MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

運動の神秘 (3) ~ 筋肉の反目

2009-02-21 00:12:01 | 音楽演奏・体の運動

02/21   運動の神秘 (3) ~ 筋肉の反目






 『運動の神秘』 シリーズには、これまでに

(1) 深奥部の筋  (2) 筋肉の協調

の二回分があります。




 よろしければ

 『楽器の顎当て』 シリーズ

(1) 邪魔な厚み  (2) 材質の差?  (3) "厚み"と身体の寸法

と併せてお読みください。







 このシリーズ (1) では、垂れ下った新聞紙に穴を開けるために
必要な、大腰筋についてお読みいただきました。

 また (2) では、ピッチャーが速い球を投げるためには、様々な
筋肉が連携、協調しなければならないことを見てきました。

 いずれも、動きが積極的な筋肉運動でしたね。





 今回は身体、主に "手指" の、静的な位置関係の話に
なります。 運動距離や力の効率性経済性という観点
からお読みいただければ幸いです。





 人体には、平均して 206 もの骨があり、また 600以上の
筋肉があるのだそうです。 そのうち、運動を司る筋肉は
約400 といわれます。

 もちろん楽器演奏の際にも、筋肉同士が協調しながら、
互いに助け合っていることになります。 そして、その末端
には "" がありますね。





 指は、楽器に直接触れる繊細な箇所でありながら、
同時に力強さが求められることもあります。

 中でも、ピアノを弾く方にとっての "4の指" (薬指)、
"5の指" (小指)、また弦楽器では "4の指" (小指) が、
弱い指としてしばしば話題になります。





 これらの弱い指には、もちろん鍛錬が必要です。

 もっとも、かのリヒテルは、「小指で角砂糖を割った」と、
友人のピアニストから聞いたことがありますが。

 しかしそれは例外で、通常は誰にとっても弱点の一つ
のはずです。

 現に、現代のハープ奏法では小指を使いません。 また、
自らの特訓で薬指を傷めた、シューマンの話も有名です。




 そして、弱い者にはまた、援軍も必要ですね。




 あるギター関係のサイトには、

 「指は演奏器官の末端部として捉えられるべきなのです。
指は素晴らしい働きをしますが、その重労働、ひいては
指の正しい機能を可能にしているのは、手首・前腕・肘・
肩にほかなりません。」

という記述も見られます。

 [mangore.com 日本語版]内の[1ページ]より。





 これを私流に勝手に解釈すると、「末端の部分には、

より大元に近い部分の助けが無くてはならない

ということにならないでしょうか。





 今ここで、一本の樹木を思い浮かべてみてください。




 小枝の先にある、一枚の葉っぱが、別の枝の先に
生えている、一枚の葉に触れようとしています。 しかし、
僅かの差でそれが叶いません。 あと数ミリなのですが。

 葉っぱは限界まで力を振り絞り、独力で相手の葉に
触れようと、身を伸ばします。 しかし、結果は悲劇に
終わります。

 葉っぱは根元から千切れ、その命を終えました。





 もし葉っぱを支える小枝が、あと数センチ動いたら
届いていたかもしれません。 でも、小枝は助けては
くれなかったのです。





 また、このような場合も考えられます。




 葉っぱを助けようと、小枝が動いてくれたとしても、

その元の大枝全体が、まったく逆の方向に動いてしまう

ことだってあるでしょう。






 『木を見て森を見ず』という言葉がありますが、
『指を見て体を見ず』のような危険が、特に
楽器演奏には無いでしょうか。

 私はしょっちゅうです。 恥ずかしながら。 指先の、
微妙で繊細な動きだけが、さも特殊技術であるかの
ような錯覚を抱きながら。




 効率的に動けるように、指先に最適な位置を与える
のは、指自身ではありません。 先ほどの引用にある
とおり、手首・前腕・肘・肩など、より大元の部分なのです。

 そしてさらに、腰、足の位置などが、からだ全体の
姿勢に、ひいては指にまで、決定的な影響を与えます。

 これはスポーツの世界だけに限った話ではありません。
Violin を、それも座って弾く場合でさえ、言えることだと
感じます。




 また、"効率的に動く" とは、運動距離や、力の量も
最小限で済むということに、ほかなりません。

 最適な位置とは、そのための場所であり、結局
"フォーム"、"形" という言葉になるのでしょう。

 その結果として、楽器自体も効率的に演奏される
ことになった場合、機能性、音質の両面とも "美しい"
結果につながることが多いものです。

 他人(ひと) はそれを称して、「うまくなった」と言います。



 これは "当然" の帰結なのでしょうが、音の成り立ち
や、演奏の深い摂理に、常に新鮮な驚異を感じます。





 「弱い指には鍛錬が必要」と、先ほど書きましたが、
これは決して「身体の他の部分の助けが要らない」
ということではありません。

 「指の位置が最適でない」かもしれないと疑わずに、
ただ鍛練を続けるだけでは、それこそ "音我苦"
(おんがく) になりかねません。 私のように、残された
日数が僅かな者にとっては、もう出来るだけ体を
苛めたくはないのです。

 また、指示に従わず、言うことを聞かない "" は、
必ずしも "犯人" とは限りません。 むしろ被害者
で、真犯人は別にいることが、往々にしてありす。



 一体どこまでを、練習時間の多さや鍛錬の厳しさに
求めるべきか、はたまた、効率性やリラックスした気分
に頼るべきなのか、その「力と協調のせめぎ合い」が、
楽器演奏も含め、身体運動の微妙な面白さではない
でしょうか。






 今回は、これまでの (1) や (2) のように、筋肉がスピードを
出して協調し合うという、建設的な話ではありません。



 むしろ、"互いが、少なくとも邪魔し合わないように"、

"出来れば助け合って" という、静的な意味での協調でした。





 次回は、楽器演奏の際などに起こりがちな、その具体例を
見てみたいと思います。




 (続く)




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   運動の神秘

   (1) 深奥部の筋
   (2) 筋肉の協調
   (3) 筋肉の反目
   (4) 指先を広げる ①
   (5) 指先を広げる ②
   (6) 指先を広げる ③
   (7) ヴァイオリンで叩く?
   (8) なぜよく打つの江川、西本
   (9) 走者も奏者も面食らう
  (10) 三塁ベースは右折禁止



   楽器の顎当て

   (1) 邪魔な厚み
   (2) 材質の差?
   (3) "厚み"と身体の寸法



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