。
 普通であれば人が住みつかないような斜面にも点々と家が立ち並び、既に誰がそこに住んでいるのか(もしくは住んでいないか)、近所の人々や役所でもよくわからないのが実態だったようです。

 さて、(後になって考えれば)谷の不法な埋め立てや不適切な盛り土、沢に面した急傾斜地の開発など、不自然な土地利用の中で起こるべくして起こったとも考えられる今回の土砂災害。亡くなられた方、被災された方には心よりお見舞いを申し上げたいと思いますが、こうした災害を未然に防ぐ意味からも今できることがあるはずです。

 7月26日の総合情報サイト「JBpress」では、経済評論家の加谷珪一氏が「限界目前、こうなることは分かっていた日本のインフラ」と題する寄稿を行っています。

 静岡県熱海市の伊豆山地区で発生した大規模な土石流は、2021年7月14日時点で11名が亡くなり、17人が行方不明、130棟の建物が流されるという極めて大きな被害をもたらした。
 日本列島に降る雨の総量そのものは長期的に見て大きな変化はないものの、1時間あたり50ミリ以上の大雨が降る頻度は年を追うことに高まっており、大雨による被害が毎年のように発生していると加谷氏はこの論考に記しています。

 しかし、こうした変化はここ数年で急に発生したものではなく、20年近く前から何度も指摘され続けてきた。20年という短期間で国土全体を改良することは不可能だが、少なくとも危険な地域への宅地開発を制限するといった対策は打てたはずだというのが、現在の状況に対する氏の認識です。

 ところが、日本は全く逆の政策が行われてきた。山梨大学の研究によると、浸水が想定される区域に住む人の数は1995年から2015年の20年間で約150万人も増えていると加谷氏はこの論考で指摘しています。

 確かに、水害が発生しやすい地域に新しく宅地が開発されたり、タワーマンションの建設などが進んで住人が急増したりしているのも事実です。新規の宅地開発は容易ではなく、地理的条件を吟味し過ぎると安価な住宅を供給できないといった事業者側の都合はあるのでしょうが、危険とわかっているエリアでの宅地開発を進めるのは(何も知らされない)消費者への裏切り行為ともいえるでしょう。

 熱海の災害と盛り土との関係についてはいまだ詳細は明らかにされていないが、開発で生じた土砂の廃棄が原因だった可能性も否定できず、こうした杜撰な盛り土は全国各地に存在していると考えられると氏はこの論考に綴っています。

 宅地の造成と残土の処理は表裏一体の関係であり、最終的には国土開発全体のあり方につながっている。日本では人口の合理的な集約化が進まず、宅地が乱開発されているというのは昭和の時代から指摘されてきた問題で、こうした戦略性のなさというのも一連の被害拡大に影響しているのではないかというのが、今回の土砂被害に対する氏の見解です。

 日本ではこれまで設備の更新を考慮に入れず、新規建設の拡大を最優先してきたが、これは必ず後の世代にツケを回す結果となると、氏はこの論考に記しています。

 新規建設は利益が大きく、政治的にも旨味があるのは間違いない。しかし、だからといって、国民の生活の基礎となるインフラというのはこうした目先の利益で作ってはいけないものだと強く戒める加谷氏の指摘を、土石流の映像とともに私も重く受け止めたところです。



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