蒲田耕二の発言

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10 ans de Brassens

2016-10-24 | 音楽
マリア・カラスの初版LPはひととおり手に入れたから次はブラッサンスを、と(どういう耳じゃ)eBayを漁ってみて、参ったね。10インチLPが円換算で1万近くする。

いや、価格は仕方ないが、それより困ったことに、どれもこれも盤の状態がひどいらしい。ほとんどVG、よくてEX。つまり軒並み5段階評価の上から3番目以下。

レコードを粗末に扱うことにかけてフランス人はアメリカ人といい勝負だから、EX以下のレコードなんか危なくて、とても手を出せない。使ってるプレーヤーは7インチ・ターンテーブルと圧電カートリッジ(針圧がめちゃ重)のポータブルで、壊れるまで針は取り替えない、なんてのが彼らの常態だったもんね。

あ、新品同様で1000円以下てのも結構ありますよ。でもそういうのは、初版じゃなくて70年代か80年代に出た復刻盤なんだよな。レコード番号で分かる。ジャケットもレーベル・デザインも初版と同じだが、中身はリマスタリングしまくりのギスギス痩せた音。これならノイズがないだけ、CDの方がマシだ。



そんな状況の中で、どうにか行けそうだったのが、写真の6枚組ボックスセット。デビュー10周年記念だから1963年の発売である。つまり初版ではない。

しかし、コンピューターもまだアナログだった時代のレコードだ。リマスタリングはされているとしても、当然、諸悪の根源のデジタル・ノイズフィルターは適用されていない。さらに、当時のフランスはステレオ再生装置が普及していなかったから、疑似ステレオという、レコード史上もっとも愚劣な細工も施されていないはず。で、音質劣化は比較的に少なかろうと見当つけて落札したワケです。

正解。50年代のプレス(のブラッサンスも、1枚だけ手許に残ってるんです)に比べると、わずかにギターの切れ味が鈍り、ヴォーカルの輪郭が甘くなってる感はある。マスターのSN比が劣化した分、高音を丸めたのだろう。

だが、ブラッサンスの太いバリトン・ヴォイスがあたたかな感触でぐんぐん前に迫り出してくる点は同じ。CDの冷たく刺々しい音とは全然違う。満足。

もっとも、収録曲の配列が年代順ではなく、"La geste héroïque et gaillarde"(大胆かつエッチな行い)だの "Le printemps du poète" (詩人の春)だの、テキトーなコンセプトで組み合わせてある。しかもフランス人の常で、選曲の基準が音楽無視の歌詞一辺倒だから、似たような曲調がダラダラ続く結果になって音楽的なメリハリが乏しい。

こういうところがコンピレーションの嫌なとこなんだよな。ブラッサンスの了解のもとに構成してはいるんだろうけど、他人の主観が紛れ込んでしまう。作者の初心が濁る。

以前、森進一が「おふくろさん」に無断でセリフを入れたってんで川内康範が激怒したことがあったが、あれ分かるよ。オレだって、自分の文章に他人が勝手に手を入れたらアタマ来るもん。

ところで、ディランへのノーベル賞授与、オレも基本的にイキな計らいだと思うよ。ディランがちっともありがたがらないので、選考委員は権威主義モロ出しで怒ってるけどね。

たださあ、詩人ディランがやってることって、ブラッサンスがその10年前にやってたことなんだよね。ずっと繊細なマナーで、ずっと美しい声で。その事実は、知っといてほしいです。

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