ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ワルツ・フォー・デビイ(Waltz for Debby)

2019年09月29日 | 名曲

【Live Information】  


 ぼくはそのころ何歳だっただろう。
 まだ幼稚園には行っていなかったと思うんです。だから保育園に通っていたころかな。
 アルバムを繰ってみると、ぼくが幼稚園に通ったのは6歳の時の1年間だけ。(今の今まで2年通ったとばかり思っていた。)
 ということは、3歳くらいから5歳くらいの間のことか。。。
 なんともあやふやな記憶なんだけれど。


 当時住んでいた家の雰囲気は、記憶によるとちょっと薄暗い感じ。
 午後の3時くらい、あるいは夕方前だったかもしれない。
 居間に置いてあったテレビ(まだ白黒放送とカラー放送が混在していた)で、地元局が放送している天気予報を、ぼくはいつも見ていました。
 父は自営だったので、事務所で仕事をしている時間です。母と姉がいたはずなのですが、不思議なことに、この天気予報を見ていた記憶の中にほかの家族の姿は現れてきません。だから、記憶の中のぼくは、ひとりきりでテレビの前に座っています。
 天気予報って、「岡山県のあすは、晴れ ときどき曇り」という、丁寧なナレーションがあるはずなのだけれど、アナウンサーの声がぼくの耳に届いていたかどうかも全く記憶にないのです。


 天気が気になっていたわけではないのです。
 バックでたんたんと流れている美しい曲が、まだ小さかったぼくの心にじんわりと染み込むのです。
 その曲は、ぼくが天気予報を見るたびに、まるでペンキを丁寧に何度も何度も重ねて壁や家具に塗るように、徐々に濃く記憶の抽斗に刻まれました。
 ピアノで奏でられるその曲は、どことなく愛らしく、品があり、清楚でした。
 これがぼくのいちばん古い、ジャズにまつわる記憶です。


          


 やがて家の近くの幼稚園に移ったぼくは、園を終えて家に帰るやいなや、友だちと遊ぶためにすぐに家を飛び出して行くようになりました。
 平日の午後にテレビを見ることはなくなり、いつしかその曲のことをまったく忘れてしまいました。

 大人になったぼくは、音楽にどっぷり浸るようになっていました。
 ジャズを演奏する頻度もとても多くなりました。すべからく、ジャズ・ナンバーをたくさん知っておく必要に迫られるようにもなりました。
 そこで、「ジャズ名盤ガイド」的な本などを参考にしながら、とにかくいろいろなレコードを有名なものから手当り次第に漁ったものです。


 当時のぼくにとってのジャズといえば、マイルス・デイヴィスだったり、オスカー・ピーターソンだったり、ハービー・ハンコックだったり。もちろんビル・エヴァンスもその中に入っていました。
 数あるエヴァンスのレコードの中で、いろんな本で見て馴染みだけはあった、女性らしきシルエットが浮かんでいるジャケットのレコードを手にしたときのことです。
 優しく可愛い3拍子のメロディが流れてきました。2曲目でした。
 思わず、はっとしました。
 これは、幼稚園のときに見ていたテレビの天気予報でかかっていた曲じゃないか!
 頭の片隅にひっそり眠っていた記憶が、一気に甦りました。
 この曲こそが、「ワルツ・フォー・デビイ」だったのですね。


 「ワルツ・フォー・デビイ」は、エヴァンスの兄の娘、つまり姪のデビイに捧げられた曲です。
 エヴァンスの初リーダーアルバムである「ニュー・ジャズ・コンセプションズ」(1956年)に、ソロとして収められています。
 「わたしが幼い頃、ビル(エヴァンス)がよく目の前で弾いてくれました」と、デビイは後年語っています。


          
          デビイ・エヴァンス(右)



◆ワルツ・フォー・デビイ/Waltz for Debby
  ■初出
    1956年(album 「New Jazz Conceptions」)
  ■収録アルバム
    ワルツ・フォー・デビイ/Waltz for Debby (1961年6月25日 ニューヨーク、ヴィレッジ・ヴァンガードで録音)
  ■レーベル
    リヴァーサイド/Riverside
  ■演奏
    ビル・エヴァンス・トリオ/Bill Evans Trio
  ■作曲
    ビル・エヴァンス/Bill Evans
  ■プロデュース
    オリン・キープニュース/Orrin Keepnews
  ■レコーディング・エンジニア
    デイヴ・ジョーンズ/Dave Jones
  ■録音メンバー
    ビル・エヴァンス/Bill Evans (piano)
    スコット・ラファロ/Scott LaFaro (bass)
    ポール・モチアン/Paul Motian (drums)



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貴方解剖純愛歌 ~死ね~

2019年09月27日 | 名曲

【Live Information】  



 これからの日本のポピュラー音楽界を活気づけ、支えていくであろうミュージシャンのひとり、あいみょん。
 「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」は、そのあいみょんのデビュー・シングルです。


 もともとTOWER RECORDS限定のワン・コイン・シングルとしてリリースされたインディーズ・シングルなので、オリコン・チャートの記録は堂々の「圏外」。
 では、ひっそり目立たないデビューに終わったのかというと、どうやらそうではなさそうです。


 病んでいるというか、多少ホラーじみているというか、今どきの言い方をすれば「メンヘラ」な歌詞は大きなインパクトを残しました。
 なんといっても、愛する相手に「死ね」。
 死ね、ですよ、死ね。
 「死ね。 わたしを好きでないのならば」。
 こんな強烈な言葉をぶつけてくるラブ・ソングを聴いたのは初めてかもしれないなあ。


     


 対照的に、メロディーはポップ。そして、とにかくパワフル。
 ブルー・ハーツなどを思い起こさせるパンクなムードも持ちながら、飛び跳ねるように、伸びやかに歌われる、どこか「胸キュン」な曲です。
 歌詞が超過激であることを忘れてしまうような、軽やかな疾走感。
 あいみょん自身がライブのMCで、「世界一ピュアで可愛いラブ・ソング」と言ってのけるのもうなづけます。


 なんといっても、あいみょんの独特の感性が窺える歌詞が新鮮ですね。
  「ねぇ~」と「死ね~ぇ~」で韻を踏むところなんか、あとで考えると誰にでもできそうだけれど、それはいわゆるコロンブスの卵というやつで、実際こういうふたつの響きが同じ単語が脳裏に飛び出してくるところがまさにあいみょんの感性なのだと思うなあ。
 腕を切り落としたり目をくり抜いたりと、過激でホラーな言葉がひっきりなしに飛びだしてくるのですが、明るくエネルギッシュなメロディのおかげもあってか、ジメジメ感や絶望感があるようには思えません。
 「唇を縫い 私だけのキスを味わえばいいの」なんて、ちょっとした江戸川乱歩の世界?、、、でもなんだか可愛くもあるんです。
 どぎついとも思える歌詞だけれど、これは実際に腕を切り落としたり目をくり抜いてやろうとしているわけではなくて、それくらい相手のことが好きで好きでたまらないのだ、ということをあいみょん視点で言葉にしているだけなのではないでしょうか。
 ちょうど尾崎豊が「盗んだバイクで走りだす(15の夜)」「夜の校舎、窓ガラス 壊してまわった(卒業)」という言葉を当時のティーンエイジャーの荒れた気持ちを象徴する言葉として使い、彼らの思いを代弁したように。
 あいみょん自身も「冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない赤さが綺麗で(生きていたんだよな)」という歌詞を書いていますが、これなんかも「象徴としての歌詞」なんじゃないかな。
 (尾崎の歌を「犯罪を助長する」とか、「"血の赤いのが綺麗"だなんて不謹慎!」、などと評する声もあるようですが、これは国語力のなさ、いや想像力のなさから来ているのではないか、と自分では思っています。どのように読むのかは自由ですが、自分の感性に合わないだけで「不謹慎」「失礼」と決めつけてそれを押しつけて欲しくはないなあ)


     


 もちろん否定的な声もあるでしょうし、その否定的な声も受け取り方のひとつです。
 でも、きっと若い世代はあいみょんの率直な言葉や感性に安堵し、自分の気持ちを代弁してくれることに対して共感や信頼感を覚えていることでしょう。そして彼らはあいみょんに大きな拍手を送るであろうということは、想像するに難しくないのです。


 あいみょんって一見気だるそうな表情をしているけれど、その表情とはうらはらに声には明るさと温もりと湿り気が含まれていて、とても人間らしい響きがあると思うんです。



[歌 詞]



◆貴方解剖純愛歌 ~死ね~
  ■歌・ギター
    あいみょん
  ■リリース
    2015年3月4日
  ■作詞・作曲
    あいみょん
  ■編曲
    samfree
  ■チャート最高位
    2015年オリコン週間チャート  圏外



 あいみょん 「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」



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2019年10月のライブ予定

2019年09月23日 | 演奏スケジュール

【Live Information】  

 
10月4日(金)         
  岡山
ピアノバー
          
   岡山市北区野田屋町1-11-10 清水ビル3F (tel 086-222-8162)              
    【出 演】 美淋つゆ子(piano)、皆木秀樹(bass)              
    【料 金】 1000円(飲食代別途)              
    【演 奏】 21:00~、22:00~ (2回ステージ)           
    ※シットイン可


10月5日(土)       
  倉敷 木庵
            
   倉敷市川西町18-23 (tel 086-421-9933)           
    【出 演】 MISA(piano)、皆木秀樹(bass)         
    【料 金】 飲食代のみ           
    【演 奏】 19:00~ (2回ステージ)


10月6日(日)
  おかやまジャズ・ストリート2019
    【出 演】 山本ヒロユキ(piano)、皆木秀樹(bass)
    【料 金】 1000円 (2日間共通チケット) ※販売は各会場で
    【場 所】 19:00~ 喫茶壱番館 (岡山市北区表町3-9-22 (tel 086-233-1560)
           21:00~ ROOVY (岡山市北区田町2-5-23 (tel 086-221-7721)


10月15日(火)          
  岡山 ピアノバー
 
   岡山市北区野田屋町1-11-10 清水ビル3F (tel 086-222-8162)                   
   Live & Session   
    【出 演】 古山修(guitar)、皆木秀樹(bass)                   
    【料 金】 1000円(飲食代別途)                   
    【演 奏】 21:00~、22:00~ (2回ステージ)                   
    ※セッション可


10月16日(水)
  岡山 Desperado (バー・サイド)
   岡山市北区表町3-11-105 (tel 086-225-5044)
   ミナコボクスvol.19
    【出 演】 高橋ミナコ(vocal)、美淋つゆ子(keyboard)、皆木秀樹(bass)
    【料 金】 1500円(飲食代別途)
    【演 奏】 20:00~ (2回ステージ)

  
10月17日(木)       
  岡山 ピアノバー
          
   岡山市北区野田屋町1-11-10 清水ビル3F (tel 086-222-8162)              
    【出 演】 上森'picci'一洋(guitar)、皆木秀樹(bass)              
    【料 金】 1000円(飲食代別途)              
    【演 奏】 21:00~、22:00~ (2回ステージ)             
    ※シットイン可 


10月18日(金)
  宵まちクレド   
  クレド岡山 1Fふれあい広場
 
   岡山市北区中山下1-8-45 (tel 086-212-2525)   
    【出 演】 山科賢一(piano)、秋山もへい(sax)、皆木秀樹(bass)   
    【料 金】 無料   
    【演 奏】 18:00~19:30  


10月22日(火:祝日)
  吉永拓未ディナーショー
  岡山 ANAクラウンプラザホテル 

   岡山市北区駅元町15-1 (tel 086-898-1111)
    【出 演】 吉永拓未(vocal, piano)、入江修(sax)、MISA(piano)、足立健(drums)、皆木秀樹(bass)
    【料 金】 12,000円(洋食コース+フリードリンク付き)
    【時 間】 開場18:15  ディナー19:00~  ショー19:45~
    ※チケット完売しました
               

10月23日(水)        
  倉敷
アヴェニュウ
        
   倉敷市本町11-30 (tel 086-424-8043)    
    【出 演】 古山修(guitar)、新田佳三(drums)、皆木秀樹(bass)           
    【料 金】 1000円(飲食代別途)           
    【演 奏】 20:00~、21:00~、22:00~ (3回ステージ)
    ※シットイン可 


10月26日(土)  
  岡山 GROOVY
              
   岡山市北区田町2-5-23 (tel 086-221-7721)                  
    【出 演】 山本博之(piano)、皆木秀樹(bass)               
    【料 金】 2000円(飲食代別途)                  
    【演 奏】 20:00~ (2回ステージ)                  
    ※シットイン可


10月30日(水)
  倉敷
アヴェニュウ
            
   倉敷市本町11-30 (tel 086-424-8043)         
    【出 演】 藤沢はるみ(piano)、池田拓史(drums)、皆木秀樹(bass)                
    【料 金】 1000円(飲食代別途)                
    【演 奏】 20:00~、21:00~、22:00~ (3回ステージ)  




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角銅真実 Live at 岡山禁酒会館

2019年09月04日 | ライブ

【Live Information】


 ライブ・タイトルは「砂の毛布」。  
 ふだんあまり夢を見ないという角銅さんの見た、とても気持ちの良い夢から取ったものだそうです。
 聴いているぼくもその砂の毛布にくるまれたかのような、夜でした。


 打楽器奏者の角銅さんですが、この夜はギターまたはピアノの弾き語り。オリジナルとカバーをまじえながらの約90分のステージでした。
 セット・リストを決めずにステージに臨んだそうですが、それだからこそ「生まれたてのステージ」な、瑞々しい空気が醸し出されていたのかもしれません。
 貫頭衣をイメージさせるワンピースもユニークでした。


     


 ライブ会場は、岡山市民ならなじみのある「禁酒会館」。
 大正時代に建てられ、岡山大空襲をもくぐりぬけて生き残っている、ドイツ風の3階建ビルです。
 この禁酒会館のレトロ感と、角銅さんの透明感のある歌がよく合うんです。


 クーラーから出る音が気になるため冷房を消し、窓を開けてのライブとなったのですが、面白いことに、屋外の車や市電の音、横断歩道の視覚障碍者用のメロディなどなどが、いつの間にかまるで角銅さんの音楽の一部のように聴こえてくるんです。  
 ちょうどエンディングのフェルマータのあたりで市電が通り過ぎたり、サウンド・エフェクトのように人の声や車・市電の音が曲にかぶっていたり。  
 そう感じさせてくれるような歌声、あるいは曲の数々だったのだと思います。


     


 澄んでいて、静かで細やかで、よく通る声。
 本に例えるならば、童話とか、絵本のような雰囲気をもつ個性的な曲の数々。
 今はなきアトラス・ピアノ社製作のピアノ「モルゲンスタイン」の音がこれまた異界の寂しさみたいな味があったり。
 

 メトロノームやオルゴールなどを使ったしかけは、ピンク・フロイドとかカンタベリー系のプログレッシブ・ロック、ミュージック・コンクレートなどを思わせるところがありました。
 「優しく和やかに弾き語る」だけではない、前衛的なもの、ルナティックななにか、異界との狭間にいるような気にさせるなにか、などなどが自然な感じで曲の背後に潜んでいるような気がしました。


     


 ライブのあとの妙な満足感は、本を読んだあとの気分に近いような気がします。  
 会場は満席でした。
 県外からも聴きに来ている人がいたようですが、たぶんこの「妙な満足感」のとりこになった人たちなんだと思います。  
 この「砂の毛布」には、またくるまってみたい、と思わせられた夜でした。


 角銅真実さんはパーカッション奏者です。  
 パーカッション&コーラスとして「cero」をサポートするほか、「ORIGINAL LOVE」などのアルバムにパーカッショニストとして参加したり、原田知世さんなどに詞を提供するなど、幅広く音楽制作に携わっています。  
 いま多方面から大きな注目を浴びている「新星」です。



◆角銅真実ライブ 「砂の毛布」
 2019年9月2日
 岡山 禁酒会館
 [出演] 角銅真実 (vocal, guitar, piano, sound-effect)




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