はるばるベルリンまで飛んできた目的のひとつは、本場でベルリン・フィルの音楽を聴くこと。
音楽専門ツアーではなかったので、プログラムを尋ねても不明と言われたり、どうも最初から疑わしかったのだが、ベルリン・フィルハーモニーがドイツ交響楽団に変更。やっぱり!友人に笑われる始末だ。
気をとり直し、テレビで何回も観ていたベルリン・フィルハーモニーの本拠地である「フイルハーモニー」に向かう。宿泊していたテレビ塔の近く、「パークイン アレキサンダープラッツ」から車で移動。ベルリン大聖堂を過ぎ、旧西ドイツにはいりウンター・デン・リンデンを進むとライトアップされた黄金色にうかぶブランデンブルグ門が見えてくる。左折してティーア・ガルデンをぬけると”カラヤン・サーカス”と呼ばれるフィルハーモニーにほぼ30分程度で到着。このホールは、1963年モダン建築の父といわれたハンス・シャロウンの設計による。42年の間、カラヤンをはじめ多くの優れた演奏家を迎えてこのホールは、サントリーホールのモデルにもなっている。
クロークを預ける場所が何箇所もあり効率的なのだが、案内係りらしきスタッフが見当たらない。ホールの構造から、入口がいくつにもわかれているのではじめての訪問者にはわかりにくい。入口でプログラムを購入。(2.4ユーロ)各入口にこうした売り子が立っていて、愛想をふりまいている。
かなり大きなホールを予想していたが、実際中に入ってみるとその大きさに不安も感じる。本当に大きい。音響は大丈夫だろうか。
私の席は、Gブロック3列6番。サントリーホールでいえば、Pブロックだろう。19ユーロ。良い席ではない。やっぱり!
またまた気をとり直し、でもベルリン・フィルの本拠地だから・・・となぐさめていると、本日の指揮者である佐渡裕氏がさっそうと登場する。
ドイツ交響楽団は、正式には「ベルリン・ドイツ交響楽団」(Ceutsches Symphonie Orchester Berlin)という。
1946年ベルリン米国占領地域の放送管弦楽団として発足され、10年後にベルリン放送交響楽団と改称して米国との関係を解消、1993年統一されてから現在の名称になった。2000年から首席指揮者にケント・ナガノ氏を迎えて、今年も来日して成功をおさめた名門オケである。ちなみに鈴木メソード出身の豊田耕児さんが62年に第一コンサートマスターに就任していた。
ヨーロッパのオケは、夜8時に開演する。最初の曲は、アンドレイ・ガブリーロフを独奏者にむかえてラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。
映画「シャイン」でも有名なこの曲は、ロシア的な叙情に溢れる華やかな曲だが、かなり難曲でもある。確かに何回も繰り返し練習をしていると、精神が迷路にはまりこむのが不思議でない。ガブリーロフは1955年生まれの50歳だが、鍵盤から奏でられるピアニズムは、年齢を感じさせずに若々しい。音のひとつひとつが、明晰でホールの大きさに負けない。最初は、その音のたちあがりの勢いについていけないものも感じるのだが、完璧に近い演奏技術と彼の確固たる音楽観に酔っていく。
彼はモスクワに生まれモスクワ中央音楽学校で研鑚を積み、1974年チャイコフスキー・コンクールに優勝。同年スヴャストラフ・リヒテルの代役として、サルツブルグ音楽祭でデビュー。79年から84年まで、お決まりの?反体制活動により国外での活動を禁止された。
ビジネスマンだったらヤリテだろうな、と思わせるおしだしの強い演奏が終わると、ブラボーの声があちこちでかかる。説得力のある演奏に、佐渡さんもおされぎみと感じたのは私だけだろうか。
このピアニストの真髄を心底堪能して、感嘆したのはアンコール曲だ。
一曲めの現代曲は、まさにアクロバット的な技法を駆使してテクニックを披露した。ヴァイオリニストも華やかな技巧をみせる曲をアンコールピースにとりあげることがあるが、ピアニストもそうなのだろうか。猛スピードで、しかも音のすべてを硬質でクリアーに弾きこなすピアニストの技量に、会場は水をうったように静まりかえる。素晴らしい。この一曲を聴いただけで、はるばるベルリンまで来た価値があるというものだ。しかも2曲目に、「戦場のピアニスト」でおなじみのショパン「夜想曲第20番嬰ハ短調[遺作] 」をもってくるところが、センスがよい。というよりも、観客のうけを意識した芸風を感じる。この曲を、今度はたっぷりに甘く、せつなく、リズムをゆらしながらロマンチックに弾く。まるで経験豊富な中年男が、清純な乙女を手練手管でくどくかのように。
やっぱり、このピアニストはビジネスマンになっても成功したかもしれない。
休憩をはさみ、今度はドボルジャークの交響曲8番。
日本人として、ベルリンで佐渡裕氏の指揮による音楽を初めて聴くのも味がある。
佐渡さんに関しては、機会があったらおいおい語りたいが、大柄な佐渡さんの指揮による通称”ドボ8”は、意外にも”大柄”ではない。カンタビーレ過ぎず、泥くさくもなく、まとまりのよい演奏かもしれない。ピアニストとの関係は、いまひとつだったと思えたが、この曲ではオケとの信頼関係が感じられる。ベルリンで聴くドボルジャークは、郷愁を奏で、翌日の帰国を思い出させた。もっとこの地にいたい。もっとベルリンを感じたい・・・。そんな願いを軽くおしとどめるようなドボルジャークだった。
-------- 2005年11月28日 フィルハーモニー -------------------------
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番
ドボリジャーク 交響曲弟8番
■アンコール曲
不明
ショパン 夜想曲20番
音楽専門ツアーではなかったので、プログラムを尋ねても不明と言われたり、どうも最初から疑わしかったのだが、ベルリン・フィルハーモニーがドイツ交響楽団に変更。やっぱり!友人に笑われる始末だ。
気をとり直し、テレビで何回も観ていたベルリン・フィルハーモニーの本拠地である「フイルハーモニー」に向かう。宿泊していたテレビ塔の近く、「パークイン アレキサンダープラッツ」から車で移動。ベルリン大聖堂を過ぎ、旧西ドイツにはいりウンター・デン・リンデンを進むとライトアップされた黄金色にうかぶブランデンブルグ門が見えてくる。左折してティーア・ガルデンをぬけると”カラヤン・サーカス”と呼ばれるフィルハーモニーにほぼ30分程度で到着。このホールは、1963年モダン建築の父といわれたハンス・シャロウンの設計による。42年の間、カラヤンをはじめ多くの優れた演奏家を迎えてこのホールは、サントリーホールのモデルにもなっている。
クロークを預ける場所が何箇所もあり効率的なのだが、案内係りらしきスタッフが見当たらない。ホールの構造から、入口がいくつにもわかれているのではじめての訪問者にはわかりにくい。入口でプログラムを購入。(2.4ユーロ)各入口にこうした売り子が立っていて、愛想をふりまいている。
かなり大きなホールを予想していたが、実際中に入ってみるとその大きさに不安も感じる。本当に大きい。音響は大丈夫だろうか。
私の席は、Gブロック3列6番。サントリーホールでいえば、Pブロックだろう。19ユーロ。良い席ではない。やっぱり!
またまた気をとり直し、でもベルリン・フィルの本拠地だから・・・となぐさめていると、本日の指揮者である佐渡裕氏がさっそうと登場する。
ドイツ交響楽団は、正式には「ベルリン・ドイツ交響楽団」(Ceutsches Symphonie Orchester Berlin)という。
1946年ベルリン米国占領地域の放送管弦楽団として発足され、10年後にベルリン放送交響楽団と改称して米国との関係を解消、1993年統一されてから現在の名称になった。2000年から首席指揮者にケント・ナガノ氏を迎えて、今年も来日して成功をおさめた名門オケである。ちなみに鈴木メソード出身の豊田耕児さんが62年に第一コンサートマスターに就任していた。
ヨーロッパのオケは、夜8時に開演する。最初の曲は、アンドレイ・ガブリーロフを独奏者にむかえてラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。
映画「シャイン」でも有名なこの曲は、ロシア的な叙情に溢れる華やかな曲だが、かなり難曲でもある。確かに何回も繰り返し練習をしていると、精神が迷路にはまりこむのが不思議でない。ガブリーロフは1955年生まれの50歳だが、鍵盤から奏でられるピアニズムは、年齢を感じさせずに若々しい。音のひとつひとつが、明晰でホールの大きさに負けない。最初は、その音のたちあがりの勢いについていけないものも感じるのだが、完璧に近い演奏技術と彼の確固たる音楽観に酔っていく。
彼はモスクワに生まれモスクワ中央音楽学校で研鑚を積み、1974年チャイコフスキー・コンクールに優勝。同年スヴャストラフ・リヒテルの代役として、サルツブルグ音楽祭でデビュー。79年から84年まで、お決まりの?反体制活動により国外での活動を禁止された。
ビジネスマンだったらヤリテだろうな、と思わせるおしだしの強い演奏が終わると、ブラボーの声があちこちでかかる。説得力のある演奏に、佐渡さんもおされぎみと感じたのは私だけだろうか。
このピアニストの真髄を心底堪能して、感嘆したのはアンコール曲だ。
一曲めの現代曲は、まさにアクロバット的な技法を駆使してテクニックを披露した。ヴァイオリニストも華やかな技巧をみせる曲をアンコールピースにとりあげることがあるが、ピアニストもそうなのだろうか。猛スピードで、しかも音のすべてを硬質でクリアーに弾きこなすピアニストの技量に、会場は水をうったように静まりかえる。素晴らしい。この一曲を聴いただけで、はるばるベルリンまで来た価値があるというものだ。しかも2曲目に、「戦場のピアニスト」でおなじみのショパン「夜想曲第20番嬰ハ短調[遺作] 」をもってくるところが、センスがよい。というよりも、観客のうけを意識した芸風を感じる。この曲を、今度はたっぷりに甘く、せつなく、リズムをゆらしながらロマンチックに弾く。まるで経験豊富な中年男が、清純な乙女を手練手管でくどくかのように。
やっぱり、このピアニストはビジネスマンになっても成功したかもしれない。
休憩をはさみ、今度はドボルジャークの交響曲8番。
日本人として、ベルリンで佐渡裕氏の指揮による音楽を初めて聴くのも味がある。
佐渡さんに関しては、機会があったらおいおい語りたいが、大柄な佐渡さんの指揮による通称”ドボ8”は、意外にも”大柄”ではない。カンタビーレ過ぎず、泥くさくもなく、まとまりのよい演奏かもしれない。ピアニストとの関係は、いまひとつだったと思えたが、この曲ではオケとの信頼関係が感じられる。ベルリンで聴くドボルジャークは、郷愁を奏で、翌日の帰国を思い出させた。もっとこの地にいたい。もっとベルリンを感じたい・・・。そんな願いを軽くおしとどめるようなドボルジャークだった。
-------- 2005年11月28日 フィルハーモニー -------------------------
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番
ドボリジャーク 交響曲弟8番
■アンコール曲
不明
ショパン 夜想曲20番
お帰りなさい。
ベルリンフィルの本拠地にも行かれたのですねえ。羨ましいなぁ。
カラヤンが「どの場所からでも均等によく聞こえるように」と指示してホールを作ったと、どこかで読んだことがあります。
それにしても、素敵なプログラムですよね。
ガブリーロフは一時スランプが伝えられていましたが、健在のようで安心しました。
彼のショパンのエチュード全曲を、CDで最初に聴いた時の驚きは、今もよく憶えています。
コメントありがとうございます。
ガブリーロフをご存知でしたか。やっぱり造詣が深いですね。
リヒテルが絶賛したというのも誇張ではないと納得のいく素晴らしい演奏でした。
来日したらもう一度聴きに行きたいです。
>カラヤンが「どの場所からでも均等によく聞こえるように」と
確かにシューズボックス型よりも、音はチケット代ほどの差はないでしょう。
それから帰りにクロークにコートを受け取った時にちらしが置いてあり、もって帰ったのですが、
来年5月3日このフィルハーモニーで早稲田交響楽団の演奏会があります。
慶応、同志社大学ともに欧州への演奏会を敢行するということは、かねてより知っておりましたが
あの!ベルリンフィルの本拠地での演奏会とは!
チラシの写真を撮影した場所はサントリホールで、写真家は木下晃さんです。
選曲もなかなかセンスがよい。
確か早稲響は実力主義で、4年の男子よりもうまかったら1年の女子の方が前に座ると聞いた事があります。
なかなか考えるものもあり、またブログに書きたいなと思います。
このような大学オケというのは、日本以外にはあまりないそうです。
貴重な経験をされるこのような大学オケの学生達、素適だなと素直に応援したい気持ちもありますが。
でも、ベルリンとは羨ましい。音楽といえば、ドイツというイメージがあるのは何故だろうか?。自分の中で。
今回、美術館、博物館、コンサートホールとまわったわけですが、美術品、絵画、展示品はそこへ行けば、いつも変わらない姿で待っています。でも音楽、時間、その場にいた者にしか共有できない芸術なのですね。佐渡さんと同じオケが「ドボ8」を演奏しても、次は違った音になります。そんなことを改めて考えました。
>音楽といえば、ドイツというイメージがあるのは何故だろうか?。自分の中で
ペトロニウスさまもやっぱりそうですか。フランスの印象派もよいのですが、私も音楽といえば、まずドイツです。
音符のド・レ・ミはイタリア語ですが、クラシック音楽では、ドイツ語のA(アー)、B(ベー)、C(ツェー)・・・を使用します。それにドイツ3大B(ベー)という言葉があり、バッハ・ベートーベン・ブラームスを指します。ドイツ音楽の真髄を理解することは、演奏家はもとより親しむ者としても必要不可欠です。ドイツ在住、樫本大進という新進気鋭のヴァイオリニストがいらっしゃいますが、彼はレーピンやヴェンゲーロフなどを育てた名伯楽のロシア人、サハール・ブロン氏に師事して世界にデビューする足がかりをつくりました。けれども数年前、やはりドイツ音楽を理解するにはドイツ人のヴァイオリニストに師事する必要があると、今は元ベルリン・フィルのコンサートマスター、ライナー・クスマウル氏師事されております。
だからウィーンも良かったけれど、ベルリンにも行かなくちゃ、というわけです。
ベルリンは、おすすめです。バックパッカーで世界中放浪をされたようですが、まだかの地は踏んでいないようですね。機会があったら是非。。。
>彼ぐらいの技術がありますとフランス組曲ぐらいの曲は隅々まで神経が行き届きます。私も期待しているのですが
そうですか、calafさまお薦めでしたらきっと素晴らしいピアニストでしょうね。
calafさまの鑑定は、やっぱりバッハの演奏で判断されるのでしようね。^^
ピアニストは人材豊富で国内で多くの演奏にふれることができますが、他国のヴァイオリニストはなかなか聴く機会がありません。
今一番生で聴きたいのが、ナイジェル・ケネディです。嗚呼・・・。