Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

IL TRITTICO (Fri, May 4, 2007)

2007-05-04 | メトロポリタン・オペラ
”私のお父さん”がそれほど好きなアリアでない天邪鬼なわたくしゆえに、
三部作、音楽的に好きな順にランクを付けよ、と言われたら、
間違いなく修道女アンジェリカ、外套、ジャンニ・スキッキの順、
しかも、グレギーナ、リチトラ、ポンスの外套、バーバラ・フリットーリのアンジェリカに比べて、
キャスティングも若干少し弱いか?と思われていたジャンニ・スキッキが、
今日の第一番の収穫になるとは誰が予想したでしょうか?!
とにかくこれはアンサンブル/キャスティングと演出の勝利。
以前にボローニャの日本引越し公演で見たなんだか辛気臭い演出に比べて、
今日のジャンニ・スキッキのそれは楽しかったこと。
それこそお芝居を見ているような楽しさだったけれども、ふと気づくと、歌もなかなか良いのでした。
飛びぬけたスター歌手がいなかったのが逆に吉とでたかもしれません。
どの役も過不足なく、みなさんが丁寧に歌い、演じていて、これをアンサンブルの力と呼ばずして何と言いましょう!!
リヌッチオ役のマッシモ・ジョルダーノが優男風のいい声かつ舞台栄えのするルックスでなかなかいい味出してました。



この声だと、アルフレードとか聴いてみたいなあ、と思っていたら、
何と2002年の新国立劇場で、アンドレア・ロストのヴィオレッタと共演してました。
でも、記憶にないのはなぜ?絶対聴きに行ったはずなのに。
ますます記憶力に自信のないこのごろ、だからこのような覚書ブログが必要になったとも言えます。
さて、ミキテンコは、ラジオ放送で聴くと、ちょっと硬質な変わった声だと思ったのですが、
実際にオペラハウスで聞くと、なかなかの美声。
ただし、ちょっと歌唱や演技に余裕がないというか、
やたら遅めにしたがり(特に今日、ひどかった。)のレヴァインと、早く歌いたい(緊張してたか?)ミキテンコで完全にテンポがずれて、
オケの伴奏よりもかなり走って歌われていた箇所があったのが惜しい。
Corbelliのジャンニ・スキッキは、歌だけで唸らせるタイプではないものの、
演技とのトータルバランスで、なかなかいい線いってたと思います。
ステファニー・ブライス、ほんとに素晴らしい。
彼女は今日の三部作全演目に出演したただ一人の人ですが、
キャラクターの異なる役を全てものにして、演じわけていたうえに、
しかもあの巨大なメトを、何の苦もなく埋め尽くす豊潤な声。
彼女のようなメゾがいれば、この先メトも安心です。
彼女は先日の記事でも触れたリンデマン・プログラムの出身、
どんどんこういう人を育てて送り出して欲しいです。
このジャンニ・スキッキでも、やり手風でありながらどこか間が抜けているジータを、
ちょっと女優のキャシー・ベイツを思わせるのりで楽しく演じてくれました。
この演出では、年代を1950年代後半に移し変え(遺書の書き換えの部分も台詞がそのように変わっていました)、衣装もそのころ風。
男性はクラシカルなスーツに、女性はジャクリーン・オナシスが着てそうなツーピースに外巻きカールとポニーテール。
時代の差し替えにありがちな、”なんでそんな年代でやらなきゃいけない?”と思う余地をこちらに与えないほどスムーズな話運びで、かつ物語のエッセンスを失っておらず、他のニ作品もあわせて、とてもすぐれた演出でした。
しかも舞台装置が本当に素晴らしい!
ずっとブオーソの部屋が舞台だったのが、最後の最後で、
降下して、その上にセットされていたバルコニーのシーンにコマ送りのように変わっていくのですが、
バルコニーに立つ若い恋人二人とそのバルコニーから見える広大なドナーティ家の庭園が最初に見えて、
(ここで、ドナーティ家ってほんと金持ちなんだわー!と再確認。
歌詞からものすごい遺産を持っていることはわかるのですが、ビジュアルの力によってさらに説得力のあるものに!)
またラウレッタのピンクのワンピが庭園の緑に映えて美しい!
そして庭園の向こうに、フィレンツェの街が広がり、あまりの美しさにここで思わず観客からも拍手が!
ただ結婚を許してもらうことだけが望みで、ジャンニ・スキッキの機転で彼らに
転がり込んできた財産のことを一切知らない二人が仲良くたわむれる姿に、
ドナーティ家の人々には、私欲のために財産を掠め取ったと思われたスキッキの真意がただ娘に幸せになってほしい気持ちからであったこと、
また貧しい人間のたくましさというか、がまたせつなく、
思わず我々観客は二人の幸せを願わずにはいられなくなったのですが、
これらすべてのことをこの一シーンで表現しつくしたこの演出には本当に心から拍手を送りたい!!
優れた上演に接したときは常にそうであるように、
この作品はこういうことがいいたかったんだ!という新たな発見がありました。

さて、順番はさかのぼって修道女アンジェリカ。
ブライスの演じた公爵夫人がものすごい存在感で、フリットーリがかすむほど。
今日のフリットーリは少し調子が良くなく(先週土曜マチネの全国ネットのラジオ放送では素晴らしい歌唱だったのですが。。)、
少し残念でしたが、彼女の歌唱の良い点の片鱗がそこここで確認されました。
まず、周りのバランスも考えずに無理やり自分を押し出す歌唱とは対照的な、
常に周りとの調和を意識しているような上品な歌い口に彼女の強みがあると思います。
特にオケのボリュームが大きくなったときの声のコントロールは抜群で、
これ以上小さくなったら観客のストレスになるぎりぎりの線で歌っているような省エネ歌唱。
決して悪い意味ではなく、ものすごく効率のよい歌い方だと思いました。ステージの上で歌っていると、
特にメトのような大ホールの場合、オーケストラとのバランスを把握することはそう簡単ではないと思うのですが、
この方はまるで動物的な勘でもって、どれくらいのボリュームで観客に声が届いているかを理解しているかのように思えるほど。
Senza mamma(母もなく)のアリアの最後の音、結構トリッキーで、
録音でも、微妙にオフ・ピッチ、もしくはずりあげ、ずりさげが多い中、
彼女は最初からどんぴしゃの音できたのはすごかった。
欲を言えば、演技が少し大時代的というか、形式的に見えるのが残念。
歌唱ではあれほど勘の働く方が、演技の方でこうなってしまうのは皮肉なことです。
ブライスの公爵夫人は本当に見ているだけでこちらがむかつくほどの石頭ぶり。
アンジェリカの子供が亡くなったことを告げる場面で少し人間らしさを出すアプローチもあるかと思いましたが、
徹頭徹尾、嫌なおばさんで押し通していたのが逆に新鮮でした。
こちらも演出がすばらしく、アンジェリカ自らが毒草を盛るシーン、
CDで聞いていると、かなりオケのみの演奏が長くて、舞台ではどんなことがおこっているのだろうか?と思わせるのですが、
修道院内の庭(このセットがまた美しくて、幕が開いたときにはまたしてもの大拍手)で、とり憑かれたように毒草を集めとるアンジェリカの演技付けをみて、その無駄のなさ、過不足のなさに驚く。



最後、舞台のかなり高いところから十字架の光がさして、
やがて、最後の天使がお迎えにくるシーンにいたるまでの美しさは筆舌に尽くしがたい!
メトの舞台の高さと大きさを生かしきった装置でした。

振り返ってみると、三作中、最も弱かったかもしれない”外套”は、
意外にもグレギーナが健闘していたのですが、
なんだか全体的にかみ合わない演奏。
まず、私個人的には、演奏が生理的に違和感を感じるほど遅い箇所があったのが辛かった。
例えば、特にミケーレが怒る場面では、怒りにもいろいろな種類があるとはいえ、
少なくとも、その場面の怒りは、(特にそこでポンスが歌った歌い方から察するに)、激昂でなければならないというのに、
その激昂の食らいつくような感じを軽く無視して、オケをずるずると遅めにひっぱるレヴァインにはえーっ?!という感じでした。
それでもポンスは歌唱歴が長いせいもあって、結構うまく折り合いをつけてましたが、
一番戸惑っているように見えたのはリチトラで、彼の良さがこの演奏では全く出ていなかったように思います。
指揮者に何が何でもあわせるのが歌手の仕事!と見るか、歌手の長所や歌いたいスタイルを理解するのもオペラ指揮者の仕事!と見るかで、
意見も違ってくるのでしょうが、私にはちょっと歌手が気の毒に見えました。
そんな中でまたしても大健闘していたのがブライス。
ラ・フルゴラ(動物のフェレットの意)というショッピング・バッグレディー寸前の危険キャラを、
なんだかしまいには、ほほえましく思えてしまう”きもかわいいキャラ”にまとめあげていたのはさすが。
しかし、歌のほうは、きもかわいいどころかものすごい完成度の高さ。

この作品自体が結構演奏が難しいのか私には判断のつきかねるところですが(あまり頻繁に見る機会のない演目なゆえ。。)、
いまいち血の通わない出来が悲しかった。
多分プッチーニは、カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師みたいなのをイメージして書いたと思うのですが。。

追記:5月7日(月)の公演をSirius(衛星ラジオ)で聴いているのですが、外套のできばえが4日とは大違い!リチトラが彼らしい歌唱を聴かせて火をつけ、他の二人をのせてくれました。こういうのを聴きたかったのです!悔しいー!インターミッションではリチトラのインタビューが放送され、しゃべり声と歌声のギャップにびっくり。しゃべり声からは、とてもあんなしっかりした歌声が出てくるようには聞こえない。演出のジャック・オブライエンに、外套についてはヒッチコックの映画のような雰囲気で行きたいといわれた話だとか、なかなか興味深い話が聞けました。
後半はレナータ・スコットの生インタビュー。実際の公演で三部作通しでヒロインを歌ったことがあるというからびっくり。しかし、声楽的な面では、”例えば蝶々さん(スコットの当たり役)はひとつのオペラの中だけど、女の子らしいかわいい面、女性としてたくましくなっていくところ、など、多様な面があるわけで、その応用ですよ”とさらり。”むしろ声のレンジ的にはジョルジェッタもアンジェリカもそれほどは違いがない”のだそうです。”だけどさすがに幕間でのキャラクターの切り替えは大変で、特にアンジェリカが終わったあとは最初のおじぎもつらいくらいで一言もしゃべりたくない”。。そりゃ、そうでしょうとも。。
だけど、リチトラにしろ、スコットにしろ、英語がそれほど自由ではないのに関わらず、よくしゃべる、しゃべる。
スコットにいたっては、もう次の演目が始まろうとしているので、司会のマーガレットが巻こう巻こうとしているのに、お構いなく、
”いえ、また呼んでいただければ、プッチーニだろうと、ヴェルディだろうと、
全ての役柄についてお話させていただくわ!”と、まだ話したりない様子。
さすが、イタリア人!しかし、このスタミナがないと、三部作通しでなんて、歌えませんよね、確かに。
そして、今、修道女アンジェリカのラストに入りました。
もう、嫌になってくるほど素晴らしい今日のフリットーリの歌唱。
途中、あまりの素晴らしさに、観客からの拍手が止まってしまった場面も。
また、わたくし、公演日をはずしてしまったようです。。。

追々記:その5月7日の公演はライブHDとして、全米各地はもちろんのこと、
日本を含む世界各地の映画館にてライブ(アメリカ)/録画(日本)上映されました。
その映像が、6月にNYのチャンネル13で放送され、3時間近く、テレビに釘付けになってしまいました。
『外套』のポンスがよい!鳥肌立ちました。
そして、何よりも『修道女アンジェリカ』のフリットーリ。ラジオで聴いたときもすごいと思いましたが、
映像とのコンビで、胸が締め付けられ、幕が降りた後は無言になってしまいました。
この日は、彼女のいつもの端正な歌唱と、熱さが絶妙なバランスで、
三部作全公演でもおそらく彼女のベストの出来だったのではないでしょうか?
しかも、劇場では彼女の演技が多少、大芝居的に感じられたのですが、
意外にも映像で見ると逆にしっくり来ます。
ブライスがなぜだか、アンジェリカでは、少しいつもの迫力を欠いていたかもしれませんが、
こんな名演は、絶対にDVD化して販売し、一人でも多くの方に見ていただくべき。


IL TABARRO
Maria Guleghina (Giorgetta)
Salvatore Licitra (Luigi)
Juan Pons (Michele)
Stephanie Blythe (Frugola)
SUOR ANGELICA
Barbara Frittoli (Sister Angelica)
Stephanie Blythe (La Principessa)
Heidi Grant Murphy (Sister Genovieffa)
GIANNI SCHICCHI
Alessandro Corbelli (Gianni Schicchi)
Massimo Giordano (Rinuccio)
Olga Mykytenko (Lauretta)
Stephanie Blythe (Zita)

Conductor: James Levine
Production: Jack O'Brien
Dr Circ C odd
ON
***プッチーニ 三部作 Puccini Il Trittico***

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3 コメント

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TVで、、、 (yol)
2007-05-12 11:03:13
今たまたまTVで「世界一やさいいオペラ入門」みたいなのをドレスデンへの旅行記に絡めて放送してるのを発見。ドレスデンの町の歴史も織り込んで面白いわ、録画しておけばよかった!、、、で、ついついコメント書かせていただいてしまいました。ブログ開けたら相変わらず炸裂してるので安心したわ。そろそろ私もオペラ・デビューしようと思う今日この頃。やはりバレエと同じ演目でかぶっているものの方がストーリー的に退屈しないと思うのよね。
しかしそれにしてもサブタイトル「昼メロより熱いドラマ」というのはどうなの?
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もう一言 (yol)
2007-05-12 11:21:30
そのTVで「ばらの騎士」の最終シーン(3人が並んで歌うところね)で涙が出てきそうになったわ~。TVでこれだけなのだから生だともっと凄いんでしょうね。オーストリア(演目すら覚えてません)とロンドン(「ドン・ジョヴァンニ」これは素晴らしかった)でオペラを観たけどちっとも覚えていない私を呪うわ。
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わかるわ~ (Madoka)
2007-05-14 13:05:38
そうなのよね、私もコレーラが、ラ・ジョコンダというオペラの演目でバレエでゲスト出演をしたときは、
彼の名前を聞いたこともなかったの。
ほんの数分のダンスのためにゲスト出演よ。
ほんと、贅沢よね。
でも、そのときなんんか、えらそーに、なかなかいいダンサーがいるわね!くらいに思ってたのよ。
なかなかいいダンサーどころじゃないわよ!大スターよ、彼は!!っていうね。
女子トイレで、スペイン人のお姉ちゃんにいさめられちゃったわよ。そりゃそうよね。無知とは罪なり。
そうそう、ばらの騎士の最後は切ないよね。
我々くらいの歳になると、このばらの騎士の元帥夫人とか、
いつぞやのコメントでふれた私が勝手に男性版ばらの騎士と名づけている、ニュルンベルクのマイスタージンガーのザックスとかが心の琴線に触れるのよね。
ぜひ、オペラデビューして頂きたいわ!!
私も、わけがわからないながらもバレエを見始めたことだし(もうNYCBの感想書くのも大変だったわよ!知らないことを書くのってほんと難しい。)
バレエとかぶっている演目といえば、あの、yolさんにご紹介いただいた本を参考にすれば、
オペラサイドからのお勧めは、なんといってもLa Traviata(椿姫)よ。
もう、これは何度見ても、いいキャストで見ると泣いてしまうの。永遠の名作です。
スタンダードな演出の方が、この作品の良さが生きると私は思うので、予習には、ゲオルギューが出ているDVDとかがいいのかも知れないけど、彼女の歌はちょっと私には冷めて聞こえるの。
ネトレプコが出演しているDVDの方が歌的には私の好みなのだけど、演出がオーソドックじゃないので、
そこがちと難。ほんと帯に短し、たすきに長し。
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