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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

宵待草のやるせなさ#16・・・「竹久夢二 殺人の記」西村京太郎(講談社NOVELS)を読む

2010-02-09 | 美術&工芸とその周辺
西村京太郎の小説を初めて読みました。テレビの二時間ドラマでタイトルだけですが、新聞のテレビ欄で見かける(と思う)十津川という名前の刑事が主人公の、竹久夢二の作品を話のネタにしたミステリー小説です。小説では夢二がモデルにした、たまき、彦乃、たまき、の3人以外に第4の女性がいて、その未公開のスケッチがあったという設定になっています。しかしそのスケッチは、熱烈な夢二信奉者による贋作であるという…、夢二の故郷である岡山を舞台としたもの。ここでは小説についての感想は書きません。小説の中で夢二について言及されていた部分を抜粋しました。それはおそらく作者・西村京太郎の竹久夢二感であるのでしょうから。※以下、“”部分は「竹久夢二 殺人の記」西村京太郎(講談社NOVELS)より引用

“現代は、男も女も、気を張って、生きていかなければならない。バブルが弾けて、不景気になってからは、猶更である。いや、考えてみれば、景気が良ければ良いで、また、気張って仕事をしなければ、落伍者になってしまうのだ。だが、本来、人間というのは、夢二の絵の中の女のように、安らかに、だらしなく、生きていたいものなのではないのか。猫でも抱いて、何かに身を委せて、うつらうつらしている。そんな姿は、女にとっても、男にとっても、至福の時ではないのか。女たちが、男に身を委せているという感じはないのが、不思議だった。何か、別のものに身を委せている。だから、彼女たちの表情は、頼りなげなのに、安定しているのではないのか。それは運命みたいなものかも知れない。運命に逆らったり、戦ったりすると、苦しんだり、悲しんだりすることになるが、それに身をゆだねて、委せてしまえば、安らかであるに違いない。それは、強さにもなる。だから夢二の絵に、憧れるのではないか。”

“渡辺与平は、夢二を勉強すればかならず、ぶつかる名前ですよ。夢二の友人で、彼より年下なのに、画家として、有名になった。普通の人間なら、そうしたライバルの絵なんか 、絶対に、マネするものかと思ってしまう。しかし、夢二は、ライバルの良さを認めて、平気で、マネしたんです。私は、素晴らしいと思いますよ。今になれば、渡辺与平の名前を知らない人は多いが、夢二を知らない人はいませんからね。ローランサンだって同じです。夢二は、よく黒猫を抱く女を描いていますが、あれは、明らかに、ローランサンの黒猫を抱く女のマネですよ。しかし、それを、どんどん進化させていって、『黒船屋』という有名な作品にまでしてしまった。素晴らしいじゃありませんか。”

“ 絵筆下りてゴルキーの手をとらんには
  あまり細き腕とわびぬ
  ……
「そうなんですよ。深い悲しみか。いい言葉ですね。夢二は、芸術家だから、社会の矛盾や、不平等を敏感に感じながらも、社会主義に、のめり込めなかったんですよ。社会主義運動にも、教条主義の嫌な面を、見ていたんじゃないかと思っているんです。だから、夢二のことを、社会主義を捨てて、金の儲かる耽美的な絵を描くことに走った、というのは、間違っていると思いますね。」……「当時、日本は、富国強兵が、国是ですよ。夢二が、それに同調したのなら、転向といわれても、仕方がないが、夢二は、仰合するような絵は、一枚も描いていないんです。貴婦人の絵も、兵隊の絵も描いていない」 ”

※丁度2年前の2009年2月に書いた竹久夢二関連の記事です、
宵待草のやるせなさ#1・・・「竹久夢二」展
宵待草のやるせなさ#2・・・竹久夢二の墓
宵待草のやるせなさ#3・・・竹久夢二関連書籍を読む
宵待草のやるせなさ#4・・・夢二美術館(東京)
宵待草のやるせなさ#5・・・『竹久夢二物語 恋する』(1975年)
宵待草のやるせなさ#6・・・『およう』(2002年)
宵待草のやるせなさ#7・・・竹久夢二と大正浪漫の世界‐セノオ楽譜装画が語る‐
宵待草のやるせなさ#8・・・『夢二』(1991年)
宵待草のやるせなさ#9・・・『三面夢姿繪』(2000年) &『夢二人形」(1998年)
宵待草のやるせなさ#10・・・日曜美術館「独逸、夢のかなたへ~知られざる竹久夢二~」
宵待草のやるせなさ#11・・・童話集「春」/竹久夢二(小学館文庫)
宵待草のやるせなさ#12・・・「竹久夢二 恋の言葉」(河出書房新社)
宵待草のやるせなさ#13・・・「へのへの夢二」久世光彦(筑摩書房)
宵待草のやるせなさ#14・・・寺山修司「さかさま文学史 黒髪篇/竹久夢二」

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