言語空間+備忘録

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資本財中心の輸出と、日本の技術力

2010-11-07 | 日記
三橋貴明 『高校生でもわかる日本経済のすごさ!』 ( p.88 )

 日本の輸出を財別に見ると、実に74%以上を工業用原料と資本財が占めています。特に、資本財のシェアは50%を超えており、突出しています。それに対し、自動車や家電製品などの耐久消費財は18%強と、二割にも届いていないのです。
 工業用原料は何となく分かるとして、資本財とは何でしょうか。資本財とは半導体の原材料となるシリコンウエハーや、鉄鋼などの資材、工作機械や生産設備など、「企業が生産するために必要な財」のことを意味しています。
 たとえば信越化学工業は、半導体の原材料となるシリコンウエハーの市場で、世界シェアナンバーワンを獲得しています (ちなみに二位も日本のSUMCOです) 。世界中の半導体メーカーが、信越化学製のシリコンウエハーを使い、DRAMやSDメモリなどを生産しているわけです。わたしたち一般の消費者は、DRAMやSDメモリを購入することはあっても、シリコンウエハーを買うことはありません。それ以前に、シリコンウエハーの存在自体を知っている人が、少数派なのではないでしょうか。
 また、アメリカボーイング社の主力ジェット機「ボーイング777」は、機体の二割が日本企業により提供されています。胴体パネルやドア部、中央翼、主翼や胴体取り付け部など、ジャンボシェット機の命とでもいうべき重要な部分が、日本の川崎重工業、三菱重工業、そして富士重工の重工三社により設計、生産されているのです。
 ジャンボジェット機の翼の「買い手」は、そう多くはいないでしょう。当然ながら、川崎重工業などが、
「わたしどもの生産しているジャンボジェット機の主翼は素晴らしいです。是非、買ってください」
 などとテレビコマーシャルを打つことは、まずあり得ません。わたしたちは自ら調べない限り、ボーイング777の主翼が誰により作られているのか、知ることはないわけです。
 テレビコマーシャルで見るのは、わたしたちが買い手となり得る消費財ばかりです。結果、日本の輸出企業と言えば耐久消費財のメーカーであるという印象が、頭に染み付いてしまっています。
 しかし、現実には日本の輸出は五割以上が資本財となっているわけです。二番目に大きなシェアを持つ工業用原料も、購入者は当然ながら企業です。資本財について、
「一般消費者ではなく、企業が購入する財である」
 と、広義に定義すると、日本の輸出の内、何と七割以上が資本財により占められているということになります。日本の輸出の七割超は、一般消費者向けではなく、企業向けの製品で占められているわけです。
 日本の輸出の主力が、目立ちやすい耐久消費財でないからといって、別に落胆する必要はありません。資本財が輸出の主力であるということは、意外にメリットが多いのです。
 まず、資本財の売買は主に企業間で行われますので、長期的なビジネス関係になりやすく、安定的な収益が見込めます。
 資本財を購入する企業側は、それを活用して自社の製品を生産することになります。こうなると、製品選定時に品質などのチェックは、消費財購入時とは比較にならないほど厳しくなるわけです。とは言え、一度品質検査に合格した製品は、今度は逆に変更がしにくくなり、ビジネス関係は自然と長期化します。
 何しろ、下手に資本財の調達先を変更し、結果として自社の製品の品質に問題が生じた日には、大変ではすまされないわけです。下手をすると、企業の存続に関わる、大問題に発展する可能性さえ秘めています。一度決定された資本財の調達先は、何らかの明確な理由が無い限り、なかなか変えづらいものです。
 また、企業間で長期的なビジネス関係を築き上げることは、納期の短縮や品質の更なる向上にも繋がります。逆に、頻繁に資本財の調達先を変えてしまうと、購買時の条件を悪化させる結果にもなりかねないわけです。
 さらに、一般に資本財の輸出は、通貨高に対し抵抗力が強いと考えられています。何しろ、すでにご説明したように、資本財の売買関係は比較的長期に及ぶ傾向があります。日本からの購入費用が上昇したからといって、資本財変更が自社製品に及ぼす危険性を思うと、少々の円高で調達先を変更するのはリスクが大きすぎるのです。
 とは言え、資本財中心の輸出は、何も良いことずくめというばかりでもありません。資本財の輸出には、一つ困った特徴があるのです。
 それは、世界的な外需が縮小する環境下において、真っ先に受注が止まってしまうという性質です。資本財の輸出は、耐久消費財に先駆けて減る傾向があるわけです。
 考えてみれば、当たり前です。
 中国や韓国などの耐久消費財メーカーは、毎年膨大な資本財を日本から輸入しています。これらの企業は、普通は自社の手元に、ある程度の資本財在庫を保有しているわけです。さもなければ、何らかの事故で日本からの輸入が止まってしまった場合に、いきなり自社の生産ラインを止める羽目になりかねません。
 海外の耐久消費財メーカーが、ある程度の資本財在庫を保有している以上、自社製品の需要縮小が見込まれる時期 (要するに、現在) においては、まずは日本からの資本財購入を減らすことになります。すなわち、世界的な貿易縮小期には、資本財の輸出は耐久消費財に先駆けて減少していくわけです。
 実はこれこそが、2008年の第4四半期 (10月-12月期) に日本のGDPが激しく下落した主因なのです。リーマン・ショック以降の世界的な需要縮小速度は凄まじく、日本のみならずドイツや中国、それに韓国などの輸出も激しく落ち込みました。しかし、対前年比で見ると、日本の輸出の減少率は三ヵ国を軽く上回っています。


 日本の輸出の主力は資本財である、したがって円高には強い、と書かれています。



 日本の輸出の主力が資本財であるということは、日本の技術力の高さを示していると考えてよいと思います。高度な技術力がなければ、品質に対する信用が得られず、資本財の輸出は成り立たないと考えられるからです。

 著者はこれをもって、日本企業は円高には強いが、不況の影響を真っ先に受ける、と述べています。

 たしかに、「現在」についていえば、日本企業は円高に強い、といえるでしょう。しかしながら、これが「長期にわたって」続くかとなると、話は微妙だと思います。



 いまのところ、日本は中国・韓国 (…などのアジア諸国) に対し、技術的に優位にあるとみてよいと思いますが、中国・韓国の技術力は急速に向上しつつあると考えられます。日本人技術者が中国・韓国の企業に移籍するケースもありますし、(対価=現金を受け取って) 週末のみ技術指導に出向くケースもあるといいます。とすれば、次第に、技術的優位性は失われつつある、と考えなければなりません。

 また、そもそも、工作機械や生産設備などの資本財を輸出すれば、それを購入したメーカーは、その製品を分解するなり観察するなりして、なんらかの「技術」を得るとみなければなりません。工作機械や生産設備には、(それによって生産する製品と、工作機械・生産設備双方の) 技術的ノウハウが詰まっていると考えられます。したがって、資本財の輸出とは、技術的格差を縮める要素を持っている、ということになります。



 したがって当面、日本の技術的優位は崩れず、日本は円高に強いといえると思いますが、5 年先、10 年先を考えた場合に、(長期的に) 日本の未来があかるいかといえば、「わからない」と答えざるを得ないのではないかと思います。

 長期的に日本が経済的繁栄を維持し続けるためには、技術開発を続けて技術的優位を維持し続けなければならないのであり、「仕分け」の際に「一番じゃなきゃダメですか?」などと問うていては、日本の未来は暗くなる、といってよいのではないかと思います。

3 コメント

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Unknown (やす)
2011-08-14 13:41:37
資本財の比率が高いから日本の輸出は円高に強い、はまったくのデタラメです。円高が長らく続いてきたから、円高に弱い耐久財輸出企業は淘汰ないし海外移転してしまったわけです。その結果、「割合」で資本財比率が高いだけなのです。

よって、ある程度長い期間に渡り円安が続けば耐久財輸出企業が戻って来て輸出が増えるし、逆に円高が続けばそういったことが起こらない、という意味において、日本の輸出は為替の影響を非常に受けるわけです。

輸出のような「総量」が大切となる話において、その内訳となる比率はあまり有益な情報ではありません。まして為替の影響がどうかを考える時に、為替によって影響を受けてしまう比率に注視してしまうのは、有害なことが多いです。円高で弱いところは既に滅んだ、だから円高は問題ないのだ、って変でしょ?まして、企業なんて日本の労働力が割安になれば帰って来得るのだから。
Unknown (memo26)
2011-08-15 16:26:33
 コメントありがとうございます。私なりに考えてみました。

 本の著者が述べているのは、資本財の場合、「取引が長期に渡ることが多いので」円高には強いということですが、

 ドル建ての契約を更新する場合、(いかに長期的な取引であれ)円の上昇に応じて「どんどん(ドル建ての)価格を上げる」わけにはいかないと思われますので、

 やすさんの意見のほうが正しいと思います。

 もっとも、「比較的」円高に対する抵抗力が強い、といった程度であれば、(著者の主張も)成り立つと思います。

 参考までに、著者自身の文章(上記引用の一部)を引用します。

--- ここから引用 ---

 一般に資本財の輸出は、通貨高に対し抵抗力が強いと考えられています。何しろ、すでにご説明したように、資本財の売買関係は比較的長期に及ぶ傾向があります。日本からの購入費用が上昇したからといって、資本財変更が自社製品に及ぼす危険性を思うと、少々の円高で調達先を変更するのはリスクが大きすぎるのです。
Unknown (あ)
2011-11-24 15:17:19
Unknown (やす) >

企業の海外移転は円高だけが理由ではないよ
一番の理由は何と言っても人件費でしょう
なにせ中国とは10倍、韓国とは倍の賃金格差があるわけですから

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