Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

LA RONDINE (Wed, Dec 31, 2008) 序編

2008-12-31 | メトロポリタン・オペラ
この作品、すっごくいい!!
音楽の良さもさることながら、幕が降りるとき、私の知っている多くの女性たちを思って、
なんともいえない余韻が残る公演でした。

プッチーニのキャリアの後期に書かれたこの『つばめ』は1917年世界初演。
(この後に彼が書いたオペラ作品は、1918年初演の『三部作』と作曲途中に亡くなった
1926年初演の『トゥーランドット』しかありません。)
なぜか、彼の他の代表作に比べると人気の面で遅れをとっていて、上演頻度が極端に少なく、
メトでは1936年を最後に上演されたことがないので、なんと72年ぶりの復活です。

普段からこのブログでゲオルギュー&アラーニャ夫妻が苦手であることを何度も何度も吠え続けているので、
読んでくださっている方も、耳タコだと思うのですが、
『つばめ』が現在のオペラハウスのレパートリーで細々とでもがんばっているのは、
彼らが原動力であることを思うと、これから先は、吠え声にも一抹の罪悪感が混じるというものです。

我が家に転がっていた全幕盤CDは、彼らがパッパーノ指揮のロンドン響をバックに
1996年に録音したものをリアルタイムで購入したものですが、
上にのべた理由で、実演に接する機会がまったくなかったので、一、二度、
リブレットもろくに目を通さず、音と歌を聴いただけで、10年以上放置。
今年のメトのレパートリーに入ったことで、この度、本当にひさびさに取り出して聴きました。

そして、一聴した感想。なにこれ?
ドラマティックな題材を得意とするプッチーニにしてはあまりに状況設定が普通で、
劇的なことはほとんど何もおこらないので、拍子抜け。
彼の他の作品のように、いい人、悪い人、の線わけがはっきりしていなくて、
観る側にとって、ある意味いかようにもとれる話である点も、
一瞬、この作品をどういう気持ちで聞き終えればいいのか、聴き手を不安にさせる要素になっています。

しかし、それに加えて私を大混乱に陥れたのは、CDにくっついてきた日本語訳。
鈴木○子さんという方の対訳なんですが、鈴木さん、正直言って、
私にはあなたの訳されていることが意味不明です。
表現が硬い、訳語調である、そのくらいの欠点は全然目をつむりますが、
日本語だけ読んでいたら、まったく意味が通じない個所や、わけのわからない個所が多数。
外人が書いた日本語みたいです。
堂々とした誤訳もあって、もし私がこの日本語だけ読んでいたとしたら、
とんでもない意味の取り違えをさせられるところでした。
EMIも、こんなのちゃんと発売前に読んで差し押さえろよ、です。
今、このCDの日本盤は絶版になっているようで、安心しました。

公演でもらったプレイビルに、『つばめ』に関した記事があり、
そこで、なぜこの作品がこうもマイナーなのか?という質問に主演の二人と
指揮者のマルコ(・アルミリアート)はこう答えています。

ゲオルギュー:”私の意見では、いつだって、この作品はプッチーニの最も重要な作品の一つ、というものでした。
どうしてこんなにレアものになってしまったのか、理由はわかりません。
少なくとも私にとってはそういう存在ではないので。
はじめてスタジオで録音したのもこのオペラでした。プッチーニの作品の中で、
最も現代的なものといえると思います。”

アルミリアート:”これからメジャーになるのを待っている宝石のような作品です。
おそらく、この作品のユニークさこそが、一般に受け入れられるための障害になっているのかもしれませんね。
プッチーニ作品なのに、超悲劇的な結末もなければ、誰かが死ぬわけでもない。
これのどこがプッチーニ作品なんだ?!ってね。
だけど、スコアは現代的なアイディアに溢れています。
五音階、自由に用いられる不協和音、突然の音色の変化、、
それでいて、新鮮で軽やかで、耳に全く優しい。
私にとっては、こういったことがプッチーニが天才であった証であるように思います。”

アラーニャ:”情感豊かだし、音楽的なカラーも多岐に富んでいる。
すごくドラマティックな瞬間もあるよね。
じゃ、なぜレパートリーに戻ってくるのにこんなに長くかかったかって?
こっちが聞きたいよ!僕にはさっぱりさ。”

ゲオルギューの”最も現代的な作品である”という指摘、全くその通りだと思いますし、
アルミリアートの意見にも激しく同意。
アラーニャのこの子供のような意見はあんまり役に立たないから省略してもよかったな。

この記事は、私が公演を見て感じたことと極めてシンクロしているので、
全訳してブログにのせて、その分、今回、自分の感想はそれこそ省略しちゃおうかな?という怠け心が一瞬頭をもたげましたが、
そんな手抜きはオペラヘッド魂が許しません!
ということで、かいつまんで興味深い部分、共鳴できる部分を以下に抜粋します。
( )内は、私の注釈です。

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アルミリアートが指摘していることと重なりますが、この作品は、
プッチーニが、それまでのスタイルから離れ、はじめて良く知られた小説や劇作品をベースにしない、
オリジナルの物語を使用した作品となりました。

主役のマグダには、ヴィオレッタ(『椿姫』)、ミミとムゼッタ(ともに『ラ・ボエーム』)らとの
類似点を見る人もいるかもしれませんが、ここでも、ゲオルギューが言うとおり、
”でも、行動の仕方は全然違うし、進んでいく状況も違っています。
それぞれの役には、それぞれ違った種類の試練が待っているのです。”

この作品には、単純にいい人、悪い人、といった色づけはないし、
誰かが死ぬわけでもなければ、誰かを自分の運命に道連れにする、といったようなこともおこりません。
代わりにあるのはメインの登場人物たちが、自分に正直な生き方を模索する、という、その姿です。
簡単にカテゴリー分けできる作品となるかわりに、『つばめ』は、
非常に多面的な物語となり、その魅力の大部分は、この作品がもつニュアンスというか、微妙さ、にあります。

この音楽、ドラマ両面で伝統的な部分と現代的な部分をブレンドしたことが、
聴衆を困惑させた一因になっています。
さらに、もともとは、ウィーンの劇場のオペレッタ作品として計画されたといういきさつのせいで、
堅物な音楽ファンに軽く見られがちになってしまった、という不幸も重なっています。
またイタリアとオーストリアが戦争に入るという政治的な障害もありました。

かのイタリアの有名指揮者トスカニーニは、ウィーンとの契約をきちんと履行しようとした
プッチーニの姿勢を、”国を裏切る行為”と糾弾したといいます。

終戦後も、作品について不安を感じたプッチーニが手直ししてウィーンで公演されましたが、
(世界初演は、複雑なオーストリアとの政治状況を避け、モンテカルロで一歩先に行われました。)
その手直しが裏目に出、期待されているほどの結果は出せませんでした。
(さらに手直しを入れた第三稿も存在しますが、
今回のメトの公演を含め、現在の上演には、モンテカルロでの初演版が使用されています。)

結局、同じくらいの規模のキャストでできる『ラ・ボエーム』のような作品をかければ
満員御礼になるのだから、あえて『つばめ』で賭けに出ることもない、という劇場側の考えもあり、
だんだん『つばめ』はマイナーな作品になっていったようです。

しかし、プッチーニは生涯、この作品に自信を持っていて、
”いつか、どれほどすばらしい作品か、人々が気付くときが来るだろう”と言ったといいます。
(確か、『蝶々夫人』が失敗に終わったときも、似たような言葉を吐いたはずのプッチーニ、、。
しかし、いずれの場合も彼は正しかった!)

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この記事の妥当さは、例えば、いつぞやの『ラ・ボエーム』の公演でお話させていただいた
老練オペラヘッドのおじさまの言葉にも集約されているとおもいます。

”あのマグダのやな女キャラが、ゲオルギューにぴったりなんじゃ。”

確かに、見る人にとっては、マグダの行動は、
ルッジェロに対する仕打ちにしても、ことごとく自分勝手な部分を強く感じて、
”やな女””意地悪な女”ということになるのかもしれませんが、
私には、このマグダという人、そんなに嫌な人には思えないし、
自分勝手さも、自分に素直でありたい、という自然な気持ちゆえ、とむしろシンパシーを感じます。
(ということは、まさに私の中にも、そんな自分勝手さがあるということ、、。
だから、この作品を観ると、身につまされるのです。
だけど、マグダのような女性は、実は、今、多いんじゃないかな、と思います。
このことは本編でまた詳しく。)
むしろ、自分に素直であるゆえに、彼女の場合、本当の幸せな恋は決して一生手に入らない、という
事実を彼女が受け止め、歩き続ける姿に、なんともいえないほろ苦さと余韻を感じました。
自分で素直にあることは、それにくっついてくる悲しみや苦難も受け止めるということ、、、。
何度か聴いているうちにするめのように味が出てくる不思議な作品です。

この作品の良さが出たのは、しかし、そのオペラヘッドのおじさんが言っていたように、
ゲオルギューの力があってこそ、かも知れません。
彼女のためにある役と言い切ってもいいくらい、生き生きした舞台で、この作品の良さが十全に引き出され、
アラーニャも彼女のことを本当によくサポートしていたと思います。
そして、アルミリアートとオケが大試練に挑む、、!

詳しくは本編(前編)に続きます。


Angela Gheorghiu (Magda)
Roberto Alagna (Ruggero)
Lisette Oropesa (Lisette)
Marius Brenciu (Prunier)
Samuel Ramey (Rambaldo)
Monica Yunus (Yvette)
Alyson Cambridge (Bianca)
Elizabeth DeShong (Suzy)
Tony Stevenson (Gobin)
David Won (Perichaud)
David Crawford (Crebillon)
Conductor: Marco Armiliato
Production: Nicolas Joel
Set design: Ezio Frigerio
Costume design: Franca Squarciapino
Lighting design: Duane Schuler
Grand Tier Side Box Odd Front
ON

*** プッチーニ つばめ Puccini La Rondine ***

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5 コメント

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ゲオルギュー (チャッピー)
2009-01-02 20:55:54
EMIに多くを求めちゃいけません。
ビートルズの対訳も誤訳だらけでしたよ。

それにしてもゲオルギュー、本来アンチのMadokakipにここまで褒められるなんて凄い。
私も彼女の「椿姫」見たら好きになってしまいそうで怖い。
ゲオルギューの出待ちやる人、いないかな?「案外感じの良い人だった」なんてレポだったら笑える。
返信する
は~い (DHファン)
2009-01-03 09:49:34
実はゲオルギューの日本でのコンサートの後、サイン会に出ました。
すっごくご機嫌でフレンドリーでしたよ。ニコニコしながら手振ってました。
といってもCD買った人へのサイン会だから、いわば公式行事ですね。純然たるデマチとはいえないかも。
わたくし、何しろオペラ歌手としては驚くほどの美貌(とスタイル)にすっかり魅了されて、世の中には確かに二物、三物も与えられている人がいるんだ!と憧れていたんです。
でも買ったCDを車の中で聞いて、ん?私それほどこの人好きじゃないかも・・と思うようになっていました。ちょっとビブラートがきつすぎて・・・
でもHD上映の中で、このつばめをとっても楽しみにしてるんですよ。どこかでこのオペラの筋を読んで、なかなかおしゃれだなぁ、絶対美人に歌ってもらわないとおもしろくないと思ってましたから。ゲオルギューにぴったりじゃないですか!Madokakipさんのレポ読んで、ますます楽しみになりました。
日本での上映は1月末です。その前にタイス、ロイヤルオペラのカルメンもありますが。
新国立での蝶々夫人、こうもりの生舞台もありますし。
私のこの貧弱なキャパで消化しきれるのか不安だわ。
返信する
クラシックのみならずロックまで、、/ゲオルギューとの遭遇 (Madokakip)
2009-01-03 14:52:13
頂いた順です。

 チャッピーさん、

>ビートルズの対訳も誤訳だらけでしたよ

本当に(笑)??ありえん!!!

それにしても、オペラの場合、ちゃんと物語があるわけじゃないですか?
出来上がったものを読んで、意味が通らなかったら、
自分でもうちょっと調べてみよう!とか、思わないんでしょうかね?
そこがよくわからないです。

日本盤の全幕CDというのは、このリブレットの邦訳がために値段が高くなっている、
と自分に言い聞かせてきましたが、
こんな訳のために、余計にお金を払ったかと思うと、
むらむらと腹がたってきました。
10年前に気付いていれば、EMIに怒りの電話をかけていたと思います。
しかし、絶版では、今や、時すでに遅し。
もしや、このメトのライブ・イン・HDで人気が再燃して、
同盤を再発することになっても、EMIは同じ訳をつけて堂々と発売しそうな気もしますね。
恥知らず!

>本来アンチのMadokakipにここまで褒められるなんて

いやー、ほんとですよ。
私もびっくりです(笑)。

私の場合、彼女に関してはヴィオレッタよりも、
このマグダの方が断然好きですね。
(ヴィオレッタも合ってはいますが)
歌、演技、たたずまい、ちょっとした仕草すべてが、
いつもわざとらしいなあ、もう!この人は!と思わされることが多いゲオルギューにあって、
あまりに自然で、チャーミングで、
実は彼女はマグダみたいな人なのかな、と思えたほどでした。
この作品での彼女は本当に素敵です。
ライブ・イン・HDの収録がある1/10はとにかく落ち着いて歌ってくれることを祈りましょう!!

 DHファンさん、

なんと、すでにゲオルギューと遭遇済みでいらっしゃったのですね!!!

確かに去年のライブ・イン・HD『ラ・ボエーム』の舞台裏の様子からも、
フレンドリーではあるのかも知れないとは思います。
でも、どこかちょっと異様にハイパーなところがあってそこがちょっと苦手だったんですが、
今回のこの公演を見て、
実は人一倍神経質な人で、ついそれを隠そうと、
ハイパーな振る舞いになってしまうのかな、という気もしました。

チャッピーさんへのコメントにも書き、
また後編でも詳しく書こうと思いますが、
しかし、この公演は、舞台もそうですが、
公演後の振る舞いもふくめて、
私にとって、初めて、わざとらしくない、
素っぽい彼女が見れた公演でした。
一幕目でパニックになった、あれがきっかけかな、と思います。
観客からの盛大な拍手に嬉しそうにしながら、
その間にも、一生懸命支えたマルコやオケへの感謝が感じられました。
こんなに謙虚な彼女の姿、私は初めて見ました!

もともとは美人で歌も上手い人なので、
この日の彼女は公演中も公演後もかなりチャーミングでした。
本当にこの役にこれほどぴったりと合う人は他に考えられないほどです。

>私のこの貧弱なキャパで消化しきれるのか

予定がたくさん入っていらっしゃいますね。
寒い時期でもありますので、どうぞ、体調だけはお崩しになりませんよう。
鑑賞は体力勝負!です!
新国立の蝶々さん、DHファンさんのご感想を楽しみにしているんです
返信する
ライブ・ビューイング (チャッピー)
2009-01-03 15:15:58
大晦日行きました。満席でした。大晦日なのに。
大スクリーンにクローズアップされるので、容姿の優れた歌手でないと辛い企画ですね。ゲオルギュー見るにはむしろこちらの方が良いかも。予定してなかったんだけど、「つばめ」見に行こうかな。
返信する
大推奨作品です! (Madokakip)
2009-01-04 14:02:33
 チャッピーさん、

ライブ・ビューイング用の公演は来る土曜の1/10で、
私はその日、映画館で鑑賞予定にしていますので、
また詳しくご報告したいと思っていますが、
作品がとても良くって、あまり頻繁に上演されない演目であることを考えると、
それだけでも、大おすすめしたいくらいです。

ゲオルギューはおっしゃるとおり、大画面でも映える人なので、
多分がっかりされることはないと思われます。
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