MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2451 「仕事」だけでは勿体ない

2023年08月06日 | ニュース

 自民党女性局のフランスへの海外研修に対し、党内外から批判の声が上がっているようです。

 事の発端は、現参議院議員の松川るい女性局長がSNSの自らのアカウントに、他の参加者とともにエッフェル塔を背景にした写真を投稿したこと。「パリの街の美しいこと!」という書き込みとともに同行者とともに塔を模したポーズをとった、投稿自体は(どこにでもある)まさに他愛もないものでした。

 しかし、その写真が醸し出している(あえてストレートに言ってしまえば)「お気楽」な雰囲気が、日々の生活にストレスのたまった国民の怒りに火をつけてしまったのでしょう。気が付けば「血税で旅行か」などと批判のコメントが多数書き込まれる(いわゆる)「大炎上」の事態を招き、山口公明代表も岸田首相長男引き合いに苦言を呈するなど、メディアを巻き込む騒動と化しました。

 松川氏は「党費と応分の自己負担で行った」と釈明したうえで、「『税金で楽しそうに旅行している』と皆様の誤解を招いてしまったことについて申し訳なくおもっている」との謝罪文を掲載。事態の幕引きを図りましたが、その後、氏の次女が同視察に同行していたことなども明らかになり、「結局、家族旅行か?」と批判の声はさらに高まっている様子です。

 さて、昭和の時代に育った私などは、「人間仕事ばかりで生きているのではないのだから」「これくらいのことに目くじらを立てなくても」…と(単純に)思うのですが、令和のポリティカル・コネクトネスが身に付いた人々は、そう簡単に許してはくれないようです。またいつものように、「私が悪うございました」「もうしません、勘弁して下さい」と(ぺしゃんこになって)完全降伏の態度を見せるまで、寄ってたかって罵声を浴びせ続けるのでしょうか。

 細かなことに一つ一つ難癖をつけては吊るし上げようとする現在の風潮に「なんか暮らしにくい世の中になって来たな…」などと感じていた折、8月2日の情報サイト『Newsweek日本版』に、ジャーナリストの冷泉彰彦氏が「海外出張したら可能な限り現地観光をするべき」と題する論考を寄せているのを見かけたので、参考までに小欄でも概要を紹介しておこうと思います。

 自民党の「党女性局」の政治家ら38名が、フランスへの海外視察の際に「エッフェル塔での記念写真」などをSNSに投稿したことが問題となっている。しかしこの投稿をもって、今回の視察そのものを否定するように世論を誘導しようとするのは、(いかにも)乱暴な論理だと冷泉氏はこの論考に記しています。

 視察の目的がフランスの少子化対策ということであれば、当然「①手厚い現金給付」「②婚外子の社会的受容」「③3歳児からの義務教育」という3つの実情を確認したいところ。いずれも、日本でも検討が必要な政策であり、政策当事者の声を聞くことだけでなく賛否両論の生の声を聞くこと、そして制度改正の成果を実際に目撃することが視察の成果につながるだろうと氏は言います。

 視察で見聞きしたこと経験したことを選挙区に持ち帰り、頑固な反対世論を説得したり実施可能な政策へのブラッシュアップなどにつなげていくこと。一連の騒動(への報道)はそうした視察本来の意義を無視したものであり、(SNSの使い方に問題はあったとしても)読者・視聴者を感情的な面から煽り、拡散して問題を大きくしたメディアには大いに反省を求めたいというのが氏の見解です。

 岸田翔太郎元秘書官がロンドンで起こした騒動の際にも感じたが、日本には、海外視察に行ったら「仕事以外してはいけない」と杓子定規に考える人が多い。必要な会議に出て、予定されていた視察を行い、後はホテルの自室でまとめレポートを書いたりするのが「仕事」だということは判る。しかし、公費で出張したのだから、それ以外は「公私混同」になるのでダメだというだという発想だけで、本当に出張の元は取れるのか。

 今回の「エッフェル塔騒動」の余波として、民間企業の間でも、そのような「杓子定規」が亡霊のように出てきては困りものだと氏はここで指摘しています。断言しても良い、海外出張をしたら、時間の許す限り観光するべきだというのが氏の指摘するところです。

 例えばパリに出張したら、エッフェル塔に上って整然としたパリの都市計画を見ておくのは、ほぼマストではないか。ニューヨークなら、エンパイア・ステート・ビルなどから都市圏の全体像を把握する。ブロードウェイの賑わい、ダウンタウンの雰囲気などを知るのも、「特に初めて訪問するのであれば」絶対に外せないと氏は話しています。(私も本当にそう思います)

 何故ならば、まずは観光をすることで、その国の文化や社会の理解についての第一歩を踏み出すことができるから。整然とした都市計画を実施する国は、その文化においてどんな論理性を持っているのか、あるいは雑踏を歩く人々の態度や姿勢は日本とどう違うのか。百聞は一見にしかずとはよく言ったもので、そうした経験はその「国を知る」上で欠かせない体験だというのが氏の認識です。

 例えば、その国へ市場として商品を販売しに行こうと思うなら、そのような「国の文化と社会」を体感することから始めて、やがて地元の多くの人との交流を重ね、試行錯誤をしながら商品をローカライズしなくてはならない。それが金融上の取引であっても、相手の文化や発想法を理解していれば、不利な契約を押し付けられることもなく、戦略的な交渉ができるということです。

 このように、国際ビジネスの成否はとにかく相手の国の文化と社会を知ることから始まる。著名な観光地を訪れることはその第一歩になると氏はしています。

 70~80年代の日本企業は、こうしたリサーチを怠らず、ほとんど全世界を相手に商売をしていた。しかしどうしたわけか、90年代以降は多くの日本企業が世界各地の市場特性を調べることを面倒がって、消費者向けのビジネスからB2Bのビジネスに逃亡。それが日本の経済衰退の一因となったということです。

 現在、ポストコロナの状況下で、観光ニーズはインバウンド(日本への来日外国人)もアウトバウンドも回復しつつあると言われている。しかし、日本企業による海外出張はいまだコロナ前の6割以下。円安という問題もあり、今後も完全には戻らないかもしれないと氏は言います。

 ということは、海外出張は本当に必要なケースに限定され、その頻度は抑えられたまま。そうであればこそ、貴重な海外出張の機会には公式日程だけでなく、堂々と観光して、現地人と交流し、市場特性を徹底的に肌感覚で叩き込んでビジネスに活かしてもらいたいと氏は話しています。

 会議に出たり、ホテルにこもって報告書を作ったりするばかりが仕事ではない。観光だって、大いに結構ではないか。コロナで海外に出られなかった日本人に今必要なのは、現地を知り、人と触れ合い、生活の空気を肌で感じることだと考える冷泉氏の指摘を、私も共感を持って受け止めたところです。

 



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