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「ドイツ病に学べ」熊谷徹著

2012-04-23 22:19:45 | Book
「ドイツを訪問すると、整然として清潔な街に日本にはない快適さを感じる。便利なサービス面やファッションセンスでは劣るかもしれないが、インテリアは美しく、各地方を結ぶ機能的なアウトバーン、エコライフ、美味しいビールにワイン。そして生活拠点で余暇を楽しむ人々の姿を見かけると、慌しい旅人はうらやましくなる。真に豊かな暮らしというものを考えるとふつふつと疑問がわいてきて、これでよいのか、日本人!?・・・となってくる。

たとえば、ドイツの大手企業の取締役会の上には監査役会があり、労働者の代表も参加し重要事項の決定権をもつという独自のシステムがある。それは社会保障サービスの充実につながる。公的健康保険は眼鏡のレンズだけでなく、フレーム、サングラスまでカバーしてくれる。入院しても、6人部屋などありえない。2人部屋か個室が当たり前、電話も各自のベットについている。被保険者の葬儀費用、分娩費も健康保険でいける。「連邦休暇法」で有休休暇は20日あり、従業員はすべて有休休暇は消化する。それだけでなく、医学的な予防とリハビリのための宿泊費や治療費も公的健康保険でカバーしてくれる「クーア(kur)」という転地療養休暇まである。著者の住んでいるミュンヘンには、美術館のような老人ホームもあるそうだ。

やっぱり、いいじゃんドイツ!ところが、しかし、本書の趣旨はそれでよいのか、ドイツなのである。

いったいその財源は誰が支えるのか。勿論、国民であり勤労者である。世代間でお互い様、、、と言えるうちはよいけれど、2003年のドイツの合計特殊出生率は1.34と米国を大きく下回っている。管理職につく女性が多く、激務のためにプライベートな時間がつくれなくて未婚だったり、個人主義のために離婚が多かったりと、女性がこどもを出産しなくなった事情は日本とは違うのだが、年金生活者を支える若者が減っているのは同じである。日本と比較してうらやましい限りの社会保障を、国家依存症という甘い毒と言い切る保守派の論客もいる。

更に、労働コスト削減のために、生産施設はチェコ→スロバキア→ルーマニア→ウクライナと転々として、製造業界は「生産施設の遊牧民化」と呼ばれている。産業の空洞化は日本と同じ。ビジネス・カジュアルが浸透し、益々服装にはお金をかけない買わない傾向が続き、車好きなドイツ人もベンツはゴルフではなく100万円以下の低価格車が人気となっている。(EU共通通貨ユーロの導入は、マーケットが一気に広がり為替リスクのなくなり、ドイツ企業には多くの利益をもたらしたことを考えると、今日のユーロ安は皮肉を感じるのだが。)現代のドイツは”sick man of Europe”というニックネームをいただいている。本書には確かにドイツ病に学べというとおりに日本と同じ症状がみられる。

女性が出産・子育てしやすい環境を整え雇用を即したり、東西ドイツが統一された頃から、社会保障コストを引き下げることも必要であろう。外国人の受入体制、高齢化と少子化対策、技術革新、高付加価値製品の製造、など治療をはじめたドイツから日本は学ぶところがおおいにある。しかし、私が本書で最も衝撃を受けたのは、かのドイツ銀行 のヨーゼフ・アッカーマンCEOである。ドイツ銀行は2004年度に当期利益が前年度比81%増、25億ユーロ相当の利益を生み出し、株主配当を増やし、投資アナリストをうならしたやり手である。しかし、業績が飛躍的に改善しているにもかかわらず、人件費が高すぎると行員の数を5200人減らすと発表した。さすがに政府や組合から「反社会的」と非難轟々だったそうだが、税引き前ROEを25%引き上げるためには必要な措置と言い切ったそうだ。彼は、投資銀行出身で英国の金融界では最も優秀な銀行家のひとりという高い評価を受けている。なんということか。

それでよいのか、ドイツ。このままでは人間の顔をもつ優しい資本主義をめざしたライン型資本主義は、強欲なアングロサクソン型資本主義に敗北してしまうのではないだろうか。敗戦の瓦礫の山から奇跡のように復興して経済大国になったドイツと日本。 しかし、著者によると現代の両国に共通なのは社会の閉塞感。それを感じるのも長くなった・・・。本書が出版されたのは、2006年、1ユーロ=140円のユーロ高の時代と事情も多少変わり、すべてに納得するわけではないし、別の視点から考える必要もあると思う部分もあるが、ドイツの現状を知るにはふさわしい1冊である。

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