MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

走者も奏者も面食らう

2010-08-04 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

08/04   運動の神秘 (8) ~ 走者も奏者も面食らう




 前回は野球を巡る運動が話題になり、貴方にはピッチャー
になっていただきました。

 しかも速球派投手です。 したがって、「どうしたら速い球が
投げられるようになるか?」が、主な関心事でした。



 「お前は Violin 弾きだろう。 野球と音楽は違うぞ。 客席に
楽器でも投げつけるつもりか?」

 いいえ。 "投げ出そうか" と思ったことはありますが…。




 でも、確かにそのとおりですね。 運動の質も量も、まったく
異なります。 野球と弦楽器では。



 ボールを速く、あるいは遠くへ投げる野球では、、肩、
肘、手首が「出来るだけ大きな弧を描く」ようにするために、
"トレーニング" が必要でした。

 しかし Violin などでは、両手は体から至近距離で動いて
います。 "トレーニング" という言葉も、まず使いません。




 では、Violin などでは "は使わない" のでしょうか?
(変な疑問ですね…。)

 その反対に、野球で "を動かさない投げ方" なんて、
あるのでしょうか。




 野球は、まずピッチャーが投げることによって試合が進行
していきますね。



 ルールでは、投げる前の動作が厳しく定められており、
投手は以下の二つのうちから、いずれかを選ばなければ
いけません。 (野球ファンの方は、よくご存知と思いますが。)

    一つは  ① "セット ポジション"、
  もう一つが ② "ワインドアップ ポジション" です。



 これらは "足の位置や動き" が厳格に規定されています
が、手の運動を中心に考えると、以下のようになります。



 ① "セット ポジション" : 両手を体の前で合わせ、一度完全に静止
  してから投げ始める。 主に走者が塁上にいるときに使われる。




 ② "ワインドアップ ポジション" : 足の位置や動き方が規則に
  沿っていれば、両手を静止させなくてもよい


    (腕を上に振りかぶる) ワインドアップ モーションと、
    (腕を胸の前辺りに持っていってから投げる) )ノーワインドアップ
     モーションのどちらかになる。





 要するに、体全体を大きく使うのは ②の ワインドアップ
ポジション ですから、速球派投手はこちらを好みます。

 ただし動作が大きいために時間がかかり、盗塁されやすい
ので、走者がいるときにはあまり使われません。

 反対に、走者がいなくても ①のセット ポジションを好む投手もいます。



 この他、クイック モーションなどというのもありますが、
これは「①の素早い投げ方」で、特殊なものですね。




 以上は、いずれも打者を相手に速い球を投げる場合でした。
手首や指だけでは、どうしても球速に限界があり、出来れば
体全体を大きく使いたいのです。

 もちろん、どの場合にもは重要な役割を果たしています。



 ところが、(走者に対する) 牽制球となると、事情が多少変わって
きます。

 体全体をゆっくり使って、非常に遅い "山なりの" ボールを
投げたり、また反対に、鋭い送球で走者をアウトにしたりします。




 そんな鋭い動作として、"スナップ スロー" を用いるピッチャー
を、大リーグ野球でときおり見かけます。

 これは肩や肘をほとんど使わずに、主に手首だけで投げる方法
です。 腰に至っては、まったくと言っていいほど動きません。

 体の中心である腰を動かしてくれないので、走者としては予測
がつかず、不意を突かれやすいのです。 そのために、離塁した
瞬間に刺されてしまうことも珍しくありません。



 打者も走者も、「いつボールが来るか」を予測できなければ
準備が出来ません。 逆にピッチャーは、「予測を難しくする」
ために、タイミングをずらしたり、動作の流れがわざと不自然に
見えるように、色々工夫をこらします。



 ただし、ピッチャーの側にもリスクが伴います。 「運動が自然
でない」ということは、自分にとっても多少は不自然な運動です。
もちろん手首は強靭でなければなりません。

 ですから、投げそこなったり、さらに体の故障につながったり
する危険もあります。




 余談ですが、この "不自然な運動" と言うと私の頭に浮かぶ
のは、演奏者にとって "見にくい指揮者" です。 特に「準備の
時間を与えてくれず、突発的に拍の頭を示せば、それで音は
出る」と考えているような、扱いにくい指揮者…。

 まるで、「ヨーイ、ドン!」の「"ドン" だけでスタートしろ」と
言われているようなものですから。 相手は生身の人間です。
ゲーム機でも、コンピュータでも、キー ボードでもありません。
「あんた、ここ座って、代わりに弾いてごらんよ!」と言いたく
なります。



 こちらは走者を、違いました、奏者を欺く必要は無く、逆に
「伝えなければ」なりません。 ですから、はたから見ても
自然な運動とはどういうものであるか」、「準備としての
呼吸
には、如何に豊富な種類があるのか」に、絶えず
驚嘆しつつ、研鑽に励んでほしいものです。




 ところで Violin は上半身で弾く楽器ですから、「腰を使う
のかどうか?」などと話題にすると、笑われてしまうかも
しれませんね。 ステージ上で派手な弾きっぷりをして、
歩き回るなら別ですが。

 でもこの "腰" という字には、"要" がちゃんと含まれて
います。 動かさなくても腰に重要な役割があるとすれば、
それは何でしょうか?



 また、「腰をまったく動かさない」と書いたスナップ スロー
でも、「腰をまったく使っていない」わけではありません。

 たとえ "動かなくても" です。 こちらもやはり!




 なんだか禅問答みたいですね…。




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