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音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: LA TRAVIATA (Mon, Oct 20, 2008)

2008-10-20 | メト on Sirius
リハーサルを観た知人から、”なんだか妙なトラヴィアータなんだよね、、”という評を聞き、
聴きたいような聴きたくないような妙な気持ちでのぞんだ今日のシリウス鑑賞。

特にジェルモンが変、ということだったので、事前に誰が歌っているのだろう?と調べてみれば、
なんとびっくり、のろまのドバーでした!!!ぎゃああああ!!!
昨年の『アイーダ』での、痩せてるくせにあまりに緩慢な動きといい、
パッションのない歌といい、もう二度とメトには呼ばれないに違いない!と思っていたのに、。
きっと昨シーズンの『アイーダ』の前にこの契約が決まっていて、
メト側が契約放棄したくても出来なかったに違いない。絶対にそうだと思う。

ヴィオレッタを歌うのはドイツ人のソプラノ、アニヤ・ハルテロス。
(注:お父様がギリシャ人ですが、生まれ育ちはドイツのようですので、
ドイツ人のソプラノという記述に訂正させていただきました。)

昨シーズンの『フィガロの結婚』では、少しクールな感じながら、
すらりとした舞台姿が美しく、歌の方も悪くはなく、観客にも人気でした。

冒頭の写真は彼女のオフィシャル・サイトからのものですが、これで見る限り、
個性的な顔立ちながらチャーミングな人なのに、
メトのサイトに使用された、下の妙な写真は何でしょう??



このかつらが異常に似合っていないハルテロスの写真に、
まわりに遠近感を無視して、奇妙にコラージュされた夜会の参加者たち、、
まるで同人誌に投稿された下手くそな漫画を思わせます。
下手な漫画やイラストは往々にして、空間の描写や比率や遠近感が非現実的だったりして、
気持ち悪く感じることがありますが、まさにそんな印象。
こんなに変なコラージュ写真がメトのサイトにアップされたことはかつてないように思うのですが、
まさか、この公演を鑑賞するとこんな感覚に陥りますよ、というメトからのメッセージ?怖い。

アルフレードは、2006-7年シーズンの『三部作』のジャンニ・スキッキで、
リヌッチオを歌ったマッシモ・ジョルダーノ。
『三部作』では健闘していて、今レポを読み返すと、アルフレードなんかに声質が合っているのではないか?
(しかし、東京で観たはずの彼のアルフレードは全く記憶にない、、。)
と書いていますが、そのアルフレードを今日は聴けるというわけです。

ハルテロスのヴィオレッタですが、声がこの役には重いですね。
声が重いだけならまだいいのですが(カラスも卓越した技術のおかげで
ヴィオレッタ役の歌唱に秀でていましたが、決して本来の声自体が軽かったわけではない通り。)
ハルテロスの場合、歌唱、具体的にいえばアジリタが重過ぎる。
一幕では指揮とオケに、そのアジリタがついていけないという情けない状況に。
決して指揮とオケが早過ぎたとは思わないです。
おかげで、指揮者のカリニャーニは、当初もう少し早いテンポで演奏したかったように思うのですが、
彼女に合わせてどんどんゆっくりになっていくのでした。
最初は、部分的に(具体的にいえば、アジリタの技術が要される個所で)
極端にテンポを落としたりして対応していたのですが、
急ブレーキにびっくり仰天したオケが崩壊しかかる場面もあり(特に第一幕はかなりひどかった。)
ついに、あきらめるかのように、全体がゆっくりに、、。

なぜだか、一幕ほどアジリタの技術が要されない二幕まで、
止まってしまうかと思うほどのゆっくりテンポ。ああ、じりじりする。
しかし、ハルテロス嬢はこの方が歌いやすいらしく、音を引き延ばし、
のびのびと、まったりと、朗々と歌っているのでした。
たしかに歌いやすいだけあって、ニ幕ではよく声が出ていましたが、
それこそ伸びきったラーメンのようで、なんだか違う作品を聴いているかのような妙な感覚に。
もしや、これこそが、あの遠近感無視のバナーの伝えんとしていたメッセージか?!

ちなみに一幕の彼女は、E stranoに入る前までは、テンポには乗り損ねる、音は外す、
音の長さが適当、と、かなりしっちゃかめっちゃかでした。
やっと幕の最後のアリアで、少し上を向いて来ましたが、、。

さて、そんな状況に便乗し、
”このスロー・テンポこそ、俺様の怠慢な性格にぴったり!”とばかりに
べたべたとした歌を聴かせる父ジェルモン役のドバー。
これが知人の言っていた変なジェルモンだな!!
確かに。というか、これはかなり気持ち悪いです。
スローテンポは、しっかりとした声質と歌唱力を持った歌手にしかこなせないということを実感。
ドバー、今、まさに、”プロヴァンスの海と陸”を熱唱(?)していますが、
このべたべた感、堪えられません。
ああ、体中をゴキブリが駆けずり回っているかのようなこの感覚!!!!!
誰か助けてーーーーっ!!!
彼の発声そのものにも問題があると感じるのは私だけでしょうか?
唯一の救いは、私が実演を観に行く公演では、ドバーは去り、
昨シーズンにマクベスを歌ったルチーチ
が父ジェルモンに入ってくれること。
といいますか、もちろんわざとドバーを避けたんですけれども。

しかし、問題はここにとどまらず、アルフレード、君までも、、、なのでした。
ジョルダーノ、期待していたんですが、声質はさておき、残念ながら、
細かい部分の歌裁きがあまり上手じゃない。
例えばある一音から次の音へ、どのようになめらかに移行するか、
そういうことを、世界のメジャーな歌劇場で歌うレベルの歌手なら考えてほしいのですが、
まるで、人差し指で順番に鍵盤を叩く児童のように、一音一音が孤立してしまっています。
ただ、彼の場合は、乱暴でそうなっているのではなく、
歌でいっぱいいっぱいなのがそういった形で噴出してしまっているというのか、、
歌唱に余裕が全くなく、表現というレベルに行く前で止まっている。

ただ、そのおぼこい感じが、札束を投げるシーンの歌唱では、アルフレードのキャラとマッチして初々しく、
舞台ではどのように演じているのか、ちょっぴり興味深くはありますが。

ニ幕二場の夜会の合唱のシーンでは、ここがチャンス!!とばかりに、
一気にアップテンポになった指揮者。
本当はこのように演奏したいのですよね。
しかし、まったりヴィオレッタのハルテロスが舞台に登場した途端、
ちぇっ!とカリニャーニは舌打ちし(ラジオでは聴こえませんでしたが、
絶対心では思っているはず!!)
彼女が歌う場面では、これでもか!!とスローテンポになるのでした。
かわいそうに、、苦労してますね。カリニャーニさん、、。
というわけで、彼の指揮は、ハルテロスがヴィオレッタを歌う限り、
なんとも評しがたい状況です。
まあ、指揮者たるもの、こんな程度のテンポ、付いて来んかい!!と、
ハルテロスのお尻を叩く位のガッツと気力も必要かも知れません。

ニ幕以降は彼女の声もよく伸びていましたが、
作品本来の持ち味を殺しても彼女の歌声を楽しみたいか
(=限りなく、ハルテロスのワンウーマンリサイタルとしてこの公演を楽しんでしまうか)、
いくら声がよくても、作品の持ち味が消えるのは許せない、と感じるか、
観る側の視点で、今日の公演の評価は大きくわかれると思います。

2006-7年シーズン、3/7の『椿姫』での、
ストヤノヴァ(ヴィオレッタ)、カウフマン(アルフレード)、クロフト(父ジェルモン)、
アルミリアートの指揮、全てがかみ合い、技術の不足を誤魔化すための小細工も何も必要なく、
キャスト全員の”私は自分の役をこのように表現したい”という意思のみの元に、
作品本来の良さが十全に引き出されていた公演、
私には、あれこそが、究極の『椿姫』ですが、
そんな公演にそう簡単に巡り合うことはできないわけです。

Anja Harteros (Violetta Valery)
Massimo Giordano (Alfredo Germont)
Andrzej Dobber (Giorgio Germont)
Conductor: Paolo Carignani
Production: Franco Zeffirelli
OFF

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2 コメント

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カリニャーニ (keyaki)
2008-10-21 16:53:57
なんか知っている名前ばかりなので、コメントしたくなりました。
カリニャーニは、「チューリヒ中央駅の椿姫」の指揮者さんだし、アニヤ・ハルテロスは、新国のマイスタージンガーのエーファでした。
マッシモ・ジョルダーノは、メトのリヌッチオを映像で見て、あまりの変貌ぶりに吃驚でした。
彼は、2002年に、藤原と新国でアルフレードを歌っているんですが、もしかして、Madokakipさんがご覧になったのはこの時かしら。私は見てないんですが、「双眼鏡でアンドレ・ロストの美貌とマッシモ・ジョルダーノの男振りはハッキリ目に焼き付ける事が出来ました」「スマートな容貌がやや田舎育ちのアルフレードには洗練しすぎと言う感じがします」「すらりと背の高いなかなかのハンサムくんである」とまあ、容姿に関しては絶賛なんで、私の頭の中は、マッシモ・ジョルダーノ=イケメンとインプットされていたんです。ところが....(笑

カリニャーニは、ジュネーヴ大劇場の「ドン・カルロ」の指揮者さんでもあったんですが、グリゴーロのドン・カルロが、実に繊細で心の動きが手に取るように分る表現的歌唱でしたし、カリニャーニ指揮のスイス・ロマンド管弦楽団の演奏も繊細でとてもよかったです。
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思い切り暴れさせてほしい、、 (Madokakip)
2008-10-22 11:39:08
いやー、このカリニャーニは、ちょっとかわいそうでしたね。
ニ幕二場の夜会のシーン、ハルテロスが出てくるまでは、
生き生きしていて、とっても良かったんですよね。
”もうちょっと思い切り暴れさせてほしい、、”という彼の呟きが聴こえてきそうでした。

ハルテロスは、声は張りがあってなかなか耳に心地よい声なのですが、
少し声の強さに対して、それをコントロールする力がついていけてないような印象を、
音だけ聴いた限りではもちました。
微妙に音が外れたり、アジリタが重い、というのも、
全部、そこから派生している問題のような気がします。
これでコントロール能力がパワーアップすれば、とてもいい歌手なんですが、、。

ジョルダーノが恐ろしいくらいに記憶にない私なのですが、
おそらくは、ロストと歌ったときだと思われます。
ロストは来日するたびに聴きにいっていたので、、。
というわけで、どんなルックスだったかも全く覚えがないのですが、
メトのリヌッチオでは少しぷくっとしてましたよね。

あと、オペラ歌手のルックスのレベルが著しく向上したのは、
ここ数年のことですよね。
2002年時点では彼でもイケメン扱いになってしまった
(もともと過大評価)のか、
それとも本当にイケメンだったのに、太ってしまったのか、
覚えていないだけに比較できないのが悔しいです。

それに引きかえ、今は、グリゴーロ君もそうですが、
カウフマンとか、フローレスとか、”オペラ歌手にしては”という
枕詞がいらない美形歌手が多いので、
気を抜いて太ってしまったジョルダーノには、
イケメン歌手として入り込む隙間もないのです。
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