田代秀敏 『中国に人民元はない』 ( p.182 )
中国企業による三角合併がありうる。時価総額の観点でみれば、中国企業が日本企業を買収することは可能である。中国企業の対外経済活動は、中国共産党中央の意向に従って、きわめて政治的に行われている、と書かれています。
私としては、日本企業が外資に買収 ( 以下、三角合併を含む ) されても、いっこうに構わないと思います。資本主義社会である以上、それは当然ではないかと思います。
しかし、それには前提があります。日本側も、外資系企業を買収することが可能である、という前提です。この前提が満たされないならば、一方的に買収されることになりますから、認められない ( 認めてはならない ) と思います。
中国については、この前提が満たされていないと思います。したがって、中国資本による日本企業買収は、阻止しなければならないと思います。
なお、中国企業が中国共産党中央の意向に従って動いている、という点についてですが、
日本人の圧倒的大多数は、「中国共産党の指示・意向に従って働く」 ことは望んでいないと思います。資本主義の趣旨にも沿わないと思います。したがって、この観点からも、中国企業による日本企業買収を阻止すべきである、とも考えられるのですが、
本当に、中国企業が中国共産党中央の意向に従って動いているのか、確証を得ることは困難であり、これを根拠として、中国企業による日本企業買収を禁止することは難しいと思います。
しかし、上記前提が満たされていないことを根拠として買収を阻止すれば、それで足ります。したがって、買収の是非を考えるにあたっては、中国共産党の意向云々は問題にする必要がないと思います。
なぜ中国企業は今、他でもないこの日本での株式公開を目指しているのだろうか。
理由の一つには、アメリカから経営ノウハウを学ぶという方針が修正を余儀なくされた、という側面が挙げられるだろう。現在のアメリカ式の会社経営は、不採算部門を容赦なく売却し、スキルを持った従業員の解雇も躊躇しないという実にドラスティックなもので、彼らの目的は 「バイ・アウト」 、つまり企業を安く買い叩いてから高く売り抜け、短期間で巨額の利益を稼ぎ出すことにある。
手法の是非はともかく、少なくとも国有、民営を問わず、中国の企業を一人前の国際競争力のある企業に育て上げるための手法でないことは明らかだ。そこで国務院は、組織内で学習、成長し果実を得るという 「組織全体の向上力」 に長けた日本企業に目を向けるようになった。NEDPプログラムの表向きの要諦もここにある、といえる。
しかし、これだけではない、もっと決定的な理由がある。
それは、〇七年五月から、日本でも外国企業による 「三角合併」 が解禁となったことである。
(中略)
しかし、合併・買収を行うことのできる外国企業は欧米だけではない。上海の株式市場は、〇六年だけで総合株価指数が二・三倍も上昇し、〇七年も平均株価は年初から今まで約三四%も上がっている。上海に上場している一部の会社の時価総額は、日本企業を買収できる規模にまで膨らんでいるのである。
では日本企業を 「三角合併」 の対象となしうる中国企業、つまり、日本の同業他社を圧倒する時価総額をもつ中国企業はどれくらいあるのだろうか。表下段に主だった企業を挙げたが、一つ一つ日本の同業他社と比較してみよう。
まずはエネルギー分野である。
中国最大のエネルギー会社である中国石油天然気 ( ペトロチャイナ ) の時価総額は、二〇〇七年七月二三日現在でおよそ三三兆九八四四億円。この金額は、日本の石油会社で時価総額が最大の国際石油開発帝石ホールディングス ( 二兆九九五二億円 ) のおよそ一一倍強となっている。
また、中国のエネルギー業界第二位の中国石油化工 ( SINOPEC ) の時価総額も一六兆七二一四億円と、こちらも帝石の六倍弱。第三位の中国海洋石油 ( CNOOC ) でも六兆五〇一〇億円と帝石の二倍強である。つまり、エネルギー業界に関しては、中国は日本の企業をどれでもすぐに買収することができるのだ。
もちろん日本は産油国でないし、サウシアラビアやイランでの石油開発権益を大部分手放してしまっている以上、中国に日本の石油会社を買収する経済的な旨みがあるとは考えにくい。しかし、中国は今、アフリカをはじめとして、世界中で石油や天然ガスを買い漁っている。しかも、日本の石油精製技術は世界最高水準にある。その技術を獲得するために、企業を丸ごと買収してしまう、というインセンティブは十分に考えられる。
(中略)
また、中国の銀行業も時価総額の面では日本に対して圧倒的な優位にある。
中国の金融の基軸であり、「四龍」 とも呼ばれる四大国有商業銀行のうち、中国工商銀行、中国建設銀行、そして中国銀行は株式会社に再編され、上海や香港で上場されている。株式の七割は実質的に国家が保有しているので、事実上の国有状態にあるといえる。
中国工業銀行は、中国の国有商業銀行の最大手であると同時に銀行最大手であり、二八兆七九八三億円という中国最大の時価総額を誇っている。これは、日本で銀行最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループ ( 一四兆一二〇一億円 ) の二倍強であり、みずほフィナンシャルグループ ( 九兆八四六三億円 ) の三倍弱、三井住友フィナンシャルグループ ( 八兆七三九〇億円 ) の三・三倍だ。
また、二番手の中国建設銀行は二〇兆八三九八億円、三番手の中国銀行の時価総額は二〇兆一五三億円。いずれの時価総額も、三菱UFJフィナンシャル・クループのそれを上回っている。これら中国の上場大手三行の時価総額合計は六九兆六五三四億円で、日本のメガバンク三行の合計である三二兆七〇五四億円のほぼ二倍。時価総額の観点だけから見れば、中国は日本のメガバンク三行をすべて買収することができてしまうのだ。
(中略)
ここで一つ、当たり前のことだが、企業買収それ自体は 「善」 でも 「悪」 でもなく、経済合理性に基づく、正当な経済活動であることを強調しておきたい。
(中略)
ところが中国企業の場合はそう簡単ではない。前記したように、中国企業の対外経済活動は、中国共産党中央の意向に沿ったものである。つまり、個々の企業が純粋に利益をもとめて純粋な経済活動をおこなっているのではなく、党中央の意向に従って、きわめて政治的に経済活動をおこなっているのだ。
中国企業による三角合併がありうる。時価総額の観点でみれば、中国企業が日本企業を買収することは可能である。中国企業の対外経済活動は、中国共産党中央の意向に従って、きわめて政治的に行われている、と書かれています。
私としては、日本企業が外資に買収 ( 以下、三角合併を含む ) されても、いっこうに構わないと思います。資本主義社会である以上、それは当然ではないかと思います。
しかし、それには前提があります。日本側も、外資系企業を買収することが可能である、という前提です。この前提が満たされないならば、一方的に買収されることになりますから、認められない ( 認めてはならない ) と思います。
中国については、この前提が満たされていないと思います。したがって、中国資本による日本企業買収は、阻止しなければならないと思います。
なお、中国企業が中国共産党中央の意向に従って動いている、という点についてですが、
日本人の圧倒的大多数は、「中国共産党の指示・意向に従って働く」 ことは望んでいないと思います。資本主義の趣旨にも沿わないと思います。したがって、この観点からも、中国企業による日本企業買収を阻止すべきである、とも考えられるのですが、
本当に、中国企業が中国共産党中央の意向に従って動いているのか、確証を得ることは困難であり、これを根拠として、中国企業による日本企業買収を禁止することは難しいと思います。
しかし、上記前提が満たされていないことを根拠として買収を阻止すれば、それで足ります。したがって、買収の是非を考えるにあたっては、中国共産党の意向云々は問題にする必要がないと思います。