言語空間+備忘録

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公共事業は最善の景気対策

2011-05-22 | 日記
藤井聡 『公共事業が日本を救う』 ( p.220 )

 ところで、公共事業を批判する議論の中で、次のような指摘を耳にすることも多い。それはすなわち、
 「景気対策のために財政出動が必要であるとしても、それが必ずしも公共事業でなくても、いいのではないか?」
 という指摘である。
 この指摘は、全く正しい。当然ながら、「公共投資、イコール、公共事業」ではないからだ。例えば、教育研究、資源開発、農業育成、そして、社会保障などの様々な項目への投資が、将来の日本のためには求められていることは間違いない。だから、景気対策のための公共投資を行うにあたっては、そうした多様な投資の一項目として公共事業を位置づけるという態度が、当然ながら必要だ。
 とはいえ、例えば、アメリカのリーマンショック後のいわゆる「グリーン・ニューディール」において「公共事業」が大きい割合を占めていたように、日本においても、効果的な経済対策を図る上で公共事業がその大きい割合を占めたとしても、それは至って "当然" の帰結だと言わねばならない。

 ただし、そんな "当然の議論" が、最近のマスコミ等ではほとんど論じられなくなったのは事実である。だから、「景気対策のためには公共事業」という議論が、なぜ "当然" なのか、ピンと来ない読者もかなりおられるのではないかと思う。ついては、この点を改めて整理しておくこととしたい。
 第一に、公共投資によって経済全体を活気づかせようとするなら、その投資が「様々な産業に波及すること」が必要だ。そうした波及のためには、投資する産業が様々な産業に関わっていることが重要である。その点、建設の現場は、鉄やコンクリート等の「部材」、トラックやクレーンなどの「機械」や、「調査・設計技術」、そして、大量の労働者のための「食事」や「宿泊」、はては「医療」に及ぶまで、実に多様な産業が関わっている。しかも、それらの産業は、さらに他の産業とも関わっている。そのため、建設産業への投資は、直接的、関接的に、莫大な経済波及効果を持つのである。ところが、例えば「医療」のみに投資をしてしまうと、建設産業よりは小さな波及効果しか得られない。ましてや、「子ども手当」のような投資の場合には、波及効果どころかすぐに「貯金」に回ってしまうのだから、大きな効果効果は期待できない(実際、〈株〉ニッセンが2010年6月に行ったアンケートによると、子ども手当の対象世帯の実に6割近くが、支給されれば、少なくともその一部を貯金に回すと回答している)。
 第二に、公共投資による失業対策としての効果を考えるなら、「急に失業してしまった人々でも働けるような雇用の創出」が必要である。複雑な技術を要する働き口では、大量の人々を雇い上げることができない。その点、公共事業の場合には、高度な技能を要する最先端の技術や設計に関する雇用から、いわゆる "日雇い労働" と呼ばれるような雇用まで、実に様々なタイプの雇用を生み出すことができる。
 第三に、「大きな公共投資を行うのなら、その "受け皿" が不可欠」だ。十分に育成されていない産業にいきなり数兆円の投資をしたとしても、それを消化しきれるはずはない。その点、公共事業を担う建設産業は、日本の全雇用の9パーセントを創出し、GDPの6パーセントをたたき出す文字通りの「巨大産業」だ。その雇用も経済規模も、日本経済を牽引する産業と位置づけられることが多い自動車産業のそれよりも大きいのだ。つまり、建設業ほど巨大な投資を受け止めることができるような産業は、実質的にほとんど見当たらないのが実態なのである。
 そして最後に、公共投資をする以上は、経済への短期的な "カンフル剤" として機能するだけでなく、「その投資によって "将来の経済成長を促す" ようなものであること」が重要だ。この点については、道路も、港湾も、ダムも、橋も、経済活動や生活のインフラとして大いに "必要" とされている(その仔細については既に本書で繰り返し見てきたので、ここでは改めて繰り返さない)。そうである以上、それらへの投資は、現在の経済を活気づけるだけではなく、将来の日本経済の発展にも多いに貢献し得るのである。

(中略)

 ただし、こうした "当然の議論" は、"当たり前過ぎる" とでもいわんばかりに、様々な論者からの批判にさらされてきた。ここでは、そんな点について少し触れておくこととしよう。
 まずよく耳にするのが、「確かに公共事業の波及効果(あるいは、乗数効果)は存在するが、そんなものはかつてほどはないじゃないか」、という指摘である。
 実際、いくつかの実証研究により、高度成長期の頃の経済波及効果よりも、現在の方が小さくなっているということも指摘されている。
 とはいえ、仮にそうであったとしてもなお、先に述べた理由を踏まえるなら、公共事業ほどに大規模な経済効果をもたらすような投資先は、ほとんど見あたらないのが実情である。
 次に、「地方経済の公共事業への依存体質が問題なのに、さらに公共事業を行えば、そんな体質が改善できないではないか」という指摘も、しばしば耳にする。
 確かに、バブル崩壊後に行った多くの公共事業によって、日本の地方部の公共事業依存体質がより著しいものとなった、という側面はあるだろう。
 しかしだからといって、公共事業をなくしてしまえば、大量の人々が実際に失業してしまうことは避けられない。だったらそんな人々をわざわざ一旦 "失業" させた上で、わざわざ "失業手当" を支払うよりは、将来、その地方の発展に寄与するような公共事業を行って、彼らに "給料" を支払った方が、ずっと「実のあるオカネの使い方」であることは、少し考えれば誰でもわかる話であろう。
 そして仮に、その地域の公共事業依存体質が問題だとしても、不況時ではなく景気が回復したタイミングで、(それこそ、不況時につくったインフラを活用して)公共事業の依存体質から脱却する産業の育成を考えればいいのだ。そうすれば失業者を出さずに、効果的に産業構造の転換を図ることができるだろう。
 こうした諸点も考えに入れれば、やはり、デフレ経済下での経済浮揚策として公共投資を行うなら、雇用確保の点でも、デフレ対策のためにも、そして、将来の潜在的な経済成長への寄与という点でも、「公共事業」への投資は、極めて有望な手法だと考えざるを得ないのである。


 景気対策としては、公共事業が最善である。多様な産業への波及効果、雇用創出効果、インフラとしての長期的効果が見込めるからである。なお、乗数効果が小さくなっている、経済体質が強化されない等の批判もあるが、それらの批判に対しては、公共事業が行うほうが「まし」であり、公共事業に勝る(まさる)対策はないと答えればよい、と書かれています。



 これには納得しました。著者は土木工学が御専門のようですが、さすがに専門家の意見には深みがありますね。



 ただ、すこし気になるところがあるので、その部分について記載します。ケチをつけるわけではありません(私は公共事業推進論を支持しています)が、ふと、疑問が浮かんだのです。

 著者は、仮に波及効果(乗数効果)が小さくなっているとしても、なお、公共事業に代わる投資先はほとんど見あたらない、と述べています。要は、いまなお、公共事業は「ほかの事業に比べれば」もっとも波及効果(乗数効果)が大きい、と主張しているのですが、

 それなら公共事業にまわす「予算」、つまり「事業の規模」を、小さくすべきではないか? という疑問があります。



 公共事業の波及効果(乗数効果)が小さくなっているのは、日本経済自体の「成長の余地」が小さくなっているからだと思います。とすれば、

   (ほかの公共投資に比べれば)
   公共事業のほうが「まし」なので公共事業は行うが、
   以前ほど「大規模に」公共事業を行う価値はない、

と考えられないでしょうか。かりにこの疑問が適切であるなら、公共事業関係の予算は徐々に縮小すべきである、と結論されることになります。大規模な投資を行ったところで、経済成長という「見返り」が小さくなっているなら、せっかく作ったインフラもほとんど活用されないままになりますし、あとに残るは負担(国債)ばかりなり、という状況になってしまうからです。



 とすれば、公共事業は行うけれども、その事業費は(小さくなった乗数効果に応じて)減額し、減額によって生みだされた予算で「国債の償還」を行うか、または「成長の余地」を拡大する戦略を実行すべきである、と考えることになると思います。

 日本経済の成長に「見切りをつける」なら、国債の償還がよいでしょう。ムダな努力はせず、後の世代の負担を小さくしておくべきだと思います。

 逆に、まだまだ「成長の余地はある」と考えるなら、新しい産業を育成する予算に充てればよいと思います。



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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
公共事業での景気対策が厳しい理由 (Unknown)
2013-12-08 01:31:57
http://anond.hatelabo.jp/20131201195501

未経験者が就ける仕事がないので人手が集まらない
増えない人数に多くの金が注がれるのでその人たちだけ給料が増えるが波及効果がない
限られた人手が公共事業にまわって民間の設備投資が抑制されるが、公共事業が民間投資よりも生産性が高いことの保証がない
土建以外の公共投資先として有望なものが必要だがそれを見つけ出す能力は誰にもない
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