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音曲日誌「一日一曲」#378 ホップ・ウィルスン「My Woman Has a Black Cat Bone」(Ivory)

2024-04-18 07:27:00 | Weblog
2024年4月18日(木)

#378 ホップ・ウィルスン「My Woman Has a Black Cat Bone」(Ivory)



ホップ・ウィルスン、1960年リリースのシングル曲。ウィルスン自身の作品。

米国の黒人ブルースマン、ホップ・ウィルスンことハーディング・ウィルスンは1921年テキサス州グレープランド生まれ。幼少期よりギターとハーモニカを演奏し、10代でスティールギターを入手、こちらをメインで弾くようになる。

郷里に近いヒューストンのクラブで演奏した後、兵役に就く。除隊後、本格的に音楽の道を目指す。

芸名のホップは、子供の頃ずっとハープ(ハーモニカ)を吹いていたため、その発音が変化した「ホップ」がニックネームとなったことによる。

パパ・ホップ(Poppa Hop)という芸名もあり、本日取り上げた一曲「My Woman Has a Black Cat Bone」も、当初はその芸名でリリースされている。

ウィルスンはプロとしては少し遅咲きで、50年代にベースのアイス・ウォーター・ジョーンズ、ドラムスのアイボリー・リー・セミエンとのトリオを組み、57年にようやくルイジアナ州レイク・チャールズのゴールドバンドレーベルで初レコーディング。ホップ・ウィルスンとチキンズという名義でインスト・シングル「Chicken Stuff」を翌年リリースした。

60年にはヒューストンのアイボリーレーベルと契約、何枚ものシングルをリリースしていくが、ツアーを嫌い、地元でのライブにこだわり続けたため、全国的な知名度を獲得するには至らなかった。75年に54歳の若さでヒューストンで亡くなっている。

テキサス・ブルースマンとして知る人ぞ知る存在といえるウィルスンの、後世に唯一ポピュラーとなったナンバーが、60年リリースの「My Woman Has a Black Cat Bone」だが、読者のみなさんは一聴しただけではピンと来ないかもしれない。

しかし、1985年にリリースされたアルバート・コリンズ、ジョニー・コープランド、ロバート・クレイによるアルバム「Showdown!」でのカバーバージョン「Black Cat Bone」(ボーカルはコリンズ)を合わせて聴けば、「あ、この曲のオリジナルはホップ・ウィルスンだったんだ!」となるはず。

二者は、まったくアレンジが異なっている。ウィルスン版はアップテンポのシャッフル、コリンズらのバージョンは、少しスローなファンク・ビート。またリズム同様、メロディラインも大幅に変更されている。まるで違う曲に聴こえても無理はない。

このニュー・アレンジが、時の流れとともにほとんど忘れ去られていた本曲を甦らせたと言っていいだろう。現在でも「Black Cat Bone」はセッションの定番曲としてはよく演奏される。その場合、アレンジは100パーセント、Showdownバージョンである。

白人ブルースギタリスト、マット・スコフィールドも、「Black Cat Bone」をレパートリーとしているが、そちらも明らかにShowdownバージョンを下敷きとしている。本曲の生みの親であるウィルスンに対して、コリンズは、「育ての親」と言っても過言ではあるまい。

実はジョニー・ウインターもコロムビアからメジャーする前の69年のアルバムで、アップテンポのシャッフルで本曲をカバーしているのだが、リスナーの記憶にはほとんど残らなかった。完全にコリンズの勝利である。

ウィルスン同様テキサス出身のコリンズ(32年生まれ)は、先輩ブルースマンへのトリビュートとして、この曲を、それこそこの歌詞にも登場するブードゥー教のまじないを使って、甦らせたのだ。

ホップ・ウィルスンはブルース界では極めて少ない、スティールギターの弾き手である。通常のギターとも、ボトルネックのスライド・ギターとも違う独特のニュアンスで、唯一無二のサウンドを創造したパイオニアだ。

そのサウンドはカントリー・ミュージックの軽さ、明るさも織り込んでいるものの、根底にあるのは、重たいブルース。その歌声は陰影に富み、底知れないものを感じさせる。

コリンズ、ウィンターらのほか、英国のミュージシャン、例えばロニー・ウッド、ピーター・グリーンといった人たちも、実はウィルスンのレコード(おそらくエースレーベル盤)を愛聴していたという。

明るい曲調とは裏腹の、恐妻家のボヤきというのだろうか、ブラックユーモアに満ちた歌詞がなかなか面白い「My Woman Has a Black Cat Bone」。

終生我が道を行ったブルースマン、ホップ・ウィルスンの極めて豊かなオリジナリティを、この一曲に感じとってくれ。




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