ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

キアズマ (Chiasma)

2007年04月01日 | 名盤


 山下洋輔は、ぼくの好きな文章家のひとりです。
 ミュージシャンらしいユーモアと乾いた狂気のようなものが混然となった文章は、とても愉快で面白い。
 山下氏の名はかなり以前から知っていました。でも彼の音楽がフリー・ジャズということで腰が引けてしまい、聴いてみるまでにはいたりませんでした。
 ある日、書店で山下氏の本を見つけました。
 ミュージシャンが書いた本だから音楽のことにも触れているだろうと思い、手に取ってパラパラめくってみたら、これが面白いのなんの。すぐ山下ワールドにハマってしまいました。
 もちろんマジメな音楽論もありましたが、山下流ギャグ満載のエッセイのエネルギーに圧倒されてしまいました。


 著作を読んで山下氏に親近感を覚えたことで、ようやく氏の音楽にも触れてみようと考えたぼくが最初に買ったのが「キアズマ」です。この一風変わったタイトル、細胞分裂に関係した生物学用語らしいです。



    


 「キアズマ」には、1975年6月6日、ドイツのハイデルベルク・ジャズ・フェスティヴァルでの山下洋輔トリオのパフォーマンスが収録されています。
 フリー・ジャズなんて今でも「分かる」とは言えませんが、この「キアズマ」を聴いた時、そのエネルギッシュな音にはただただ圧倒されました。
 爆発的な山下氏のピアノ、坂田明氏のサックスの咆哮、轟き渡る森山威男氏のドラム、この三者が互いの音に触発し、反応し合い、時には情念のおもむくまま全力で疾走しています。そこから湧き上がるエネルギーの凄いこと。


 フリー・フォームなジャズは、大別すると空間や音の隙間を生かすものと、音で空間を埋め尽くすものに分かれると思うのですが、この山下トリオの演奏はもちろん後者。フリー・ジャズが分からなくても、その爆発的なエネルギーを感じることはできます。ちょっと乱暴な言い方ですが、ヘヴィ・メタルなどを聴く時のような高揚感と解放感に近いものがあるでしょうか。即興で演奏するからこそ生まれるパワフルな空気が次々と聴いているぼくに降りかかってきます。このノイズとメロディーの詰まった空間がとにかく気持ちいい。
 また、分からないなりにも、山下トリオの演奏からは歌が聴こえてくるような気がするのです。だからこそ何度も繰り返して聴くことができるのかな、なんて思ったりしました。





 チンプンカンプンだろうと思ったフリー・ジャズでしたが、山下トリオのこのアルバムに限って言えば、分からないなりにも面白く聴くことができたと思います。
 曲も、それぞれに短いながらもテーマがあるので、全く分からない、ということもありませんでした。
 聴衆の反応も凄いです。1曲終わるごとの拍手と歓声の大きなこと、やはりヨーロッパのジャズ・ファンは聴きどころをよく知っているのでしょうね。


 しかしこのパワフルな演奏、まさに山下氏の文章そのままではないでしょうか。






◆キアズマ/CHIASMA
  ■演奏
    山下洋輔トリオ
  ■プロデュース
    ホルスト・ウェバー/Horst Weber
  ■録音
    1975年6月6日 ハイデルベルク・ジャズ・フェスティヴァル(ドイツ)
  ■リリース
    1976年
  ■収録曲
    ① ダブル・ヘリックス/Double Helix (山下洋輔)
    ② ニタ/Nita (山下洋輔)
    ③ キアズマ/Chiasma (山下洋輔)
    ④ ホース・トリップ/Horse Trip (森山威男、山下洋輔)
    ⑤ イントロ・ハチ/Intro Hachi (森山威男)
    ⑥ ハチ/Hachi (森山威男)
  ■録音メンバー
    山下洋輔(piano)
    坂田明(alto-sax)
    森山威男(drums)
  ■レーベル
    MPS Records




コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« カルメン・マキ&OZ | トップ | 八神 純子 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ろ~ず)
2007-04-05 01:45:11
山下洋輔を初めて知ったのは日経の文化面でした。
「冬でも冷やし中華を!」という内容の文で、たぶん70年代前半か後半ころ、名前は知っていたのかどうか、ジャズを聴き始める前だったように思います。

というわけで山下洋輔というと音楽より冷やし中華が頭に浮かんでしまい、実はアルバムもまともに聴いたことがないのですが、ライブには10年位前、地元に来てくれたので行きました。外国のピアニスト(忘れてしまいました)との共演でドラムとかベースは無しです。
「ボレロ」をソロでやったのですが、これは原曲をあまり崩してなかったので聴きやすかったです。

MINAGIさんの写真にもあるように、いくぶん腰を浮かしぎみの、汗が出るようなエネルギッシュなイメージがありますね。
返信する
ろ~ずさん (MINAGI)
2007-04-05 09:59:22
>冷やし中華
 全日本冷やし中華愛好会(全冷中)というものを作って、初代会長を務めてましたね(2代目会長は筒井康隆氏)。かなり本格的な会で、広報紙なんかも出してたみたいです。遊びでも全力で徹底して遊ぶところは山下氏のピアノや文章にも通じるところがあると思います。

スタンダードを演奏している山下氏のアルバムも持ってますが、わりと分かり易く弾いてましたよ。でもやっぱりどこか破壊的というか、狂気みたいなものを感じました。
演奏は三人とも弾けまくりですよね。ピアノは指だけでなく、コブシ弾き、ヒジ打ちetcが飛び出して、ピアノの弦を切るのも珍しくないみたいですね。
返信する

コメントを投稿

名盤」カテゴリの最新記事