Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: MADAMA BUTTERFLY (Tues, Nov 11, 2008)

2008-11-11 | メト on Sirius
NYのマフィアなんかに絡んでいる人が、忽然と姿を消したりすると、
”ああ、イースト・リバーに沈められたに違いない、、”などと我々は思ったりするわけですが、
(日本には、”東京湾に沈められる”バージョンもありますが。)
メト版のイースト・リバー現象といえば、もともとある公演に通しでキャスティングされていた人が、
最初の数回であまりにひどい歌唱を聴かせた後、忽然と、”体調不良”を原因に
残りの公演から姿を消して(抹消されて?)しまうことを言います。
昨シーズンの『アイーダ』ラダメス役のマルコ・ベルティなんかはその例で、
そのこっそりと、しかし確実、迅速に、期待はずれの歌唱を聞かせた歌手たちを
イースト・リバー送りにするゲルプ氏の手腕には、マフィアもびっくりです。

そして、どうやら、今シーズンの蝶々さんのAキャストを全て歌う予定だった
ロベルト・アロニカも、たった数公演で、イースト・リバー送りが確定してしまったようです。
しかし、今日の代役は、先週の11/4の公演に代役を務めたメロではなく、
なんと、昨日、『ファウストの劫罰』を歌ったばかりのマルチェッロ・ジョルダーニ。
メロの歌を褒めているオペラヘッドも、ギルドのフォーラムにはいましたが、
私が彼の歌についてどう思ったかは、その11/4のレポートにあるとおりです。
最近のジョルダーニをそれほど買っていない私ですが、それでも、
アロニカやメロのピンカートンに比べたら、それはもう安定感の面では全然比にならないはずで、
このピンカートン役では、ジョルダーニの最近の歌唱のまずい点もそれほど目立たないので、
この交代は歓迎すべき交代です。

”ジョルダーニ&ラセット?これは素敵!”と思っていたら、
なんと脳天をかち割られるかと思うようなお知らせが!!!
ピンカートンだけではなく、蝶々さんも代役が入るというのです、、
ダブル交代、、、。
私が今日のチケットを持ってなくってよかったですね。
テノールの交代はともかく、私がオペラハウスに行って、
ラセットが歌わない公演にあたってしまった日には、暴れますよ、まじで。
そのラセットの代わりを歌うソプラノは、マリア・ガブリローワという、
昨シーズンの『蝶々夫人』でメト・デビューを果たしたソプラノ(写真が彼女)です。

よく考えてみれば、昨シーズンも、全公演ラセットが蝶々さんを歌うはずが、
一度か二度、別のソプラノに変わった記憶があり(その代役がこのガブリローワだったはずです。)、
本数の多い公演なので、もともと、一本か二本は、アンダースタディ/カバーの歌手に、
歌ってもらう手筈になっているのではないか?という疑念が湧きます。
そして、Madokakip、大ピンチです。
なぜなら、今週の土曜日に、もう一度実演で『蝶々夫人』を見ることになっているのですから、、。
今年はあまりに鑑賞スケジュールが詰まっているので(こんなにブログばかり書いていて、
皆様には暇なんじゃないかと思われているかもしれませんが、一応、会社員の身ですので。)、
すごく好きな『椿姫』ですら、たった一本しか観に行けず、
そんな私が、同じ演目を、同じキャストで複数回観る手配をしたということ自体、
もう、それだけで破格の事態なのです。
それもこれももちろんラセットの蝶々さんを観たいがため。
それが、わけのわからないソプラノに振り替えられた日には、、、。嗚呼。

そして、そのソプラノが、”おや?”と思わせるような歌を聴かせてくれるなら、
まだ、それもまたよし、としましょうが、今日、この放送を聴いて、かなりがっかりしました。

今日の公演を観た友人によると、かなり大柄な(多分、横に)女性だそうですが、
確かに、声を聴くと、かなりたくましい感じがし、ある意味では、
蝶々さん(特に二幕ゆえに)を歌えるソプラノとしてあがってくる声質の典型ともいえます。
ラセットが蝶々さん歌いとして特別な位置にある一つの理由は、
彼女の声がこのようないわゆるある一つの蝶々さんの典型とされる、
やや太めのしっかりした声とはちがって、もっと伸びやかさとしなやかさを感じさせる点です。
正直、ラセットのあのしなやかな声の蝶々さんの洗礼を受けてしまうと、
このガブリローワのような重たいどすこい系の蝶々さんは、
相当表現力に長けていない限り、退屈に感じてしまいます。
なぜなら、このように重たいだけで、すでに15歳の少女を演じるという意味では
大きな障害を抱えているわけですから、、。

そして、その歌唱がいけてないのだから、厳しい。
いきなり本番の舞台で歌うのが難しいのはわかります。
ラセットですら、一度目の公演では、指揮のサマーズとの調整が
必要であるように感じた個所もあったくらいなのですから。
しかし、それにしても、指揮から大きくテンポがはずれる、スズキとの花の二重唱では、
ソプラノのパートが頭に入っていないのでは?と疑わせるほどに
(だからといって、メゾのパートでもないのはもちろんのこと、、)音程が狂っている、と、
こんな状況では、ラセットが歌うときのように、
蝶々さんという女性をどのように表現した公演だったかを語るようなことは、とてもおぼつきません。

ラセットがいなくなると、次に繰り上がってくるのがこのくらいの歌唱なのか、と思うと、
あらためて彼女の特別さが身にしみます。
ただ、強調しておくと、ガブリローワの歌には特別なものは何もないのですが、
だからといって、全体的に聴くも耐えないほどひどい歌かというと、それほどではなく、
あくまで、かなり下に寄ってはいますが、平均的な歌唱だとは思うのですが、ラセットと比べると、
とんでもなく、面白みにも心を揺さぶる力にも欠けた退屈な歌唱に思えてしまいます。

ジョルダーニのピンカートンは、あいかわらず声の芯が揺れる問題を抱えていますが、
全体としては実に堅実。これでいいんです!
今までの嵐のようなピンカートンをめぐる問題はなんだったのか?と拍子抜けするほど。

週前半にして、土曜日のことが心配で眠れなくなりそうです。
願わくは、今日のこの放送でのガブリローワの歌唱をゲルプ氏が聴いて、
ラセットを残りの公演に戻す重要性を痛感していただいているといいのですが、、。
今年もう一度ラセットの蝶々さんをメトで聴かなければ、私は平穏に一年を終えることができません。

Maria Gavrilova replacing Patricia Racette (Cio-Cio-San)
Marcello Giordani replacing Roberto Aronica (Pinkerton)
Dwayne Croft (Sharpless)
Maria Zifchak (Suzuki)
Greg Fedderly (Goro)
Conductor: Patrick Summers
Production: Anthony Minghella
Direction & Choreography: Carolyn Choa
Set Design: Michael Levine
Costume Design: Han Feng
Lighting Design: Peter Mumford
Puppetry: Blind Summit Theatre, Mark Down and Nick Barnes
ON

*** プッチーニ 蝶々夫人 Puccini Madama Butterfly ***

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6 コメント

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うへー (チャッピー)
2008-11-12 20:59:00
そりゃ心配だ。私が見に行く日(19日)が代役だったら嫌だなあ。
土曜の公演はチケット代が高いし、満席だろうから多分ラセットが歌うと思うけど、火-水曜の公演なんて一番手抜きしそうだ。

で、ピンカートンは今後もジョルダーニが出てくるのですか?
あー、でも18日にファウストがあるから、連日の登板は無いかな@19日。
返信する
ホントだ! (Madokakip)
2008-11-13 06:18:03
 チャッピーさん、

ほんと、蝶々さん交代!なんてことになったら、
このブログでプッシュしたのを信用して見に来てくださるチャッピーさんに、
合わせる顔がないですよ、私も!!
これは15日(土)と19日(水)は、なんとしてもラセットに歌ってもらわなくては!!

で、気休めではなく、私なりに状況を分析してみました。
シリウスでは、ラセットのランが終わってしまうまでに、
予定されている『蝶々夫人』の放送は、あと、たったの1回きりです。
この残り1回の放送は、ラセットできっと通すはずだ!と私は予想しているのですが、
(だって、このガブリローワみたいな歌唱をもう一度、
だまってオペラヘッドがラジオの前で聴くとはちょっと思えません、、。)
喜んでください!このシリウスの放送の予定日が19日なんですよ!!!
だから、チャッピーさんの方がラセットを見れる可能性は高いと思いますよ!
私の土曜日は非常にやばいことになってます、、。
ラッキーにも、残りの公演はチケットがまだ残っているようなので、
土曜が駄目なら、残りの二公演のどちらかに私も賭けます!!!
(=三枚目のチケット購入です!もう意地です!!)

キャストについては、メトのサイトでも、アロニカの名前がそのまま残りの公演全部について表示されている体たらくですので、
ジョルダーニがこの日一日だけか、微妙なところです。
アロニカが戻ってくる可能性もゼロではないのですが、
私の予感では、彼はもうイースト・リバーに沈められたと思います。

ジョルダーニは、この記事の日も前日のファウストに続いて連ちゃんで歌っているので、
18日、19日の続投もなくはないと思います。
他にピンカートンをきちんとこなせる人がいれば、
登用したいのはメトもやまやまでしょうが、
うーん、同時期、もしくは近いうちに公演が始まる演目のなかで、
ピンカートンを歌いそうな人があまり見当たらないですね、、。
ジョルダーニが残り全部歌う可能性も私は捨てきれないと思います。
返信する
つーことは (チャッピー)
2008-11-13 21:46:32
確実に一軍キャストで見たいなら、
METビューイングやSiriusの日に行け、ってことですね。
ジョルダーニ、連投の可能性ありか。五輪ソフトの上野投手みたいだ。ゲルプも人使い荒いねえ。
18&19日のConfirming Your Upcoming Visitメールが来ました。どうやらちゃんと交換されてる模様。

こちらで渡航認証も完了。
http://www.jata-net.or.jp/08esta_info.htm
寒そうだ、ニューヨーク。
これまた寒い東京から直行ではなく、暖かいLAに2日滞在した後に行くので寒さが身にしみそう。LAでは共和党支持者の雨友と一緒にロナルド・レーガン・ライブラリーに行く予定です。
返信する
あくまで一般論ですが、、 (Madokakip)
2008-11-14 06:20:18
 チャッピーさん、

>確実に一軍キャストで見たいなら、
METビューイングやSiriusの日に行け

もちろん絶対ではなく、一般論としてですが、
(実際、この記事の公演はシリウス・デーにもかかわらず、交代されてしまいましたから、、)
まずはそう言っていいと思います。
特にビューイングはそうですね。
なので、私は出来るだけ、ビューイングのある演目については、
それを実演で見れるように、年間のスケジュールを立てています。
シリウスはビューイングほどではないですが、
やはり、それなりにエクスポージャーがありますので、これもねらい目の日だと思います。
特にランの前半では、その演目のその後のランの印象を決め、動員率を左右することもあって、
出来るだけその時点でわかっている範囲内で強力なキャストをそろえようとするはずです。
(特に初日。)

ただ、この『蝶々夫人』のように、歌手への信頼度が高かったのに
イースト・リバー行きになってしまったという場合は、
代わりの人を連れてくるのに、若干時間がかかる場合もあります。

ゲルプ氏の人遣いの荒さ(特に名のしれた歌手の過登用)は、
NYのオペラファンにも心配の声を上げている人が多いです。

LAからいらっしゃるとのこと、気温差にどうぞご注意くださいね。
レーガン・ライブラリー、、何だかすごそうですね。
レーガンに関する書籍の図書館、、?!
返信する
レーガン・ライブラリー (チャッピー)
2008-11-14 21:10:38
>レーガンに関する書籍の図書館、、?!
ボストンにはJFKライブラリーなるものも存在します。図書館というより博物館です。そこで働いている人は皆ケネディ信者みたいで、来館者に対し滅茶苦茶親切でした。
恐らく殆んどの大統領は「○×ライブラリー」を出身地に作ってるのでは?CAにはリチャード・ニクソン・ライブラリーもあります(嫌いだから行かないけど)。

レーガンの出身地はイリノイですが、ライブラリーはCAではオレンジ・カウンティと並ぶ強固な共和党地盤のシーミ・ヴァレーに作られてます。覚えてますか、この地名?
黒人をボコボコにした白人警官に無罪評決を与えた裁判所のあった場所です。この評決がきっかけでロス暴動が起きました。
返信する
ちょっと怖いです、、 (Madokakip)
2008-11-15 08:22:55
 チャッピーさん、

>働いている人は皆ケネディ信者みたいで

それ、なんだか、ちょっと怖いです、、(笑)。

>恐らく殆んどの大統領は「○×ライブラリー」を出身地に作ってるのでは

そうかもしれないですね。やはりアメリカで大統領になることは、
本人のみならず、地元の誇りでしょう。
(おそらく地元ですら誇れないである大統領が現存する事実はひとまず横に置いておいて、、)

ロス暴動、、あれは約15年前(1992年)のことなんですね、、。
シミ・ヴァレーでも問題になった裁判と人種の関係の問題といえば、
O.Jシンプソンの事件も記憶に鮮明に残っています。
あの事件の判事は日系アメリカ人の方でしたね。
人種の問題もさることながら、アメリカの(程度の差こそあれ日本でも見られることかも知れませんが)アスリート崇拝主義には本当に嫌気がさしたものです。

あれから15年。
大統領選の結果から、アメリカも何かが変わったのではないか、と期待されていますが、どうでしょう?
本当に変わっているといいのですが。
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