Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

ウォッチするもなにも、、、

2008-11-10 | お知らせ・その他
『ドクター・アトミック』だの『ファウストの劫罰』だの、とメト関連で盛り上がっているうちに、
大変なニュースが発表されていました。

今年の5月に、”身震い!ムッシュー・Mの来襲”という記事で、ニューヨーク・シティ・オペラ(NYCO)の
2009年シーズンからの新支配人として、ジェラール・モルティエ氏が決定した、とお伝えし、
モルティエ氏の経営手腕について、しっかりとウォッチしたいと思います、と書いたばかりですが、
なんと、あれからたったの6ヶ月、まだその2009年シーズンすら始まらないうちに、
その決定が白紙に戻され、”モルティエNYCO新支配人”はもはや実現することはないようです。
その記事に彼が採用する演出の路線についてくそみそに書いた私ですが、
当然のことながら、当ブログは一切この決定に関係ないことは言うまでもありません。

NYタイムズの記事によると、
最大かつ直接の原因は、資金繰りだったようです。
モルティエ氏はもともと最低でも6千万ドルレベルの予算を要求していたようですが、
NYCOの例年の予算は約4千2百万ドルほど。そして、現在の厳しい経済状況により、
ボード(運営委員会)はその数字をさらに3千6百万ドルにまで引き下げ修整するを得なかったようです。
フランス政府が今年、モルティエ氏が現在支配人を努めるパリ・オペラ座に割り当てた助成金はなんと、
1億6千万ドルにものぼるそうで、この記事を書いたトマシーニ氏が書いているように、
”お金をもらってからが仕事”というヨーロッパでの劇場での支配人のあり方と、
”お金をかき集めるところからが仕事”というアメリカでの劇場のあり方の違いが生んだ、
悲劇(というか、私は別に彼にNYに来てもらわなくて、一向に構わないのですが。)ともいえるでしょう。

ただ、それだけではなく、ボード側の不手際(この記事にもあるとおり、
パリのオペラ座で現職の支配人の仕事をしながら、山ほど課題のあるNYCOの仕事を掛け持ちでするなど、
特にファンド・レイジングの仕事も期待されているとすれば、どだい無理な話で、
それを許したボード側にも落ち度があります。)や、
私が噂で聞いたところでは、最後まで彼のアーティスティックな面での采配への疑念
(彼のとっぴな路線が、NYで受けるのか、という不安)がボード内でくすぶり続けていた、という説もあり、
この資金の問題が理由の全てではないと考える向きもあるようです。
いずれにせよ、これらの問題を完全には解決しないまま、好景気(に見えていた)にまかせて、
支配人のポジションをオファーしたものの、今年の急激かつ未曾有の経済状況の悪化によって、
もともと潜在的にあった問題が一挙に露呈し爆発してしまった、と見ていいのではないでしょうか?

さて、アメリカの中小規模のオペラハウスでは、この経済の問題はあっという間に
大きな打撃を加えてしまったようで、
なかにはカリフォルニアのオレンジ・カウンティにあるオペラ・パシフィックのように、
すでに今シーズンのキャンセルのみならず、閉鎖を迫られているところ
も出てきています。

また、アメリカだけではなく、この経済危機の問題は全世界を巻きこんでいて、
不穏な噂で非常に心配ですが、イタリア政府が大幅にオペラハウスへの助成金を見直したことで、
経営の存続が心配されるオペラハウスも出始めており、
その中には私が驚くようなビッグ・ネームも含まれていました。
何とか頑張ってこの危機を乗り越えてほしいものです。

今や、オペラハウスを経営することが、本当に綺麗事ではすまなくなりつつある感を覚えます。
”金がないから自分のやりたいことが出来ない”なんて寝言を言ってる
モルティエのような支配人には、NYCOも、特にこの時期、来てもらわなくて正解でしょう。
NYCOは閉鎖も囁かれている、というようなことがNYタイムズの記事には示唆されていますが、
早く経営才覚に優れた新しい支配人候補が見つかることを祈ります。
せっかくNYでは、複数のオペラハウスが存続してきたのですもの、
その伝統をここで断ち切るには、残念すぎます。

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