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メルケル首相が鑑賞した絵画 マネ「温室にて」

2005-12-02 23:43:57 | Art
11月23日のドイツのすべて新聞の一面は新首相の顔、元物理学者だったメルケル女史の笑顔で飾られていた。その穏やかな表情には、つい先日の選挙活動で見せた”第二の鉄の女”という愛称をもらった厳しさは消え、政治活動の経験わずか15年にして登りつめた頂点に立つ者の、希望と誇り、そして今後歩む荊の道を憂う陰りもすべて秘めた、ただひたすら国民を思う慈母のような顔だった。

旧国立美術館

メルケル首相が育った旧東ドイツ側の首都ベルリンには、5つのミュージアムからなる「ベルガモン博物館島」という、1999年ユネスコ世界遺産に指定されたヨーロッパ屈指の国立博物館群がある。1830年、プロイセン王室の美術コレクションを一般公開するために最初の博物館を建立して以来、先史時代から19世紀までの5000年の歴史から重要な文化財と芸術作品が5つのミュージアムに展示されていた。その後、ヒットラー政権、第二次世界大戦や東西分裂という複雑な運命をたどり、16年前の東西統一以後は、統合再編を経て、2015年完成予定の大規模なドイツ政府による復興計画がこの博物館島ではすすんでいる。

その中のひとつ、1876年建立された旧国立美術館 (ALTENATIONALGALERIE)で、最も有名な絵のひとつが、エドワール・マネによる「温室にて」であろう。晩年のマネが親しい友人とある女性を描いたこの絵は、フランス絵画を集めた部屋で訪問者の視線をひくめだつ中央に位置し、美術館を代表する傑作ともいえる。新聞で笑顔をふりまいていたメルクル首相が、私が訪問したほんの数日前に、この「温室にて」を観にきたという現地の研究者の挿話には、なかなか興味がひかれるものがある。

私が「温室にて」で最も関心をひいたのが、女性のうつろな瞳と大きな絵の中央に位置するふたりの手である。男性と女性の並んでいるこの手は、いかにも意味深である。このふたりはどのような関係なのだろう。そして、どうして女性は右手は手袋をはめているのに、左手は脱いでいるのだろう。
当時の社交界において、淑女のたしなみとして殿方の前では手袋を脱ぐものではなかった。女性が殿方の前で素手をさらしていることは、すでに性的関係を結んでいると思われてもしかたがない。そして女性の左手薬指には、金色の結婚指輪が鈍く光っている。そして男性の左手にも違うデザインの結婚指輪が。。。
つまりこのふたりは既婚しているにも関わらず、恋人なのである。女性が結婚に自らの感情や意志をもちこむことは考えられなかった時代に、モデルとなったこの貴婦人は従来の枠をこえ、感じるままに行動した新しい意志的で魅力的な女性だったのである。たとえ不謹慎で半道徳的との誹りを受けても。

首相の地位に固執するシュレーダー氏をけとばし、敵対二大政党の大連立をつくりあげるために、一ヶ月もかけてメルケル首相は閣僚数の半分、8つのポストを社民党に渡さなければならなかった。しかも雇用問題の主管閣僚となった副首相を兼ねるミュンテフリング社民党党首は、社民党の入閣者リストを割り振りを独断で決めた。外相、社会労働相、財務相という重要なポストにも関わらず。
「同床異夢」
マネの絵にあるように新しい女性は、心の接点をみいだせない同床異夢の夫とは違う対象に進んでいく。それこそがこの絵のもうひとつの隠された魅力を訴えてくるのである。

年金制度、税制、医療・雇用保険という旧式のドイツ製を見直しして、自立市民国家へとドイツを再生させる情熱に満ちていたメルクル首相がこの絵を前にして、どのような所信表明をしていたのか、かなうならばモデルの貴婦人に尋ねたい気がする。

(余談だが、紳士がもっている葉巻は男性のシンボルを象徴している。)

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